「好きだよ」

「――」


突然の告白に、私は胆を奪われた。











  * sunny-side up *












「今日も良い天気だな〜っと♪」


窓際の、陽が良く当たる席。
この季節、ポカポカとしててとても気持ち良い。

遠くでチャイムの音がする。
教室中を生徒がバタバタと忙しそうに駆け回ってる。

それも落ち着いてきた頃、私は机に突っ伏して窓の外を見上げた。
少し陽光が眩しくて目を細める。
そのまま、瞼がとろんと閉じられて、
危うく眠りの世界に……

 「こら」

陥るところ、だった。




「……大石」

私は、隣の席の大石秀一郎君に軽く頬を叩かれ現実に引き戻されたのでした。
良い気持ちだったところを覚醒されたので、私はご不満であります。

「何するのよ、折角人が良い気持ちで寝に入ろうとしてたのにぃ…」
「もう授業始まるぞ」
「う……」

……そう。
今は、チャイムが鳴ってから先生が入ってくるまでの
微妙な数分間の中なのでした。
言い返せなくて口篭った私に、大石は呆れたような表情で言って来た。

「そんなに寝たいなら休み時間のうちに寝ればいいだろう?」
「だって、休み時間は遊びたいもん」
「…お前な」
「何よ、正直な気持ちを言っただけでしょ?」

そこまで言うと、流石に向こうも何も言ってこなくなった。

さてさて、もう一眠り…と、思ったところ。
先生が固い面して教室に入ってきた。


「起立」

学級委員――ようするに大石――の声で、皆ガタガタと立ち上がる。
でも私は、机に突っ伏したまま動かなかった。
眠かったのも有り、ちょっとした反抗も有り。

私の席は窓際の一番後ろから2番目。
下手に動かず、こうやって小さくなってればきっと先生にも見つからない。
だけど…大石はこっちをじっと見てきて全然「礼」と言おうとしない。
飽く迄も…私が立ち上がるのを待つつもりだな?
よぅし。こうなったら意地でも寝続けてや…

さん、起きてくれるかな」

……。
ちょっと待て。

がどうにかしたのか?」
「いえ!なんともないで御座います!!」

眼鏡を吊り上げる先生。
私はガバっと立ち上がった。

「気を付け、礼」
「「お願いします」」

皆礼をして席にガタガタと座る。
隣に立つ者も、飄々とした表情で同じく。


コイツ……!


思いっきり睨みつけると、
目が合ってニコッと微笑まれた。

何か言ってやろうと思ったけど、
自分が悪かった手前文句も言えなかった。


……勝てない。

そう認識して、私は首をがくっとうな垂れた。




  **



授業は全く楽しくなかった。
教科は、私の嫌いな英語。
授業の内容はそこまで嫌いじゃないんだけど、
教師がイヤ。最悪。

これでも私は、小さい頃一年弱アメリカに住んでいた。
といっても小さい頃だし期間も短かったから
文法も単語も全然使い物にならないんだけど。
でも、発音にだけは自信がある。
体が覚えてるって言うの?知らないけど。

とにかく…この教師の発音聞いてて苛々する。
自分が上手いと勘違いしてるのがアウト。
…っていうか、英語だけじゃなくてこの先生
日本語だけでも喋り方変なのよね。
発音だけの次元じゃないわ。
東京生まれ東京育ちって言ってるけどあの訛りは何!?
あ〜苛々する!


苛々。いらいら。イライラ。

やっぱり、こういう授業は寝るに限るっていうの?
そーっと、大石の様子を伺う…。
それによって寝るか寝ないか決めよう。よし。

「……」

な、なんか凄い真面目そうな表情してるんですけど…。
英語、好きなのかな?
いやいや、アイツはどの授業でも真面目だしな。

寝たら怒るかな?なんか厳しい表情してるし。
しかし裏を返せば集中してるから気付かないという説も…。



……よし決定。

寝よう。


「(お休みなさぁ〜い!)」

そう心の中で言って、
私は机にゴロンと頭を倒した。





…しかし。




「でぃす いず、あ〜…びゅーてふぉー」



……死。


安眠妨害。
人権無視。
著作権違法。

…なんか違う気もしてきたけど。



つまり、何が言いたいかというと、
この教師の発音が耳についてしまい、
なかなか良い気持ちで眠りに落ち着けないのです…。
作戦か?おぉ?


