「悪い手塚、今日ちょっと用事があるんだ。
 申し訳ないけど…部誌と鍵閉め頼む!」
「ああ、分かった」
「………」

部活も終了して、部室で着替えているとき。
大石と手塚の会話を、ふと耳にした。

いつも、みんなが帰った後二人は一緒に部誌を書いている。
それで大石が鍵を閉めて、部誌を竜崎先生に届けるみたいだ。

そうか…今日は大石が居ないのか。
大石は急いだ様子で着替えると、そのまませわしい足取りで部室を後にしていった。

つまり…今日部室に残るのは手塚一人?


そう悟った瞬間、僕の中にある大きな黒い羽が
バサッと音を立てて開いた感じがした。











  * ブラックエンジェル *

  〜悪魔の心を持った天使〜












話を聞いて、僕はわざとゆっくり着替えた。
ボタンを一個外すのに、一分近く掛けた。
脱いだ服をいつもの倍以上丁寧に畳んだ。
そうしているうちに、いつの間にか部室の中は僕と手塚だけになった。

「…不二、どうして今日はそんなに着替えるのが遅いんだ」
「んー?色々と考え事してたらね」
「そうか」

手塚は僕の様子を少し気にしながらも、
部誌を開いてなにやら書き始めた。
僕はさっさと着替え終わると、手塚の向かい側に座った。
いつもなら、ここに大石が座ってるのかなー、ずるいなー、
なんて思いながら。

「……不二」
「ん、なに手塚」
「…どうしてそこに居る」
「居ちゃいけない?」
「…そうは言わないが…」

にこにこと笑う僕に対し、
手塚は眉間に深い皺を寄せたまま部誌にペンを走らせた。

書く部分もあと少し、というところで、
僕は思い切って手塚に言った。

「ねぇ、手塚」
「…ん?」
「スキ」
「……」

僕は手塚の目をじっと見詰めて言った。
手塚のほうはというと、呼ばれて視線を上げたものの、
僕の言葉を聞くとまた部誌に視線を戻した。
全て書き終え部誌をパタンと閉じると、立ち上がりながら言った。

