あの人に、こっちを向いてほしいと思う。

でも、自分にはそんなこと言い出す勇気が無いから。

言わないんじゃなくて、言えないの。


ねえ…オレのこと、どう思ってるの?











  * mutual relieve shackle *












オレと大石は、仲が良かった。
いや、今も仲良いんだけど。
でも…最近は、一番じゃなくなってる気がする。
前は、ゴールデンペアということもあって、すっごく仲良くて。
部活中はもちろん、休み時間も登下校も一緒だった。
学校の後とか休みの日とかに、お互いの家に行くこともあったし。

ところが最近。
大石は部活中ほとんど手塚と一緒に居る。
部長と副部長だから仕方がないや…と思うけど、
でもそれだけじゃないんだ。
休み時間とか、二人が一緒に居ることが増えた。
オレが大石の教室に遊びに行くと、
3回に1回は大石は手塚の教室に居る。

オレと仲が悪くなったわけではない。
今までとほとんど変わらない。
ただ、少し一緒に居る時間が減っただけ。それだけ。
でも…酷く、寂しい。



そんなオレは、最近不二と仲が良い。
テニス部では特別仲良いって感じじゃなかったんだけど、
今年になって同じクラスになってから、一緒に居る時間が増えた。
この前の席替えでは、席が隣になったし。
お陰で、今では親友と呼べる仲。

不二には、オレが大石を好きだってことを伝えた
凄く驚いた顔してたけど、ちゃんと相談に乗ってくれた。
最近一緒に居る時間が減ったとか、手塚と仲良さそうだとか。
解決はしていないけど、話すことでオレは幾らか救われた気がする。
それに、不二はいつでも笑顔だから、一緒に居るだけで落ち着く。
恋愛感情とは別の意味で、オレは不二のことが大好きだ。


不二は…優しい。
優しすぎて泣きたくなるくらい、優しい。
相談すれば、まるで自分のことぐらいに心配してくれる。
言いたくないことは、無理に聞き出そうとしてこない。
少しぐらい問い詰めてもらわないと言い出しにくいにゃあ、って思ったこともあったけど、
不二は前、こんな言葉をくれた。

『言いたくないことだったら、言わなくていいよ。なんて、
 こんなこと言ったら本当に何も相談してくれなくなるかもしれないけど。
 …でもね、英二自身が考えて、それで言い出さないといけないと思うんだ。
 そうしないと、自分のためにならないからね。
 ま、相談ならいつでも言って。ちゃんと聞くから』

この言葉が、オレの支えでもあって、枷でもあるんだ。



相談に乗ってもらっても、大石と手塚が仲良いのは相変わらず。
オレが登校して教室に向かう途中、
廊下で楽しそうに話している二人に出くわす。
そこは、いっつも地面を見ながら突っ走る。
やっぱり…辛いんだ。
毎日そんなことが続いて、オレの気持ちはパンクしそう。
手塚と一緒に居る時に楽しそうに笑う大石を見て、もう、限界。




   **




「エイジ……英二!」
「はにゃ!?」
「どうしたの、ぼーっとしちゃって」
「あ、いや、にゃんでもにゃい…」
「そう…元気出してね?」
「ん……」

気付けば、オレは教室でもぼーっとしていたみたい。
ずっと考えてて。一つのことばっか。
心配掛けちゃいけない…と思ってもつい暗い表情になっちゃう。
どうにかしたい、こんな自分。
いっそ不二に理由を聞いてほしい…と思うけど、
不二のほうから訊いてくることはほとんどない。
前言った言葉どおりだ。

かといって…自分から言い出す勇気もない。
不二はオレが大石のこと好きだって知ってるけど。
それでずっとオレが悩んでたことも知ってるけど。
でも…本当に悩んでることって、自分からは言い出し難い。
そうして、オレは何も相談できぬまま、一人で落ち込んでる。
バカみたい…こんな自分。

