分からない。

あの人がどうして人気なのか。


分からない。

あの人に群がる子たちの心理が。


分からない。

あの人は、いつも何を考えているのか――。











  * 未知数の感情 *












朝、いつも通りに登校。
3年6組の教室。
自分の席に座って、急いで一時間目の宿題を始めたりして。

そんなことをしているうちに、親友の声がした。

「おっはよー♪」
「おはよ、。ところで妙に嬉しそうだけど?」
「実は、今朝不二くんが…」
「ゔ」

の言葉に対して、私は思わず硬直。

そう…実は私、
不二周助を毛嫌いしてます…。

みんなも、そのことは知ってる。

「なぁに、その嫌そうな声!」
「だって…じゃあ訊くけど、あの人のどこがいいの!?」

質問すると、は指折りしながら、
不二周助の良い所なぞをリストアップし始めた…。

「まずぅ〜、顔良し、頭良し、でカッコイイでしょ、
 スポーツ万能、家もお金持ちだし。
 それから凄く優しいし、なんと言っても笑顔が最高!!」

はキャーキャー叫びながらそう言ってきた。
すると、教室の反対側で話して居た子も、
なになに、不二くんの話ー?とか言いながら近付いてきやがった。

私はバンと机を叩くと、ガバッと立ち上がって言った。

「私の言い分!えっと…まあ顔は並だと思うけど。
 まず、私のほうが頭良い!と思う」
「まあと比べられちゃあねー。だってこの前学年トップ?」
「ふっ、まあね」

私はさっと前髪を払う動作をして見せた。
すると、鋭いツッコミ。

「でも、国語と社会は負けてたよ」
「……そこ、スーパーシャラップ、言うなら黙れ。
 次、スポーツ万能ねぇ…。テニスだけよ、テニスだけ!!」

拳を握ってドスを利かせて言ってやった。
そうよそうよ、みんな部活の姿に騙されてるんだわ!
絶対あのお坊ちゃまめ、小さい頃から
テニスだけは仕込まれてるとかそういうクチよ!
と思ったら…。

「この前男子の体育見たけど、サッカーやってて超カッコ良かったーvv!」
「走るのも速いよねー?」
「……次行きます」
「あ、話逸らした」
「ウルサイ。えっとね…お金持ちって言ってもね、
 金目当てじゃいけないよ、キミたち?玉の輿にでも乗ろうってのかい?」
「お金目当てだけじゃないよー。
 カッコいいとかに加えて、それもあったら最高じゃない?って話」

は冷静にそう言った。こしゃくな。

「世の中金じゃないんだよ!ハートよハート!!」
「だから優しいじゃん。ねーv」
「そうそう!不二くんは優しいもん!」

なんと…。
私の言葉に対し、皆が反逆してきたのだ!
(※正確には勝手にきゃっきゃ言ってるだけ)
なにさ、みんなで寄って集って私を苛めるのか!?

「と・に・か・く!私は認めないわよ…」
「えー、どうして?」
「大体優しいっていうのもね、怪しいのよ!
 あの笑顔も、なにか裏があるというか…胡散臭いし」

私はチチチ、と指を横に振って言った。
そして、息を思い切り吸うと全てを吐き出した。

「私に言わせれば、不二周助という男は、
 顔はまあまあだけど、勉強もまあまあだけど、スポーツも……。
 でも、でも…う〜、そうそう!胡散臭い!
 いつもにこにこしてるのも裏があるっぽい!
 ああいう男に関わると、ロクなこと無いわよー?」
「へー、そうにゃんだ」
「「・」」

その一言に、私を含めた女子一同は固まった。
その声の持ち主は…。

「やっほぅ♪」
「「菊丸くん!?」

ピースサインを向けたその男は、菊丸英二。
我がクラスのムードメーカー的存在。
中3にもなって、未だ猫語を使い続ける驚異的存在。
でも、面白いから私は結構好き。

しかし…菊丸が居るということは…!


「へぇ…面白い話だね」


「(居たぁ〜!!!!!)」

私は凄い勢いで後退りした。
うっ、今日もその胡散臭い笑顔を振り撒く気!?
私は騙されないわよ…このペテン師っ!!
く、来るなら来なさい…私は逃げも隠れもしないわよっ!?

そんなことを考えて空手(これでも空手歴6年)の構えをしたら…。

「不二くん、朝練終わったのー?」
「今日一緒にお弁当食べよう!」
「いいよ」
「キャー!私も私もっ!!」

「………」

なんだか、隔離された気分になったのでした。
不二周助を中心に、そこはハートが飛び交う危険地帯と化していた。

うっ…乙女チックパワーが…。
眩しすぎて目が開けられん……っ!


