* 願い事叶えるなら *
ちょろんと一本糸がほつれてる。
気になるなぁ。
ちょっと、引っ張っちゃえ……。
「あ」
思わず、授業中に声が出てしまった。
「うわー切れたよ切れた」
学校の帰り、私は切れたミサンガを目の上に掲げながら歩いていた。
ぽつぽつと独り言を呟きながら。
七ヶ月も付け続けていたそれ。
随分前から解れ始めていたけど、
今日はついに軽く引っ張るだけで切れてしまった。
輪っか状だったのが、今は一本の紐となっている。
プラプラ揺れるそれは、私の視界から太陽光を遮ったりまた現したりしている。
「そういえば、これ結ぶときなんてお願いしたっけ」
思い出してみると……。
『何か良いことありますように!』
………。
自分のしょうもないお願いに苦笑いするしかなかった。
「でも、良いことって何が起こるんだろう!」
それが切れたこと自体が良いことだったんじゃない、
なんて言っていた友達の言葉を思い出した。
「うー…。今だったら、いいお願いが思いつくのに」
それは、最近新たに芽生えた想い。
これを結ぶ頃は、思いつきもしなかった願い。
「不二君と、両想いにしてくださいって頼むのに…」
「それは随分勿体無いお願いだね」
………は?
「でぇっ!?」
「なに、その声は」
だって…だってだって!
驚きたくもなるわよ…っ!
「不二君っ!いつの間にそこに!?」
「随分前から。独り言を聞いてるのが面白くってさ、ゴメンね」
にこりと笑う不二くんに、
私は口をぱくぱくさせるしかなかった。
そんな…まさか後ろに人が居ただなんて!
しかも本人に聞かれるなんて…最悪!!
「居るんだったら言ってよぉ…」
「ごめんごめん。あまりに面白いから」
失礼ね…。
でも、ちょっと待って私。
さっきの重大発言を忘れてないかい。
そうよ、私ってば間接的に告白しちゃったようなものなんだから!
ところで…。
「ねぇ、不二君」
「なに?」
「さっきの、その…勿体無いお願いって、どういう意味?」
先程不二君の口から出た言葉を思い起こして言った。
訊くと、不二君はにこりと優しい笑顔になった。
すると、私の耳元に顔を近づけて、囁いてきた。
『そんなこと、頼まなくてももう成就してるんだから』
耳から脳へ響いた言葉を、
私は一瞬認識できなかった。
数分ほどそのまま歩き続け、
曲がり角を越えたところで、漸く気付いた。
「……でぇっ!?」
「だからその声はなに」
くすくすと笑う不二君に、
私はそろりと紅くなった顔を向けた。
不意に目が合うと、
温かな感情に、
二人笑顔を寄せ合うだけだった。
――願い事、叶いました。
何か良いこと起こると信じて。
2003/04/04