* 最後の春 *
春麗かなある日。
所々に花が咲き乱れ始める頃。
卒業生にとって、最後の春。
卒業式の中、先輩は笑ってた。
人気者だったから。
みんなに囲まれて、いつもと変わらぬ笑顔を振り撒いてた。
それなのに、それを見ているだけで。
卒業しない私のほうが、泣きたくなってしまった。
「…菊丸先輩」
一瞬視界が歪んだのは、きっと気の所為じゃないと思う。
大好きな貴方だったから。
離れてしまうことが、とてつもなく、悲しい。
いつも見ているだけだったけれど。
それすら出来なくなると思うと、とてつもなく、淋しい。
「…あっれぇ〜?」
「?」
「君、何泣いてるの?」
「え、あ……」
気付けば、私の目からは溜まり切らなくなった雫が溢れていて。
スーっと一本の筋を頬に描いていた。
それに気付いたのは、他でもない、私が想っている先輩。
色々な人に囲まれて忙しそうだったのに。
どうして私に構うの、
なんて考える余裕もない。
身長に合わせて屈まれて、顔を近付けられる。
それだけで、どきっとしてしまう。
「3年生じゃ、ないよねぇ」
「来年から…3年です」
「卒業もしないのになんで泣いてるの?」
「それは、その…」
一瞬言葉に詰まったけど、言った。
「大好きな先輩が、卒業しちゃったから…」
それは貴方ですとは、さすがに言えなかったけれど。
言うと、更に涙が溢れてきた気がした。
息も心成しか乱れてきて、鼻を啜った、その時。
「そんなの、一年待てばいいんじゃん!」
言った先輩は、いつもの明るい笑顔だった。
予想外な声を掛けられたことで、私の涙は止まった。
「だってさ、中学校卒業っても、高校も繋がってるんだし?
どうってことないんだよねー」
「でも…」
確かにその通り。
一年待てば、また逢えるんだ。
それに、校舎は多少離れているとはいえ、同じ校内だし。
だけど、その空白が、哀しい。
なんの繋がりもなかった私たち。
一年もの空白があれば、
細く一本で繋がっていた糸も、
完全に切れてなくなってしまうような気がして。
「大丈夫!まだ、最後じゃないんだから」
「――」
「中学校では最後だけど、来年も再来年もそのまた先まであるんだよ?」
先輩は、にっこり笑うと言った。
「追いかけなよ。想い続けなよ。その先輩のこと」
「………」
「君が思い続けてる限り、関係はゼロにはならないよ」
そうか…そうだね。
一方通行だったとしても糸を繋げておけば、
また今度、手繰り寄せることが出来るから。
「オレも、君が来年高校に上がってくるの、待ってるから」
ピースサインと共に捧げられたその言葉は、
私には言い表せないほど嬉しいことで。
大したことじゃ、ないのかもしれないけど。
大勢の中の一人でしか、ないのかもしれないけど。
それでも、私はここに居るから。
貴方のことを想っている人がいるっていうこと、忘れないで。
私も、貴方のことを想い続けるから。
そうしている限り、最後の春は、
決して最後ではなくなるから――…。
菊は泣いてる人に弱く、自分より弱そうな存在には優しくなると思う。
2003/03/31