「…さん」
「あん?」

突然不二周助に声を掛けられ、私は不機嫌な声で返事した。
すると。

「さっきは興味深いお話をしてくれて、ありがとうね」
「どう致しましてっ!!」

私は、その場から離れて廊下へ出た。
といっても…行く宛もないのだけれど。

とりあえず、あの人の近くに居るのヤダ。
ああ、まだ悪寒がする。鳥肌立つわよ。
あの人を囲むみんなはどうかしてる。
騙されちゃいけないわよ…!

大体なによ、さっきの発言!
言いたいことがあるならはっきり言えー!
何気に厭味ったらしいと来たか…短所リストに追加ね。
あれで優しいとか言うんだから、分からないなー…。
やっぱり、みんな騙されてるとしか…。

さん」
「ん〜!?」

廊下でそんなことを考えてた私。
すると、不二周助がまたもや話し掛けてきた。
教室から顔だけ出して、例の胡散臭い笑顔で。
この詐欺師め…私の目は誤魔化せないぞ。

「みんなでお弁当食べるんだ。君も一緒に食べない?」
「断るっ!」
「あ、そう…」

凄い勢いで断ると、
不二は…一瞬寂しそうな顔、した?

・・・・・・・・・。

罠、ワナよっ!!
騙されては駄目。
きっと…演技よ演技!
そうか、実は怪人百二十二面相とか!?
恐るべし……。
指名手配に出したほうが世のためよね…。

『キーンコーンカーンコーン…』

「あ、チャイム」

仕方なしに、私は不二周助の存在する教室へ帰った。
ドアのすぐ横が席のそいつは、
私が教室に入ってくるとニコッと微笑んだ。

…だから騙されないっての!
しつこいわね……。






   **





『キーンコーンカーンコーン…』

「よーし!遂に念願のお昼休みだ!勉強とはおさらばにゃっ」
「英二は授業中も勉強してないでしょ」
「うるさーい!」

時は流れて昼休み。
相変わらず仲良いなぁなんて男子二人組を見てみたりして。

はっ、別に不二周助を見たくて見たわけではなくてよ!?
なんとなく…あの二人って目を惹くし、うん。

「今日は一緒にお弁当食べるんだよね?」
「そうだよーvv」

言われて、はハートをぶち撒いていた。
そんなに良いものかねぇ?
やっぱり分からない。

「ねぇさん」
「あ?」

なにこの人、しつこいわね…。
何度言われたって私はっ。

「なんか、クラスの女子ほとんど全員が一緒に食べるみたいなんだけど、
 さんも来ない?」
「…わ、私はいいって」
「まあ、さんがそう言うなら仕方ないけど」

そう言って、不二周助は背中を向けた。
…別に、寂しくなんか……。

「それじゃーレッツ屋上ゴー!」
「英二、文法めちゃくちゃ」
「ぐっ…レッツゴー屋上!」
「まだおかしい」
「…うるさぁい!!」

「………」

そんな楽しそうな話をしながら、
3年6組の女子一同+男子二名は屋上へ向かっていった。
教室には…男子一名、しかも根暗系。

私って………。


「ちょ、ちょっと待って!やっぱり気が変わったから
 一緒に食べて差し上げても宜しくてよ!!」

我がクラスの集団に追いついてそう叫んだ。
そしたら、は「ほーらやっぱり」と言って笑っていた。

な、なによ……。

へん、と視線を斜め上に逸らした。
すると、目が合った。
女子の中では、少し飛び出る整った顔。


「素直じゃないんだから」

『ドキッ…』


…何。
どうしちゃったの自分!?
今の少女漫画的な“ドキ”はなに!?
なんか、不二のクスって笑う顔が、
一瞬凄く優しげに見えて……。

………。

駄目、ダメよ!罠に掛かっては!!
これこそ…真の不二マジック!
これに掛かったら、それこそ一巻の終わり…。

そうよ、さっきのだって、別にトキメキってわけじゃないのよ!
ただ、ただ……。
そう、あれよあれ!
なんていうのかしら、発作?そう発作!!
不二周助のうそ臭い笑顔に体が拒否反応を起こしてるんだわ!
そうに違いない。
ってことはなに、心臓発作!?やばぁっ!!

