「あら、そろそろお父さんが帰ってくる時間かしら」
「……」


母さんの声に、僕はなんとなく気を惹かれた。


離れて住んでいても、
繋がっている家族のことを…。










  * ファーストコール *












「……裕太に電話してみようかな」
「まーた、だから裕太に嫌がられるんだって」

僕の独り言に、姉さんは笑いながらやめろと言った。
でも…今日は特別な日だから。

「…今日なら、許してもらえるような気がするんだ」
「何よそれ」

不思議そうな顔をする姉さん。
僕は、母さんが電話を終えると同時に入れ替わりで受話器を手にした。


『ピポパポピ』


もう何度か掛けた、この番号。
指が自然と数字を打ち出していく。

繋がってからの暫くの時間、
期待感でドキドキしているような、
ガラにもなく緊張しているような。


『はい、聖ルドルフ学院男子生徒寮です』


そのアナウンスのように慣れた口振りで話す人に対し、
僕は自分の弟の名前を呼んだ。
少々お待ち下さい、の言葉の後、
優に3分は超える間。

ふうと溜め息をついた頃、漸くガタガタという音。
そして…。

『……もしもし』
「あ、裕太?」

電話から聞こえたのは、聞きなれたものの声。
そして、いかにも不機嫌そうな。

「…寝てた?」
『……そうだよ。てめぇに起こされたんだ』

兄さんにてめぇはないだろう、と言うと、
てめぇなんかてめぇで十分だクソ兄貴、だそうだ。
その言葉が、何故か温かく感じられて、僕はふふっと笑ってしまった。

『…なに笑ってやがる』
「あ、ごめんごめん」
『……ったく』

酷くぶっきらぼうな口調だったけど、
声は、優しく聞こえた。

『で、今日はなんの為に掛けてきたんだ?
 まさかオレを叩き起こすことが目的じゃねぇだろな?』
「ん〜…それも半分かな」
『なにぃ!?』

安眠を妨害されてやはり不機嫌そうだった。
でも、それすらも愛しく感じてしまうのは、何故だろう…。

『…じゃあ残りの半分はなんなんだよ』
「それなんだけど…裕太、今日朝から僕以外と喋った?」
『あん?今起きたばっかだよ!アナウンス掛けられたけど…喋ってはいない』
「良かった」
『?』

受話器の向こうから、不思議そうな顔をしているのが見えるようだ。
電話を通して、表情など伝わりはしないのに。
決して音を出したわけではないのに。
それなのに分かってしまうのは…大きく言うならテレパシー、というやつかな。

「朝一番に、言いたかったからさ」
『…なんだよ、もったいぶらずに言え』

ちょっと苛立ちが隠せなくなってきた様子。
それに対して、僕は笑顔で言った。


 「お誕生日おめでとう、裕太」


…そのセリフを述べた後は、暫くの沈黙が続いた。
その沈黙の間も、驚いている表情が目に浮かんだ。
なんとなく、くすりと笑ってしまった。
僕がその驚いた表情を読み取れたように、
向こうには僕の笑顔が浮かんでいるのだろうか?

『…な、なんだよ!それだけの為に電話したのか!!』
「それだけってなんだよ。折角兄さんが弟に愛を込めて…」
『ウルサイっ!! ガチャン…ツーツーツー』
「………」

言葉の途中で受話器を置かれてしまい、
僕は眉を顰めて電話と睨めっこをした。
何となく、向こうの照れたような顔が見えた気がした。

「……ふふっ」

誕生日プレゼントは、成功だったのかな?なんて、
なんとなく笑ってしまった。


心の中で、もう一度呟いた。


 ――ハッピーバースデー、裕太。


なんとなく、笑っている顔が、見えた気がした。
























初めて不二兄弟ネタに挑戦。ずっとやりたかったのに出来ず終いだったのが遂に!
兄貴攻な気配。ユタ不二も好きですけど。
この作品は裕太が受子ちゃんでどうしようもなくなってしまったよ。萌。

兄弟同士には、なにか元々テレパシーに似たものが備わっていると聞いたことが有ります。
実際それがどのように感じ取れるのは私も分からないんですが…。
ちょっとそれを意識して書いてみました。

続編(てかオチ)が漫画部屋にあります。
あほらしくてやってられないですが。

とにかく裕太BD記念でした。おめでとう!


2003/02/18