ちらりと隣を見てみた。

相変わらず真面目な表情で、少し楽しそうだった。



…なんでこれが楽しいんだろ。分かんない。




  **





結局眠れぬまま、授業も終盤。
いつもの定番、雑談コーナーになっていた。
というか、教師の勝手な知ったかぶりである。

くそぅ。
知ったかは帰れー。
つまんねぇよー…と、思ったけど。


今日の内容は、何故か“タマゴ”についてだった。


タマゴといえば…。



「ねぇ、大石ってテニス部でタマゴって呼ばれてるんでしょ?」
「別に直接呼ばれてはいないよ…」
「あっそ」


まあ、そんなどうってことない理由なんだけども、
何となく今日は話も聞いてやろうかな、という気になった。



「え〜というわけで、英語で目玉焼きは“ふらいどえっぐ”とも言いますが、
 太陽の面を上に、という意味で“さにーさいどあっぷ”とも呼ぶんですね。えー…」


ふーん…。
サニーサイドアップ、か。
sunny-side upってとこ?
あの先生の喋り方は解読も大変だわ。
まず、日本語だったのかゴリラ語だったのかも分からないし。

ま、それはさておき。


お日様の面を上に、ねぇー…。
なんか、可愛い名前じゃない?




『キーンコーンカーンコーン…』


「それではこの辺で、本日の、えー…授業をぉ、終わります」
「お、神の救い!」
「……起立」


思わず声を張り上げる私に苦い表情をしながら、
大石は号令を掛けた。
私は伸びをしながら立ち上がった。
次の教科は…げっ。国語だ。
また眠くなる教科ですか…。


「気を付け、礼」
「「有り難う御座いました〜」」


さて、誰かのところに遊びに行こうかな〜、と思ったとき。





…また来た。



「なぁに、大石くーん?」
「何だその喋り方………お前、授業中寝ようとしてただろ」
「だから何さ」

最近、くん反抗気味で御座います。
いや、前からか、前からだ。

「眠いのは分かるけど、注意する側にもなってみろ?」
「じゃあ大石は注意される側になってみてよ!」
「いや、俺は学級委員だから…」
「んじゃ、仕方ないじゃん」

そういうと、大石は黙り込んだ。
よっしゃ、勝利ー。


「それにね、言っとくけど私結局一度も寝てないんだよ?」
「威張るな、それが普通だ」
「あてっ」

コツンと拳を額に当てられる。
…なんか悔しい。

「次の授業は寝るなよ」
「だからさっきも寝てないってば!!」

遠ざかっていく背中に思いっきり吐きつけた。


う〜…なんか、調子狂うなぁ。
大石と居ると、上手く向こうの調子に乗せられてる気がする…。
主導権握られてるっていうか。
あー悔しい!!

でも、どうしてこうケンカばかりかなぁ…。
私は何もしてないよ?
いつも向こうから…………ホントか?
いや、多分ウソ。
私からか…いやいや、突っ掛かってくるのは向こうだ。
じゃあなんで突っ掛かってくるんだ?
……私がなんか悪いことしてるからだ。
突っ掛かって来てるんじゃなくて、注意してきてるんだ。
ってことは、やっぱ原因私?あはv

別に、嫌いって訳じゃないのよ?
ケンカばっかしてるけどさ。何気によく話すし。
喧嘩するほど仲が良いっていうし!
じゃあ、好きなのかって訊かれると――。

訊かれると……?


『キーンコーンカーンコーン…』


「―――」
「どうした、。口開けて…」
「え、あらヤダ」


どう思ってるんだ、私――……?





