* ぎりぎり決着 *












「………」


朝から、神尾は妙なほど緊張していた。
何故なら、今日は年に一度の重大行事、バレンタインデーなのである。


神尾がそんなにも緊張しているのも、理由がある。
彼には、好きな女の子が居るのだ…。
それは、同じクラスでも有り、部活の部長の妹でもある、橘杏である。
最近結構良い仲になってきたし、
もしかしたら!?と思っているのである。


「(…でもま、貰えなくてもともと!軽い気持ちで居るか)」

そう頭を切り替えた…つもりの神尾だが、
なんだかまた杏のことをチラチラ見ている自分が居たわけだった…。



  **



時は流れて、放課後。
神尾は部活へ行くために歩いていた。
が、その足取りは心なしか重い。

それは、どうやら杏に何も貰えていないから…らしい。
なんだかんだいって、期待で一杯だったのだ。
それまで、杏は神尾に何も渡そうとする素振りはなかった。

「やっぱり…貰えないのか」

神尾がそう溜め息を吐いたとき。


 「神尾くん!」
 「!?」


後ろからの声に反応して、神尾はばっと振り返った。
そう…その声の持ち主は、
橘杏そのものだったのだ。

「杏ちゃん!どうしたんだい?」
「実は、神尾くんに渡したいものが有って…」

神尾は頭の中で葛藤していた。

「(まさか杏ちゃんが俺に!?いやいや、そんな美味しい話があってたまるか…。
 でも、なんら不思議は無いぞ?そうか、杏ちゃんも俺のことを!?
 いや、あんまり期待すると裏切られるからな…)」

神尾は疑いの目で杏の動きを追った。
すると、杏の鞄の中から出てきたのは小さな小包。

「はい!」
「えっ?これを…俺に?」
「うん。そうだよっ。一応…手作りなんだ。美味しいか分からないけど」

杏はこれまた可愛らしい笑顔で言った。
神尾は…嬉しさで一杯だった。
どれくらいかというと、それはもう昇天しそうな勢いだった。
心の中で、叫んだ。


「(やった〜〜〜〜!!!)」


もしかして、俺達って晴れて両思い?
そう思って杏に言おうと思ったとき…。

「あ、伊武くん!」
「…は?」

やってきた伊武に、杏は駆け寄った。
神尾は、なんだかとっても嫌な予感がした。
黙って二人の会話を聞いてみると…。

「…はい、これあげる」
「なにこれ…」
「チョコレート!義理チョコなんだけど、一応手作りだよ!
 テニス部の人全員に配ろうと思って」
「ふーん…どうも」

「(ズッゲェーン!!!)」


神尾は、一人ショックを受けて固まっていた。
どうやら…やはり一人で空回っていただけらしかった。

「はは…俺ってこういう役だよな」
「そうそう」

口を挟んできた伊武に言い返す気力もなく、
神尾は地面に打ち伏せるのだった。



ちなみに、その後杏は先ほどより大きな包みを持って、
青学へと旅立ったそうな。




終わり。






















…ぎゃっ、すみません!!(土下座)
我が家の神杏のコンセプトは神→杏→桃(×海←乾…以下略)なんです。
やられ役な神尾が好き。めちゃくちゃヘタレ。最高。
杏は確信犯です。神尾が自分のこと好きなの知っててあえて
“神尾くんに”渡したいものがあってとか、
手作りなんだということを伝えて、
義理チョコだということを言わないんです。
神尾が喜んだりショック受けたりするのみて、楽しんでるんです。(苦笑)
もう、言うなら玩具状態。(うわっ!)
黒確信煽り受杏万歳。こんなのだけど神杏が好き。

一応バレンタインの記念ということで日記に書きました。恐るべし根性…。
題名のぎりぎり決着は最後の決断…みたいな意味らしいですが、義理と掛けてます。(微笑)哀れなり。


2003/02/14