「倒れたときは慰謝料払って頂こうじゃねぇの…」
「何か言った?」
「なーんにも!ってなに聞いてんのよこの人殺し!」
「人殺し…?」

いつの間にか隣に来ていた不二周助は不思議そうな顔をした。
なんで隣に居るの…しかも独り言まで聞きおって!
これは生かしちゃおれんな…。


「わ、今日はいい天気だにゃ!」

屋上に一番に着いた菊丸がドアを開けてそう言った。
なるほど、ドアの開いた隙間からは眩いばかりの陽が差し込んでくる。

「ぽかぽかでいい天気〜v」
「だよねー」

みんなも嬉しそうな顔をしている。
私も、お天気の日って好きだ。
太陽の光が、キラキラ差し込んでくるのがスキ。
キラキラ、きらきら…。

「こういう日は気持ちが良いよね」
「じゃ、早速食べよ!」

そう言ってみんなはお弁当を広げ始めた。
私は…うっかり輪に入り損ねてしまった。
…まあいい。
不二周助と一緒に楽しく輪になって弁当なんぞ食えん!

さん、何やってるのそんな隅で」
「私は隅が好きなんだ!」
「へぇ…」

思いっきり反発すると、またくすっと笑った。
……なんじゃ、その笑い方は!
胡散臭いと言うちょるじゃろがっ!
…くっそぅ。なんか気に食わないなぁ。
ぐぐ……。

「不二くんはテニス部でナンバー2なのぉ?」
「一応そう言われてるけどね」
「ナンバー1は?」
「手塚だよ」
「あ、手塚くん!」

集団は、なにやらきゃっきゃきゃっきゃ騒いでいた。
…あの集まり、どうも慣れん…。

さーん、こっちは楽しいよー」
「余計なお世話だってしつこいね!」

またもやこっちに笑顔で言ってきた彼奴に、
私は牙を向けて返してやった。
…なんで断られるって分かってるのに聞いてくるの?
しかも何度も何度も…。
なんか、気に掛けすぎっていうか!

……あら?


「あはは、菊丸くんって面白い!」
「こんなことも出来ちゃうよん、ほれっ!」
「キャー!!」

「……」

菊丸の一発芸の連発。
私は上の空でそれを見ていた。

…そう。
気付けば、不二周助は私のことを必要以上に構ってくる。
その度に私が突き放すだけだけど。
……。

いやいや、これはなんでもないのだよ!
なんていうかね、うん、面白がってるのだよ。
そうそれ!きっとこっちの反応見て面白がってるんだわ!
悪魔め…やはりそれがヤツの本性っ!


「あー美味しかった」
「みんなで食べると美味しいね」
「ね、またみんなで食べようよ!」
「うん、いいよ」
「キャーvv」

「………」

なんか、私って淋しい人…。
みんなが楽しくお弁当なのに、
なんでこんな隅で一人いじけてるんだべ。
いや、いじけてないけど。


「じゃ、教室に帰ったら菊丸様の一発芸の続きだにゃ!」
「ワーイ!次はどんなのー?」
「それはお楽しみ♪」

みんな、ガヤガヤと話しながら立ち上がった。
どうやら屋上から教室へ戻るらしい。

……正直、ちょっといじけてるかも…。
なんでこんなに素直になれないんだろう。
不二周助は嫌いだけど、別にお弁当ぐらい一緒に食べれるっていうか…。
ピンクな話題には遅れ気味だけど
みんなの輪の中に入ればきっと楽しかったことぐらい分かってたし…。
はぁ。なんか自己嫌悪。
素直になりたいなー。

、教室帰るよー」
「あ〜…私、もうちょっとここに居るわ」
「あ、そう?じゃあ私は行くよ」
「ほいほーい」

『バタン』


ドアが閉じられて、屋上から人は居なくなった。
今日は天気が良いのに、何故か他には人が居なかった。
ぽかぽかで気持ち良いのにな。

「………」

この、太陽を見てるだけで幸せだ。
といっても直接は見ないケド。
青い空があって、ぽっかり浮かぶ白い雲があって、
世界全体を太陽がキラキラ照らしてて、ホントに綺麗。
大好き。
この情景…。

『ガチャ』

おや、誰か来た?
今頃弁当にしてはちょっと遅いわよね……っ!?


