* 春風と笑顔 *
今日も快晴。
雲なんてほとんど見当たらない。
東の空に、ぽつんと一つ真っ白なのが浮かんでるだけ。
太陽が眩しい。
鳥の鳴き声が聞こえる。
新芽が、そろそろ芽を出そうかとしている。
風は優しい。
月も変わり、世界は少しずつ向かっている。
春に―――。
「やあ」
「…周助」
私はゆっくりと視線を声の主に落とした。
うな垂れた首を持ち上げる。
そこに居たのは、一人の少年。
綺麗で神秘的なイメージを持つ子。
「今日もここにいたんだね」
「うん。晴れの休みの日は…大抵ここに居る」
ここというは、公園。
町の一角の、人気が少なく小さな公園。
この静けさが、私には心地好い。
「周助も、最近良くここに来るよね」
「うん。ここの公園に、良い被写体があることが分かったからね」
「…趣味、写真だっけ?」
「そう」
その子はふっと笑った。
屈託のない、穏やかな笑顔を見せる。
思えば、私が周助と初めてあったのは約半年前。
葉が紅く色付き始めたころ。
その色に紛れてみたくなって、私はここに訪れた。
艶やかな紅葉に目を奪われて、佇んでいた。
すると、カシャッというカメラのの音。
振り返ると、そこには少年。
明るい茶色の髪は、赤の中では映えて見えた。
その少年は、言った。
『ごめん、あまりに綺麗だったからさ』
その後、ベンチに座って少し話をした。
分かったのは、不二周助という名前。
一つ年下だということ。
趣味が写真だということ。
『良く、休みの日は散歩しながら写真を撮ったりするんだ』
微笑みながら、そう言った。
その柔らかな笑顔に惹かれた。
それ以来、私は休みの日にここに来るの日課になった。
秋が終わり冬になる頃。
コートが手放せなくなって、木々が葉を落としていく時期。
そんなある日、またここで遇った。
散っていく枯れ葉に溜め息を落とすと、周助は聞いてきた。
『何か哀しいことでもあったの?』
私は首を振って否定した。
散っていく葉が、あまりに綺麗で、寂しそうだったから、と。
ただ、それだけだと言った。
それならいいのだけれど、と周助は笑った。
でも、思い起こせばあの頃からもう心奪われていたのかもしれない――。
「周助、来るの久しぶりじゃない」
「そうだね。最近寒かったから…」
さらっと風が吹いた。
頬を掠めて、髪を揺らしていく。
優しい、春の風。
少しだけ、暖かく感じる。
「今日は暖かいから、それで来たの?」
「うん。それもそうなんだけどね」
周助は、ふふっと笑うと言った。
「今日、一応僕の誕生日なんだ」
「そうだったんだ…おめでとう」
「ありがとう。……だからさ」
「?」
もう一度、優しい笑顔。
暖かくて、柔らかい、まるで春を感じさせるようなそれ。
風が吹き抜けるように、私の心をも奪っていった。
「笑って」
「―――」
言われて、自分が今まで周助の前で一度も笑っていないことに気付いた。
カメラを構えた周助は、ほら、と促した。
「僕がずっと撮りたかったのは、君の笑顔なんだ」
そのとき私は、初めて心から笑えた。
貴方の誕生日は、私の心に春を運んできてくれた。
優しい風が、もう一つ吹き抜けた――。
こういうイメージの好きさ。
ポエムチック。
年上主人公。いえい。
とにかく誕生日おめでとうでした!
2003/03/01