「………」

何か言いたげだけど、不二は何も言ってこないまま。
オレは一人で落ち込んだまま、一日過ごした。




   **




今日は、竜崎先生の用事で部活は休み。
学校が終わったら、そのまま家に帰ることになった。
大石は…部活のことで打ち合わせをするから残った。手塚と。
本当にそれだけの理由か、分からない。
もしかして、一緒に居たいだけじゃないの…とか。
悪い方に考えちゃってるだけ…かもしれない。
でも…やっぱり今、自分が滅入ってるなって、分かる。
なんていうか、情緒不安定って感じ。




帰り道、まっすぐ家に帰らないで、道草を食うことに決めた。
展望台がある、小高い丘があるんだ。
そこからの風景、大好きなんだ。
今度大石にも、教えてあげようと思ってたんだけど……。


オレは、展望台の上に登った。
フェンスに寄り掛かって、遠くを見る。
少し黄色くなってきた青い空。
…心が洗われる。
とても落ち着く……。


「あれ、英二」
「…不二?」

後ろから掛けられた声に、オレは驚いて振り向いた。
不二が展望台に上ってきたんだ。

「どうしたの、こんなところで」
「不二こそ…」
「ん〜…実は、英二の後を付けて来てたんだけどね」

不二は笑顔でそう言った。

なに?不二ってばストーカー!?
…そんなことはないと思うけど。しかも選りによってオレを。

「どうして付いてきたの?」
「なんかさ、今日英二元気ないなーと思って」
「そう…」

…いつも一緒に居るからかな?
不二には、全部気付かれちゃう、オレの気持ち。
だからといって、無理に聞き出そうとはしないし。

「……大石と手塚のこと?」
「…うん」
「そっか」

…と思ったら、不二のほうから訊いてきた。
珍しいな。どうしたんだろ、今日の不二。
それほど今日のオレがおかしかったってこと?

不二は静かにオレの隣に歩み寄ると、
柵に捕まって遠くを見ているオレとは反対の向きで、
柵に寄り掛かるような体制になった。

「――僕ね」
「…うん」

不二は、空を見上げながら口を開いた。
不二はいつもオレの話を聞いているばかりで、自分のことは滅多に話さない。
何を、言うつもりなんだろう…。



「好きな人が、居るんだ」

「―――」



…そう、だったんだ。
オレってば、いつも不二に相談ばっか乗ってもらってたけど、
不二も……辛かった、のかな?

誰だろう、不二の好きな人って。
訊こうかと一瞬思ったけど…不二の言った言葉を思い出した。
向こうがこっちにそうしてくるように、こっちも訊かないでおこう。
言いたくないことなのかもしれないから。


「…その人はね」
「うん…」
「時折、凄く淋しそうな表情をする」
「……」
「守ってあげたいって、思うんだ」


不二は体制を変えて、オレと同じように柵に捕まって遠くを見た。
オレは、不二の横顔だけを見ていた。

好きな人について語る不二は、とても綺麗に見えた。
本当に、その人のことが大切で大好きなんだろうなぁ、って思った。
でも…不二が綺麗に見えたのは、夕陽が当たっていたからも有るし、
その夕陽を見て眩しげに睫毛を半分伏せていたからだと思う。
キラキラ光ってて、でも少し切なげな表情は、
寒気がするほど綺麗だった。

