* 煙草 *
横に座るこの人は、
いつも口に煙草を咥えている。
「煙草って美味しいの?」
「不味い」
「じゃあ何で吸ってるの?」
「お前には分からねぇ」
「何それ〜」
不味いんだったら、どうして吸うの?
どんな気持ちで、吸ってるの?
「じゃあ、どんな味?」
「吸えば分かる」
「自分では吸いたくない」
「じゃあ知らなくていい」
「…そうじゃなくてさ」
横顔に少しだけ顔を近付けて、言った。
『仁に、教えてもらいたいなって』
――初めてのキスは、少しだけ煙たかった。
煙草は自分では吸いたくない。
2003/04/02