* before ten days go by *












それは、ある冬の晴れた日。


「…ただいま」
「裕太?」

耳に染み付くほど聞いたはずの、何故か懐かしい声。
それを聞いて、不二周助は紅茶のカップをソーサーに下ろした。
立ち上がって廊下へ出てみると、はたと目が合った。

「……なんだよ」
「いや、帰ってくるなんて珍しいなと思って…」

そう。不二裕太が家に帰ってくることは、滅多になかった。
寮でトレーニングに励む日々で、余程のことが無い限り
長い休日を例外として、帰ってくることはまずない。

それが、何の変哲も無い日に、帰ってきた。
予想外の行動をする弟に、周助は不思議に思った。

すると、裕太は溜め息を深く付き、荷物をその場に下ろしながら言った。

「忘れてんのかよ。オレ、今日誕生日だぜ」
「ああ、だから!」

ポン、と周助は手を打った。
お前忘れてただろ…という顔で裕太は周助を睨んだ。
しかし、そのきつい表情はふっと崩れた。
すると、今度は何か勝ち誇ったような笑みで、言った。


「だからこれから10日間、オレは兄貴と同い年だ」


真っ直ぐ見据えてくる瞳。
周助は暫く固まった。
…その沈黙の後は、また朗らかな笑みに戻ったけれど。

「なんか…裕太らしいねその発想」
「ば、バカにするな!言っておくけど、オレは今お前と同じ立場だぞ!!」

ハイハイ、と周助は裕太の肩に手を置いた。
心の中でふと、前は頭の上に乗せるのが癖だったのに…と微笑したりした。

「10日後には、また先に行くからね」
「…その余裕綽々発言ムカツク」

裕太の不機嫌そうな顔には関せず、不二はふふっと優しく笑った。
その笑顔に裕太は一瞬不満そうな顔を見せたが、
荷物を拾い上げるとバタバタと駆け出した。

「今日は姉貴がかぼちゃ入りカレーと苺たっぷりのショートケーキ
 作って待ってるはずなんだよな!」
「…まだ子供だね」
「なにぃ!?」

そうして、暖簾に腕押しのようなケンカが、また始まるのだった。
裕太がいくら突っかかろうと、周助は見事にかわしてしまう。
埒が明かないと悟ったのか、裕太は

「…ったく。いつもオレの先をひらりひらりと超えていきやがって…」
「ん、なんだって?」
「なんでもねぇっ」

裕太の独り言を、周助は聞こえなかったのか聞こえなかったふりをしたのか…。
周助は、にこりと笑うと裕太に言った。

「あ、そうだ裕太。まだ言ってなかったよね」
「あん?」


 『お誕生日おめでとう』



それは、ある晴れた冬の日――…。






















…裕太BD記念SS第2弾。
ユタ不二のつもりが終わってみればやはり不二ユタだったという素晴しい作品。(逝ってよし)
うーん。兄弟ネタをナレーター式でやると辛いね!
不二のこと周助なんて呼んだの初めてだよ。

裕太は必要以上に兄貴のことを意識。同い年だとつけあがり。
不二は弟のことを子供扱いしつつも、ちょっと大きく感じてしまったり。
この微妙感溢れる不二兄弟に万歳だぜ!


2003/02/18