* どうしてだろう。 *
「どうしたんだ?」
「え?」
貴方に掛けられた言葉は、あまりに唐突すぎて。
返事をすることさえ、躊躇われたの。
「何があったんだ?」
「え、どうして…」
訊かれた理由が分からなくて、質問を質問で返してしまう。
ただ、声を掛けられた時の貴方の表情が、
妙に心配そうだったのが気になった。
自分に比べて随分高い位置にある目に視線を合わすべく、
少々上目遣いに顔を覗き込んだ。
だけど、視線は合わされないまま、言われた。
「なんか、授業中ずっと哀しそうな表情してたから」
貴方の言葉が優しすぎて、心遣いが嬉しすぎて。
一瞬嬉しさ以上に息苦しささえ感じた。
でも、私そんな顔してた?
表には何も出してないつもりだったのに。
自分ですら気付いてないことに、貴方は気付いてくれたの?
「いや、別に…ただ眠かっただけ」
「…本当に?」
「うん。薬飲んでる所為だと思う」
これも、一応本当。
最近疲れが溜まってるのか、体の調子がイマイチなんだ。
精神的なことも、少なからずとも響いてるのかな。
「クスリ?」
「ちょっと、風邪気味で…」
「風邪!?」
突然後ろに飛んだ貴方。
意味が分からず瞬きしていると、
「風邪がうつる!寄るな!!」
だそうです。
なによ、行き成り態度変えて…。
さっきまでは、あんなに優しかったのに。
そんなことを考えて口を尖らせた。
次のクラスの教室に入ろうとした。
ドアを開けて一歩踏み込む前、言われた。
「お大事になっ」
振り返ると、いつものちょっと顰めた笑顔が見えた。
優しいんだか、意地悪なんだか分からなくなって、
私は苦笑に近い笑顔を返した。
ありがとう、って言うのも変だけど、
余計なお世話よ、なんて言う気にもなれなくて。
それで私は、胸の前に小さくVサインをかざした。
相当驚いた。意外な一言にどっきり。
2003/03/26