  **





授業中、私は文字通り寝ずに考えました。

考えながら、隣の席をチラチラと見上げてみたりして。
そしたら偶に目が合って、微笑まれたりとか。
笑顔に対して、あかんべぇを返してやったケド。


話してて嫌じゃないとか。
寧ろ楽しいとか。
一緒に居ても悪い気はしないとか。
寧ろ落ち着くとか。

ノート取ってるふりして相性占いしてみたりとか。
相手の名前を書いちゃ消して書いちゃ消してしてみたりとか。
相合傘を書いたけど別れ傘にしてみてでもやっぱり全部消してみたりとか。

色々、色々考えた。
無い知恵振り絞って考えた。




結論。

私は、大石のことが…スキだ。



そう分かったと同時、チャイムが鳴った。




  **



3時間目と4時間目、体育と家庭科。
よって男女は別授業。

だから、顔合わせずに済んだ。
ちょっと、時間割に感謝してみる。

だって…今までは意識してなかったから平気だったけど、
気付いちゃったから、どんな表情すればいいのか…分からなくて。

あわわ…ほら、今も。
考えるだけで、心臓ドキドキいってくるもん。
こんなこと…なかったのに。
気付かないほうが良かったのかな?
いやいや、気付かなかったら進展もないままのところだったわ!
こうなったら…なんとしてでもカレカノの関係になってやる!!


…と。
勝手に私だけで盛り上がってたけど…。

向こうは、どう思ってるんだろう――?





  **





午前の授業を終え、お楽しみの昼休み。
鞄からお弁当を出してるとき、丁度友達が廊下から呼んできた。

!」
「あ、
「ねぇ、今日すっごく良い天気だからさ、屋上行かない?」
「賛成〜」
「じゃ、決まりね♪」



こうして、私たち二人は屋上へやってきた。
屋上は広いから、他にも幾つかお弁当を食べてるグループがあったけど、
全然狭くない。


「見て見て!今日のあたしのお弁当…ジャジャーン!」
「わぁ、オムライス!」
「あたしの大好物なんだぁ〜v」
「へぇ」

はフォークを握り締めてとても嬉しそうにした。
さて…私のお弁当は――。

「――」
「…?」


別にどうってことない。
でも、何故か私は固まってしまった。

お弁当箱の中には、
美味しそうな目玉焼きが入っていた。

「わぉ、のお弁当も美味しそうだぁねー」
「なにその喋り方」
「お互い、タマゴ料理で奇遇ですな!」
「た、タマゴっ…!」

さん、今その言葉は私には禁句で御座いましてよ!
あぁーなんか無意味に動揺してるよ自分っ!!

…なしてそんな慌てちょるん?」
「え?あー…そ、そうだ!
 英語で目玉焼きってサニーサイドアップって言うんだって!」


…訳分からん。
自分でそう思った。
全然慌ててる理由になってないもん…。


「へー…なんで知ってるの?」


…敢えて突っ込んでこない友情に感謝。(いや、素だろうけど)

「今日さ、英語の授業で…」
「えー、良くあの授業聞いてられるね!あたしすぐ手紙か爆睡〜」
「いやこれがさ、私も寝ようと思ったんだけど…」

こうして話に花が咲くこと15分。
そろそろお弁当が食べ終わろうというところ。
先に食べ終わったが、お弁当箱を包み上げると、
腕時計を見ながら言った。

「…さてと。あたし今日委員会の仕事あるんだ」
「うん、分かった。頑張ってねー」
「じゃね〜」

謎にスキップのような走りをしながら、
は屋上の階段を下りて行った。
私も早く食べ終えなければね。

一人になって、私は空を見上げた。
太陽が、眩しく輝いてる。
青い空と白い雲のコントラストが綺麗。
いいな…こういう日。



「♪」



いい気分で、最後の一口の目玉焼きを食べようとした時――。


「一人で食べてるのかい?」
「――」


私は玉子を口に入れる直前で固まった。


間違いない…この声は!