「…質の悪い冗談はやめろ」
「僕が冗談で言ってると思う?」
「――」

僕もゆっくりと立ち上がった。
そして、真っ直ぐに見据える。

手塚は少したじろいで、視線を逸らせた。

「何を言う…」
「僕は本気なんだって」

僕は手塚に一歩一歩近付いた。
合わせて、手塚は一歩一歩後退りしていく。
そのまま進んでいくと、とうとう手塚は壁際に追い詰められた。

僕は、手塚の後ろの壁に両手をダンとついた。
手塚の顔は僕の影に掛かって、少し見難い。
でも…困惑して恐怖が覗いている表情を言うことだけは、分かった。

僕はずいと顔を近付けた。
手塚は体を引こうとしたみたいだけど、それ以上後ろにはいけない。

「手塚…好きだよ」
「不二、落ち着け!!」
「僕は正常だよ…いや、狂っているけど」
「っ!!」

顔を更に前に出し、強く唇を押し付けた。

美味しい。手塚の味。

危険な思考だとは分かってるけど、止められない。
舌も中に入れてやって、全体をまさぐる様に舐め取った。
全てを味わって、全てを感じ取った。

オイシイ、キモチイイ、シアワセ。


「……ふ、じっ!こんなことして…どうなるか分かってるのか!?」

口を離すと、手塚は僕の体を突き飛ばした。
まだ整わない乱れた息は、肩を上下させている。
垂れた唾液を拭いながら、手塚は声を張り上げた。

手塚が叫ぶなんて、珍しい。
僕は敢えて、きょとんとした声色で言った。

「分からない。僕狂ってるから」
「ふ…ざけるな!」

相当手塚は動揺しているのか、
その場にあった椅子を僕に向かって突き飛ばすように投げ払ってきた。
僕はそれを交わすと、また手塚に近付いた。

「ふざけてないよ。君への気持ちは、本当だから」
「五月蝿い!」
「…ごめんね」
「謝るな……お前は、悪魔のくせに…!」

手塚は錯乱した状態のまま、僕に暴言を吐いてきた。

でも…その暴言もまた、僕にとっては事実。


「そう…僕は悪魔。汚れてしまった天使。堕天使なんだ」
「不、二……?」
「白い翼を失った天使は、もう」


  空を飛ぶことは出来ない――…。


「不二っ!?…っ」
「手塚…もう、僕は汚れてしまったんだ」

再び手塚に掴みかかると、抵抗するのも強引に首筋にキスをした。
手塚の体がびくんと跳ねた。
その隙に、服のボタンも外してやって、前を肌蹴させた。
今度は、その胸にキスを落としていく。

「何をっ……あぁ!」
「本当は、君の顔を正面から見ることすら許されない」

心のどこかに突っかかりがあって、僕は一瞬動きを止めた。
手塚は不思議そうに見上げてきた。

「不二…?」
「でも、僕はそんなの耐えられない。だから」

 『一緒に、堕ちていこう――』

「くっ…やめろ!やめるんだ!」
「手塚…僕を、一人に…しないで……」
「不二……」

動きを再開して、手塚の服を全て剥いでいく。
露になっていく綺麗な肌。
それに、痕を付けていく。

僕のモノだから、もう放さないっていう、印。


「不二、落ち着け…ぁっ!」
「手塚…その中途半端な抵抗、余計煽ってるって気付いてる?」
「知るかっ…!」

僕がなんと言っても、手塚は腕を前に出して
必死に僕の顔を近付けないようにした。
無駄な抵抗、なのにね。

「僕は君より力は無いけどさ…」
「…?」
「こうすると、力入れることも出来ないでしょ」
「っ!」

上半身への愛撫は終ワリ。
そろそろお楽しみの時間。

僕は、手塚の中心を、そっと撫でてやった。
瞬間に身体がビクッと跳ねる。
その隙に腕を取り払って、再び深い深いキス。

「んっ…ゃぇ…ぉっ!」

口を塞がれてもまだ、
喉の奥で抵抗の声が聞こえた。
それがなんだか気に食わなくて、僕は舌を出来るだけ深く差し込んだ。
声も出せないぐらい、深く深く。
手塚の顎と額に手を当て、強引に顔の角度を変えることで、更に深く。

「んっ!…ん、ふっ…」

引っ切り無しに、切なげで苦しそうな声が聞こえてくる。
そんな声出したら、僕がもっとヤル気出しちゃうって、分かってるの?

「ぅ、はぁ…っ!」

口を離すと、二人の間を銀色の糸が伝った。
僕は舌を出して、その糸を掬いあげる為にもう一度手塚の口元まで迫った。
唇は当てずに、舌だけを唇に這わせた。

美味しい。オイシイ。


「ねぇ手塚…もう、いいでしょ?」
「何がだ!!」
「僕…もうゲンカイだから」
「っ、やめ…」

手塚が言い終わるより先、僕は手塚のズボンに手を掛けた。
抵抗する腕を払いのけて、下着も一緒に一気に下まで下ろしてやった。
中心のモノは、男を主張し大きくそそり立っていた。

「ほら…手塚だってなんだかんだいって感じてるんじゃない」
「うるさ…っ」
「僕も、手塚をもっと感じたい」
「何をす…!!」

言いながら僕は自分のモノを取り出し、手塚の足を持ち上げた。
チラリと視線を落とすと、そこは先走った液で既に濡れていた。
キツイかもしれないけど…痛いかもしれないけど。

「手塚…ダイスキだよ」
「ちょっと待て、お前っ」


 『一緒に、堕ちていこう?』


「ぁ、うわあぁぁぁっ!!」
「やっぱり、キツ…っ」
「やめろ、不二、抜いてくれ!!」

僕は、手塚の後ろを目掛けて一気に挿し込んだ。
やはり慣らしてなかった所為も有り、そこはなかなか僕を受け入れてくれなかった。
先端を挿れただけなのに、手塚は痛みに泣き叫んでいた。
ミシミシという感触が、僕にも諸に伝わってくる。