「やあ」
「不二周助っ!?」

私は思わずガバッと立ち上がってしまった。
そう、そこに居たのは他でもない不二周助。

「ねぇさん」
「な、なによ…」
「いい加減僕のことフルネームで呼ぶのやめてくれないかな」
「五月蝿いわねペテン師っ!」
「ペテン師…」

奴は苦笑した。
なんか引き攣ってるけど、
あの似非くさい満面の笑みよりはまともじゃないの…。

「…ところで、何しに来たのよ」
「んー、ちょっと忘れ物」

なんだ、忘れ物取りに来ただけなのね。
だったらさっさと拾ってさっさと帰りなさいよ。

…でも、私は全体が見渡せる位置に居るけど、
何も落ちてなどいやしない…。

「ねぇ、その忘れ物って…」
「こーれっ」
「……はぁ?」

私は思いっきり嫌そうな声を出した。
そう…何が起こったかというと、
不二周助が私の手を握ったのだ…。

「ちょっと離してよ!」
「釣れないなぁ」
「なっ…!」

なんなの、この人は…!
調子に乗ってるというか、ふざけてるというか!

、やっぱこの人駄目よ!
あんた人を見る目無い!
地球から排除するべきだわ!


「素直じゃないなぁ」
「アンタよりましよ」
「……そうかな」

言われた言葉に咄嗟に切り替えした。
すると、不二は(あの似非くさい)笑みから
冷たげな表情に変えた。
その氷のような眼に、私は一瞬返答に困った。

「っ……そ、そうよ。アンタいっつも胡散臭い笑顔してくれちゃって!
 こっちにはバレバレなのよ全く!」

へん、と踏ん反り返ってやった。
こうなったらやけよヤケ…。


そう言ったら、アイツはまたあの笑顔を返してくると思った。
「何を言ってるんだい」ってクスっと笑って。
それがまた気に食わないんだけど、
てっきり笑い掛けてくるものだと…思ってた。

そしたら、

「…やっぱり、分かっちゃう?」

不二周助は、とてつもなく困ったような苦笑をした。


…なんだ、これ。
なんか初めて見る顔だぞぅ?

「…やっぱり、作り笑顔なワケ?」
「いくら僕でも24時間笑顔な訳ないでしょう」

…いくら僕でもというセリフはとりあえず流して、
そうか、やっぱり似非だったか…。


「いつからこうなったんだったかな…いつでも人の前では愛想振り撒いて。
 そのほうが、好感持たれるって気付いたし、上手く世渡りできるから…」

不二はそう言った。
そこはかとなく、淋しそうな笑顔で。
…笑顔は笑顔でも、
今日は不二の沢山の種類の笑顔を見る。

「今ではほとんど素なんだけどね、これは。
 でも…たまにとてつもなく疲れたって感じることがある」
「………」

なんだろう、このキモチ。
不思議…。

苦しいわけじゃないよ。
発作なんてある訳無いよ。

でも…心成しか心臓が鼓動を速めてる。


さんは、凄いね」
「え?」
「凄いよ…」

不二はまた寂しそうな顔をした。
私は自分が何故凄いと言われたのか分からず、聞き返した。

「どうして?」
「だって…普通そんなに素直に感情、表せないよ」

不二は、そう言った。
笑顔で。

作り笑いじゃない。
いつもの胡散臭い笑顔じゃない。
さっきの寂しそうな笑顔でもない。
かといって苦笑でもない。


心からの、笑顔。

少なくとも、私にはそう見えた。


綺麗な笑顔。
太陽が反射して、キラキラ光ってる。
キラキラ、きらきら…。


「僕も君ほど素直になりたいな…」


不二はそう言った。
私は、その言葉に切り替えした。

「何言ってるの、私だって…全然素直じゃない」
「…どうして?」
「だって」

スカートの裾をぎゅっと掴んだ。
なんだか、柄にもなく緊張している。

そうだ。

ずっと反発してたけど。

私は、きっと―――…。



「好きな人に、反発した態度しか取れやしない…」



「そう…」

不二は、にこっと笑った。
薄く目を開いて。

さっきの冷たい眼じゃなかった。
同じ目の筈なのに、温かい。
優しい笑顔…。


「どうしたら、素直になってくれる?」
「…作り笑いをやめてくれたら」
「了解」

気付けば、私は不二の腕の中に居た。
背中に腕を回されて、引き寄せられた体制。
頭の上に顎を乗せられて、
華奢な割りに実は私なんかより全然大きい身長に気付いた。
ポカポカの日溜まりの中。
温かい、腕の内。


私は不二が好きだったんだ。
きっと、ずっとずっと昔から。
でもそれがみんなに人気がある人なのが悔しくて、
わざと反発するような態度を取っていたんだ。
みんなと一緒に、周りでキャーキャー言うことなんて、
悔しくて、悔しくて、涙も出やしないから。