「大石!?」
「なんだ、そんな驚くことないだろう」
「どうしたの、こんなところで」
「いや、さっき向こうで食べてて食べ終わったから教室戻ろうかと思って…」
「そ、そうなんだ」

いかんいかん。
なんで動揺してるんだ自分!?
クール…そうだ、冷静になれ!

「それで、どうして一人で食べてるんだい?苛めか?」
「ち、違うわよ!今丁度一緒に食べてた子が委員会に…」
「そうか」


何よ…この人調子狂う。
…意識してるから、余計かな?

言葉に詰まって、
私はさっき食べ掛けだった玉子を口に入れた。
もぐもぐと噛んでいると、大石は空を見上げながら言った。


「――今日」
「ん?」
「良い天気だな…」
「……うん」


私も、空を見上げて言った。

お弁当箱を綺麗に片すと、ゆっくりと立ち上がった。
そして、少し離れた場所まで歩いてから、もう一度空を見上げて言った。


「私が寝たくなる気持ち、分かるでしょう?」
「まあな」

私は後ろを振り返りながら言った。
すると、大石はくすりと笑った。

笑うと…凄い優しそうな表情するんだ。
今まで意識してないで見てたけど…これも、大好きなのかもしれない。

「でも、だからって授業中はいけないぞ」
「くぅー、まだ言うか!!」
「当然だろう?」


こうして…またケンカです。
あーあ。どうしてこうなんでしょう。
まあ、楽しいからいいのかもしれないけど…。





 軽い口喧嘩。

 別に勝敗がどうとかじゃなくて、

 一緒に会話を交わしている、

 その瞬間が大切だったんだ。





「…という訳で、もう絶対に寝るなよ」
「へぇーい…」


結局私が折れて、ケンカは終了。


「…ね、大石」
「うん?」
「どうしてうちら、ケンカばっかなんだと思う?」
「…さぁな」
「なーんでだろ…」

屋上の柵に腕を掛けて地上を見下ろしながら、言った。
晴れてることもあって、凄くいい眺め。

…ケンカの理由なんて、本当はさっき考えて大体分かってるんだけど。
でも…相手の話も少し聞きたいな、なんて。


「喧嘩するほど仲が良いってか?あはは」

わざとらしく笑ってやって、後ろを振り返った。
すると…大石は固まってた。

「…大石?」

「……なに」


突然大石の表情が真面目な感じに切り替わったので、私は焦った。
いつも話してるときの穏やかな表情じゃなくて、
授業中ふと見せた、横顔みたいな…。


「いつ言おうか考えてたんだけどさ」


そこからの一言一言は


「俺」


全てはっきりと聞き取ったけど



のこと」




最後の一言を聞いた瞬間




「好きだよ」


「――」




私の意識は、宙を舞った。






 自分もそうだと認識した日に、突然の告白。

 上手く出来すぎた話だけど、現実。





「わ、!!」

「〜〜〜〜」





衝撃的なセリフに、

文字通り意識を奪われた私は、

そのままふらりとよろめき、

屋上のコンクリの床に、

頭を強く打ち付けるのでした。





 遠退いた意識。

 その中でも、一瞬見えた。



  真上に、大きな太陽―――。






















どうでもいいから大石夢が書きたくなった。そして書いた。(爆)
うへへへ…いいじゃん、人生こんなもんだよ。
大石がキャラ違うです。なんか黒かったり喧嘩っ早かったり。
(まあ黒さは原作公認らしいので。自分は見てないですが)
包容力無さそうです。爽やかさが足らんです。(ぉ
いいんだ、青春ラブなんだ!やつらだって中学生だしな!!

とりあえず適当に書き始めて、途中で題名決めて、
そして題名に沿って話を考えたという…そんな作品。
私の場合よくあるパターンなんです。
話の前に題名を考えることもあります。(なんと)
するとかえって思いついたり。
(それでか、話の趣旨が前半と後半で違ったりするのは/禁句)

久しぶりの大石夢。楽しくかけました。
そしてやっぱり好きだと認識しました。愛ラブタマゴ〜!!(落ち着け)


2003/01/24