その不二は、ゆっくりと口を開いて、
丁寧に言葉を紡ぎ出していった。

「…でもね」
「……なに?」
「その人には、別に好きな人が居るんだ」
「――」

不二は伏せ目がちになった。
その顔を見ているだけで、オレの心臓はキュンとなった。

辛いんだ…不二も。
オレだけじゃない。辛いのは。
皆、それぞれ悩みを抱えてるんだ。


オレは不二から目線を移して、また空を見上げた。
不二も、同じように顔を上げた。
二人肩を並べて、同じ方向を見る。


――遠くを見た。
ずっと、ずっと遠くを見た。
少し沈み始めた太陽が、オレンジ色に眩しかった。

一筋の風が吹いた。
涼しくて心地好いような、肌寒いような。

不二がゆっくりと口を開いた。


「人を好きになるのって、難しいや」


溜め息交じりの言葉が、心に妙なほどに響いた。

そのときの不二の表情は、儚くて。
愛しい何かを見るみたいに、細めた目で夕陽を見ていた。
その一瞬は、太陽なんかより不二の方がずっと眩しく見えた、

「…英二は、大石のことが好きなんだよね」
「う、うん…」
「そっか…」

不二はフェンスに寄りかかってた体を起こすと、
数歩前に歩いてから、振り返って言ってきた。


「頑張ってね」


そう言ったときの不二の表情は、笑顔だった。
笑顔には違いないのだけれど。
でも、何かを隠しているような淋しげな笑顔だった。

歩き去っていく不二の背中に、それ以上声を掛けられなかったのは、
不二の切なげな表情が気になったのと、
何を言えばいいのか、分からなかったから、だ。





   **






「(どうしよう…)」


オレは、昨日から今まで以上に不安定な状態にある。
昨日、不二のあの表情を見てから。
オレは大石のことが好きだったはず。
でもどうして、不二のことばかり考えてしまうのだろう?

今朝、大石と手塚が一緒に話しているのを見た。
いつものことだ。
それを見るたび、オレは劣等感に駆られていた。
でも…今日は辛くはなかった。
それより、頭の中は不二のことで一杯で。
考える余裕がなかったのかもしれない。


教室に入ると、いつも通り不二はそこに居た。
隣の席。必ずオレより先に来て座ってる。

なんら変わりのない笑顔で、不二は言ってきた。

「英二、おはよう」
「おはよ…」
「どうしたの、まだ元気ない?」
「いや、そんなことにゃいにゃい!!」

考え事をしてて思わず暗くなってしまったオレ。
不二に下から覗き込まれて、はっとして気付いた。
慌てて手を振って否定した。
不二は必要以上に心配してくれちゃうから、余計な心配掛けたくないんだ。

「そう?何かあったら言ってね。相談に乗るから」
「ん、ありがと」

不二はいつもそう言うけど…
言えるわけないじゃん。
オレが、不二のこと好―…


「―――」


不二のこと……何?
オレ、不二のことどう思ってるの?


「どうしたの、英二。そんなに目、大きく開いて…」
「いや、大丈夫だって!不二ってば心配性さん!」

にゃはは〜♪と、オレは不二の肩を叩いた。
それ以上は不二は何も訊いてこなかった。

でも…オレの心は、ずっと強く脈打っていた。
オレ、不二のこと…好きなの…!?

そんなことないない!
オレは大石のことが好きで…。
不二も他の誰かのことが好きで…。
オレにとって不二は、相談相手でもあって、親友で…。
それだけだってば!
まさか、恋愛感情だなんてそんな!


でも…じゃあ…。


この脈動は……なに?





   **






一日、何も無いかのように過ごした。
いつも通りの明るいオレに戻って、元気に振舞った。
でも…本当は、心の中ドキドキしてる。
まだはっきりとは分からない。けど、

オレ、不二のこと…スキ、みたい。


そう認めると、なんだか妙なほどすっきりした。
そうか、自分は不二のこと好きだったんだ…って。
でも、じゃあ、オレの大石への気持ちはなに?
不二へはこの気持ちは伝えるの?

…大石への気持ちは、もう振り切ったのかも。
もっと大事なものを、見つけたのかもしれない…。

…気持ちを伝えることは、出来ない。
不二には、別に好きな人が居るんだから…。


『言いたくないことだったら、言わなくていいよ』


…こんな不二だから、直接言わなきゃ何も変わらないだろうし。
結局は、このまま…か。
まあ、友達同士っていう関係も、嫌いじゃないし。

このままでいよう。
それでいい。
オレはそれで…満足、だ。


…と、思うのだけど。
どうして、こんなに心臓が苦しいの?
イタイ。痛いよ…。

どうしよう。オレってば、いつのまにか
不二のこと、どうしようもなく好きになってたみたい……。
本当は前からだったの?いや、オレは大石がずっと好きで…。
昨日の、あの丘の上での出来事。あれだけ。
あれだけのことなのに、もう不二のことが頭から離れない。