「もうこれからは、素直になってくれるんだよね」
「うん…」


現に、今の私は静か。
いつもだったら、空手技でも掛けて即行に腕から脱出してるわ。
調子に乗らないでよペテン師!の言葉と一緒に。

これからは、素直になろう。
ううん、素直にしてくれる。
私の好きな、この人が……。


「…ねぇ
「ごへ!?」

行き成り名前で呼ばれて、ちょっと戸惑ってしまったり。
謎の声を出してしまったけど、周助は続け…あ、
私も自然と…周助なんて言ってるしね。

「あ、ごめん。ビックリした?
 でもいいでしょ、名前で呼んでも」
「…別に、良いけど」

こんな言い方しちゃう当たり、
まだ素直になりきれてないなぁとか思う。
まあ、照れや恥ずかしさも半分だけど。

「で、僕のことはなんて呼んでくれるの?」
「……不二」
「え、どうして?」
「い、いいじゃない。フルネームからは脱出よ!」

そう言って横を見ると…、

「ま、それでも構わないけどねv」

あの、胡散臭い笑顔!!


「ぎゃわぁ!!」
「約束破ったのはだよ」
「…ごめんなさい」
「分かれば宜しい」

…本当だ。
優しい、じゃんね。
今までへりくだった見方しかしてなかったけど。
…素直じゃないのは、やっぱり私のほうかな。


「ねぇ
「なに、……周助」
「僕ってさぁ」

周助はすっと私から体を離すと、
正面に回り込んで、指折りしながら言ってきた。

「顔はまあまあで、勉強もまあまあで、スポーツもまあまあで。
 胡散臭くて裏があるっぽい関わるとロクなことがない男…なんだっけ?」
「あ、それわ……;」
「それから…人殺しにペテン師、だったかな」
「ごめんなさぁ〜い!!!」

にこっと笑った周助だけど、それは素直な笑みじゃなくて。
だからといって作り笑いじゃなかった。
何かというと…怒りが滲み出た笑み。

私たちは走った。
屋上中を凄いスピードで。
といっても追い付かれないってことは、
スピード緩めて走ってくれてるんだろうけど。

…それもなんか悔しいけど、でも許しちゃう。


このまま、ずっと走っていたいから……。



「ちょ、しゅすけっ…ちょっと、タンマ」
「捕まえたっ」
「あ、タンマって言ったのに…」

息を切らして止まった私。
すると周助は抱き付いてきた。

…胸の中で、幸せだな〜とか思う。
午前の私からじゃ、想像も付かないこと。


「…そろそろ昼休み終わるんじゃない」
「じゃ、帰ろうか」

周助はそう言って体を離した。
でも、今度は手を握ってきた。

温かいなって、思う。


「あ…このまま教室に入ったら、みんなビックリするかな」
「どへぇ!?」

周助の突拍子な発言に、
私は焦って手を離してしまった。
だって…ねぇ?

「なに、嫌なの」
「嫌…じゃないとは思うけどなんというか恥ずかしいような申し訳ないような…」

しどろもどろ言う私の手を、
周助は再び握ってきた。

「いいじゃない、本当のことなんだから」
「…だけど」
「いいから、素直に行こうよ。ね?」
「……ハイ」

私は、肯定の言葉を放つしかなかった。
見上げた周助の顔。
優しい笑顔で、そこに太陽がキラキラ照り付けてた。

「あ、そうだ。さっきの子たちにはお断り入れないと」
「?」
「お弁当、これからは二人だけで食べようね」
「…了解」


今日、私は少しは素直になれたのかな?

もっと素直になれば、もっと貴方に近づけるかな?

どうしたらもっと素直になれるかな?



考えて、一つの結論に出た。
なんだかんだいって、まだ述べていなかった言葉。


「…周助」
「なに、


 『スキダヨ…』


これでまた、私は少し素直になれた気がするんだ…。


「僕もだよ」


相手もまた、偽りの無い笑顔で返してくれた。
後ろには、青い空と白い雲。
そして、キラキラ輝く太陽。


少しずつだけど、素直になれる。

貴方の、笑顔の魔法。


そう感じた、ある日の昼下がり。






















不二様万歳!(崇拝)
大好きですよーこのかた。

始めのほう書くの結構楽しかった…。(こら)
ボロクソ言ってますが、でもそれは素直になれない主人公故。
許してやってくださいね。

不二の笑顔は無敵さ。
でも、たまにあの人は作り笑いしてるんじゃないかなー、
と思って出来た作品。
実際はどうなんでしょうね。

ところで最近私の書くドリームの主人公はぶっ飛びすぎな気がしてきた。
どうにかならんものか。(本人の性格が滲み出ているらしい)


2003/02/23