* 本日限定 *












「なに、カチローの誕生日って3月2日なん?」

「……」


一週間前、俺がその会話を耳にしたのは偶然だった。
一年同士が話しているのが、ふと耳に入ってきた。
だからといってどうという訳でもなく、
普通に忘れようと思ってた…のに。

何故か、憶えてしまった……。

俺と結構近いなとか、
もうすぐじゃねえかとか、
その次の日は雛祭りだな…とか考えているうちに。

完全に頭にインプットされて、離れない。


「(くそ、なんで俺があいつの誕生日なんか…)」

そうは思うのに、今日は何故か3回もカレンダーを確認してしまった。
赤で印を付けられている日の、一つ前。
どうして、こんなに意識しているんだか…。

「荒井先輩、おはようございます!」
「ん、ああ」

……。
こんな、本人すら意識して無さそうな状況なのに。

何やってんだ、俺。



   **



「カチロー今日コートの整備当番?」
「うん」
「ふーん、大変だな。で、誰と?」
「確か池田先輩」

「……」

この会話を聞いたのは、偶然ではないと思う。
俺は池田を待つ用事があったから、部室の前に立ってたんだ。
そこを、ネットを抱えた加藤がちょこまかと駆けていった。

「じゃ、頑張れよ」
「うん。また明日」

挨拶を終えると、またちょこまかと走っていった。
危なっかしい足取りで。

…アイツ、そのうちコケるぞ?

そう思ってたとき。

「じゃ、荒井。オレ着替えてくっから」
「ん?まだ終わってないんじゃねぇのか」
「あとはモップ掛けだけだから。加藤にやらせておけばいいだろ」
「……」

言うと、池田は部室に入っていった。
視線をコートに戻すと、加藤がモップをもってまたちょこまかと歩いていた。
すると……。


「わぁっ!」


・・・・・・。


その瞬間、俺は口をあけて固まってしまった。


アイツ、本当にコケやがった…。


「痛ぁ…」

どうやら膝を擦り剥いたらしい。
砂をパパッと払うと立ち上がろうとするのだが…
直後にまた座り込んで膝を抱えていた。

なんなんだ、アイツ……。


「……しゃーねぇな」


気付くと、俺はモップを持ってコートに向かって歩いていた。


「オイ」
「!」

声を掛けると、加藤はビクッと肩を震わせた。
…そんなに、俺が怖いのかコイツは。

「荒井先輩…あの…」
「…何コケてんだ、お前」
「あ、見てたんですか…」

加藤は申し訳無さそうな恥ずかしそうな顔をしていた。
俺は溜め息を吐くと、手を差し伸べた。

「…立てるか?」
「あ、ハイ!すみません!!」

掴まれた手があまりに小さくて、驚いた。
何とか真っ直ぐ立ち上がったそいつは、
上目遣いに見上げてきながら微笑んだ。

「ありがとうございます」
「…いいから、さっさと終わらせるぞ」
「ハイ!」

俺の後ろを、加藤がまたちょこまかと付いてきているのが分かった。
もう転ぶなよ、と微妙にハラハラしてしまった。


 別に誕生日だから特別どうって訳でもねぇけど。
 今日ぐらいは、少し優しくしてやるか。

 そう、思ったのだった。






















わぁい!荒カチでい!
荒井→カチロ風味で。
荒井先輩が乙女攻じゃないね、あんまり。(そうか?)
(いつものがいきすぎかなのか、それだ)
でもこういうのも好きさ。

コートの整備って当番制じゃなくて一年全員では…?
というツッコミは激しく禁止である。

とにかくカチローハピバ。
てか堀尾とカツオって惨いよね。
(誕生日のことはすっかり忘れてる上に先に帰っちゃうんだもん)


2003/03/02