フジ…不二……。

タスケテ…助けて。



 ――英二自身が考えて、それで言い出さないといけないと思うんだ。



不二の言葉が聞こえた気がして振り向いたけど、後ろには誰も居なかった。
前の不二の言葉が、頭の中で繰り返されているだけだと分かった。


「えーい菊丸英二!元気だせい!こんなじゃ不二に心配掛けるだけだい!」


自分のほっぺを叩いて、そう叫んだ。

まあ…本心をいうと、
心配掛けても良いから、構って欲しい…というのが一つ。

でも、不二に好きな人が居る限り…

心配掛けてまでして構ってもらっても、ムダ。






   **





「英二、今日は元気そうだな」

部活が始まってちょっとのとき。
オレと桃が話してるのを見て、大石が寄ってきた。
大石の言葉に対して、オレはピースを向けて返事をした。

「うん!充電完了、なーんてにゃ!」
「良かった。最近元気ないから心配してたんだぞ」
「ん。もう大丈夫…」


元気なかったのは、大石の所為なんだけど…。

と、心の中だけでそっと呟いた。
それ以上は、何も求めない。
オレの気持ちは…少しずつ変わってきてるから。


「英二」
「ほぇ?」
「無理しないでね」
「うん!大丈夫」

後ろから声を掛けてきた不二に、オレは笑顔を向けた。
不二も安心したような表情をした。


  ホントウハ、ナキナガラデモイイカラ スキダトツタエタイ。



「…不二」
「ん?」
「今日…さ、一緒に帰ってもいい?」
「…うん、いいけど…なんかあったの?」
「ん、ちょっとね」


オレは不二のことを誘った。
これからどうするのかということもはっきり決めぬまま。





   **





「じゃ、英二。帰ろ」
「うん」

約束通り、オレ達は肩を並べて部室を出た。
門を抜けて、道に出て。
伸びる影を前に見ながら、歩幅を揃えて歩いた。

暫く無言で歩いてたけど、
不二が気を遣ってくれたのか、口を開いた。


「で、英二は元気になったの?」
「うん、もうほとんど平気だよ!」

大石のことは、もう大丈夫になったから。
今度は…不二のことばかり考えてばかりだけど、とは言えなかった。

「そっか。それは良かった」
「……」

不二は、優しそうな笑顔をした。
…オレは、不二のこの笑顔がスキ。
温かくって、心が落ち着く。
なのに…今はその笑顔を見てるだけで心臓がきゅんとする。


「でも英二、無理しないでよ?何かあったらすぐに…」
「だぁーいじょうぶだって!」

心配そうな表情でこっちを見てくる不二に、
オレは元気な素振りを見せて言った。
そうしたら、不二も安心したような表情をしたから。
それでいいんだと思った。



そうして暫く歩いた。
笑い話とかも混ぜて。

でも最後の最後、道が別れるとき。
不二が、また明日、って言い出す前に。
オレは不二に訊いた。


「――ねぇ、不二」
「…なに?」

一瞬言うか言わないか躊躇ったけど、
ここまできたら訊くしかないと思って、思い切って口に出した。


「好きな人に好きな人が居るのって…辛くないの?」


訊くと、不二は目を大きく明けて固まっていた。
きっと、突然の質問に驚いたんだと思う。
暫く固まっていたけど、数秒後にふっとその表情は解けて、
いつもの穏やかな笑顔になった。

「なに、英二は突然…びっくりするなぁ」
「答えてよ!」
「………」

話題を逸らそうとする不二に、オレは声を張り上げた。

知りたかった。不二がどんな気持ちでいるのか。


不二はオレのことを鋭い目付きで見てきたけど、
ふっと視線を空に移すと、話を始めた。

「…もちろん、辛いよ」
「……」
「そこら辺は、英二も分かるんじゃないかな」

言われて、オレは何も言わずに首だけを倒して返事をした。
すると、不二は厳しかった表情を崩して、ふふっと微笑した。

「でもね、好きな人が幸せなら…僕はそれでいいと思うんだ」

そう述べた不二は、とても格好良かった。
自分の意思がはっきりしてて、凄いなって思った。
でも、オレにその気持ちは分からなかった。

「…不二は、凄いね」
「そう?」
「だって…オレには分からない」

空を見ている不二とは逆に、
オレは地面の一点を見ながら話を始めた。

「確かに…好きな人が幸せならいいかもしれないけど、
 オレはヤダ!ただの幼い我が侭かもしれないけど…。
 大石のときだって辛かった!手塚と幸せになってほしいなんて、
 とてもじゃないけど思えなかったもん!!」