「ヤダよ…このまま、僕は手塚と一緒になるんだから」
「頼む、フジ…お願いだ!!」

こんなに哀願してくる手塚なんて、初めてだった。
でも…そんな手塚を僕は可哀想だなんて思わなかった。
見ていて、嬉しくて仕方がなかった。

「ぅ、ぁ、ぅぁああっ!」
「力抜いて、手塚。余計苦しいよ…」
「ハァっ…あ、うぅ!!」

こんな苦しそうな手塚見るの、初めて。
今日は初めてのものが多いや、なんてそんなことばかり考えていた。

僕は悪魔だから。
普通の人間の思考は持ち合わせていないのかもしれない。
……ゴメンネ。

「不二っ…やめ、ろっ!」
「やめられない。もう、止まらないよ…」
「…っ!!」

少しずつ滑りが良くなってきて、
僕は手塚の中を大きく動き始めた。
対して手塚は、まだ拭い去れない痛みと戦ってるみたいだった。

何しろ、結合部分からは、凄い量の…血。

「手塚…痛い?」
「痛い、に決まってるだろう!!…っく」
「…一緒に、キモチ良くなろう?」
「何を……あっ!」

僕は、僕らの身体の間にある手塚のモノに手を掛けた。
掴むと、直に熱い感触が伝わってくる。
ドクドクと波を打つように。
色は赤。流れ出す血とはまた違う、赤。

「僕…そろそろゲンカイ…」
「不二、ぁ、やめ…っ!!」
「手塚も…一緒にイコ?」

手塚は後ろの痛みと前の快感が混ざり合っているのか、
複雑な表情をしていた。
いつも以上に眉間に深い皺が寄って、
切なそうな、何かを求めているような。

「手塚…イク、よっ!」
「んっ、あぁぁぁっ!!」

僕が中に全てを吐き出し、
手塚も辺りに白い液を解き放ち、
僕らはほぼ同時に果てた―――。







解放感に打ちひしがれながら、僕は自身をズルリと手塚の中から抜いた。
紅白の混じった液が、厭らしく流れ出てきた。

手塚は、眼を閉じたまま肩を上下させて苦しそうに呼吸していた。

「……手塚」
「―――」
「………」

応答がなかった。
揺すってみても反応がなかったので、
どうやら無視しているわけではなく、意識を失ってしまったらしい。

「……」

そんな手塚の表情を見て、何故かゾクッとした。
背筋が凍るような、不思議な感覚。


起きたら、どんなことを言ってくるんだろう。
どんな表情をするんだろう。

幻滅されるかもしれない。
会話すらしてもらえないかもしれない。
視線すら合わせてもらえないかもしれない。


「……ゴメンね」


天使に戻れなくなった天使。
黒くて大きな翼を持った、
悪魔というなの堕天使。

それが…僕だから。


「悪魔くせに…謝って、ゴメンネ」


額にそっと、キスをした。
どうせなら、このまま目覚めなかったら一番なのに、とか思いながら。




 悪魔は、一人の天使を犠牲にした。

 大きく純白な翼を持った、天使を。

 供に、堕ちる為に。


 白い羽を失った、堕天使。

 もう、天国から地獄まで、堕ち続けるしかない――。






















悪趣味と言うなら言うが良い!(悪趣味ー)
天使とか悪魔ネタって好き。堕天使って響きが好き。
不二って、例えるなら黒天使(ブラックエンジェル)って雰囲気だよなー
という妄想の基から発生。
まあつまりは狂った不二を書きたかった。(待たれ)
相手を手塚にしたのは、なんか適任っぽかったから。不二塚書きたかったし。
そう、何気に不二塚初作品!裏表合わせて初!!(裏々が初か!!)

こういう話好きなんですよ。
エンディングが、意味深に終わっちゃうやつ。
その後はご想像にお任せってか?
(書いてると楽しいけど読んでる分にはどうだろう…中途半端かしら?)


2003/02/19