* 量<質<気持ち *
バレンタイン当日。
部活に来た桃城は、両手にチョコレートを抱えていた。
ドアを蹴って開けた桃城。
中に居たのは…海堂だけだった。
「おっす海堂!」
「……」
相変わらずのことだが、海堂は桃城に返事をしなかった。
桃城は、なんでぃ、と口を尖らせながら自分のロッカーに向かった。
といっても、隣なのだが。
隣へやってきて、海堂は漸く桃城の大荷物の存在に気付いた。
「…それ……」
「あ、これ?いやぁ、オレってモテるから?」
といってもほとんど義理だけどな、と桃城は笑った。
対して海堂は、じっと桃城のチョコを見続けていた。
「……なに、お前も欲しいわけ?」
「んなっ!そんなわけねぇだろ」
「そうかいそうかい。薫ちゃんは今年もゼロ個だからな。羨ましいだろうね」
桃城はからかいを込めてそう言った。
海堂は…実は下駄箱にはチョコは入っていたのだが。
敢えてそれは伏せたままで、言った。
「大体、そのチョコは贈ったやつがお前に食って欲しくて渡したんだろが」
「義理だけど?」
「関係ねぇ」
そう言って海堂は深い呼吸を一つ吐くと、
頭にバンダナをキュッと巻いた。
そのとき、桃城は何かを閃いたのか、鞄の中をごそごそと漁りだした。
目的の物を見つけると、それを海堂に向かってほうった。
「ほれ海堂、それやる」
「?」
投げられたものを片手でキャッチすると、海堂は眉を顰めた。
「なんだこれ…パンじゃねぇか」
「おう。本当は部活終わったら食おうかと思ってたんだけどよ、やる」
「別に要らね…」
海堂は貰ったものを返そうと桃城を見直すと、
桃城は片手を前に突き出してストップのサインを出した。
「そのチョココロネはな、オレがお前に食って欲しいと思って渡したんだよ」
「………」
「受け取ってくれるよな?」
「…けっ」
海堂は、そのパンを無造作にロッカーに放り込んだ。
そして、なにも言わずに部室を出ようとした。
しかし、ドアにノブを掛けたそのとき、桃城が声を掛けた。
「なあ海堂、オレの言ったことの意味分かる?」
「あぁ?」
早くその場を抜け出したく不機嫌な声を出した海堂だが、
桃城のなにか裏のありそうな笑顔に、固まった。
桃城の唇が、心を紡いだ。
『気持ち、篭ってるんだぜ』
「っ!」
「ちゃんと食えよー」
「……フン」
直後、桃城はいつものおちゃらけた笑顔に戻っていたが、
海堂は不覚にも一瞬ドキッとしてしまったのだ。
弁当の残り物のようなもので…そう思うのだが、
心は思考とは別に動いた。
訳も分からず高鳴る鼓動に戸惑ったまま、
海堂は部室を出ると凄い勢いでドアを閉めていった。
「…スゲー勢い」
独りになって、桃城は着替えながら
先ほどの自分の行動に笑ってしまった。
「我ながら唐突な思い付きだよな。ま、年に一度の行事だし?」
量より質。
質より気持ち。
らしくなく女々しい思考だと思って苦笑いをした。
その後、小さく呟いた。
"Happy valentine..."
恥ずっ!なんだこいつら!!(吐血)
まあ、一番恥ずかしいのは自分ということで。
こういうのもありじゃない?桃海っぽいでしょう?海桃じゃないでしょう!?
ちなみに桃城のチョコの山をじっと見てたのは嫉妬なのよ。乙女海堂万歳。
テーマが前に書いた桃海BD小説と似てますね。
2003/02/07