いつの間にか…涙が溢れそうになってきていた。
それをギリギリのところで、瞬きで掻き消した。

不二の視線が突き刺さってくるように感じられる。
…どう思ったんだろう、オレがこんなこと言って…。


「…まあ、本当のことを言えば、僕もそうなのかもしれないけど」
「――」

不二の声がなんだか淋しげに聞こえて、オレは顔を上げた。
目が合うと、不二は悲しげな眼なのに、口だけを笑わせて。

「でもさ、絶対叶わないって、分かってしまったら、さ……」


……気の所為だろうか。

そのときの不二の目に、
涙が溜まっているように見えたのは……。



「…英二、頑張って大石と幸せになってね。応援してるから」



それだけ言うと、
不二は背を向けて自分の帰り道を歩み始めた。

オレは暫くそこに立ち尽くしていたけど、
数分経ってから漸く不二の言った言葉が脳に到達して、はっとした。


「不二……もしか、してっ!?」


オレは地面を蹴った。

自分の家への道じゃなくて、
さっき別れた者が歩いていった方向へ向けて。

全身に力を込めて、全速力で走った。

息が切れそうになった頃、夕陽に重なってあの人が見えた。


「……不二っ!」
「英二、どうして…!?」

振り返った不二は、少し目が赤くて。
夕陽の所為かとも思ったけど、
そうではないと濡れた瞳が示していた。


不二の細い肩を両側から掴んで。
オレは、言った。

「不二…オレさ」
「………」
「ずっと大石のこと好きだったけど…」
「えい、じ……」

崩れてしまいそうな華奢な身体を、
強く強く抱き締めて、本心を伝えた。

「不二のこと…好きみたい」
「う、そ…っ?」

不二は信じられないという風で、驚愕の声を上げた。
だからオレは、嘘じゃないよって耳元言った。

「だって、英二は、ずっと大石のことが好きで…」
「だから、もう吹っ切れたって。
 いつの間にか…不二のことのほうが大切になってた」
「ホントに…?」
「本当だって」

オレはゆっくりと体を離した。
すると…不二の目からは滴が零れていた。
頬を伝った涙が顎からぽたりと垂れた。


「ねぇ、不二は?」

ずっと今まで訊けなかった言葉。
言われた台詞が気になって言えなかった言葉。
それ以上に、返事が怖くて言い出せなかった言葉。

今、全てを打ち明かす。


「不二は、誰が好きなの?」


オレの言葉に対して、不二は涙を流しながらも、
満面の笑みになった。
そして次の瞬間、オレの体に飛びついてきた。
首に腕を回したまま、不二は言ってきた。

「僕も…英二のこと、大好き!」
「良かった…」

オレは、不二の背中を抱き返した。
幸せだった。
本当に本当に嬉しかった。


「…ねぇ、不二」
「なに?」
「好きな人が幸せなら、それでいいかもしれないけど」
「……」

 『自分も好きな人も幸せだと、もっと嬉しいね!』


そう言うと、自然と笑顔が重なった。

自分も、好きな人も。

好きな人の、好きな人も。

みんなみんな幸せになれれば、それが一番。



 大きな大きな夕陽が、強く真っ赤に輝いていた。
 明日の朝を迎える勇気を、僕達に与えながら。






















菊不二ですね。不二菊の予定だったけど。
とりあえず二人をラブくしてみた。最終的にはね。
ああもう、二人大好きだよ!(激白)

この作品、いろいろと思い入れが深いです。
英二さんが悩んでるのは、自分が悩んでる時期に書き始めたからだと。
最終的には、かなり気に入った作品に仕上がりました。
自己満の世界ですけど。(苦笑)

イントロの部分は、話の序盤として大石に向けてるんだか、
前フリとして不二に向けてるんだか…。
どっちとも取れて素敵でしょ?(素敵でしょって…)

題名の意味は、“お互いを安心させる枷”のつもり。(分かり難い)


2003/02/09