* 月の終わり *

  -indian sky-












俺は、部活の帰りに河原に来た。いつも通り自主練をするためだ。
しかし…ラケットを握るどころか、立ち上がる気さえ起きなかった。
土手に座って、水が有りのままに流されていくのを、ただただ見ていた。

今日部活が始まる前、竜崎先生に呼ばれた。
俺と、桃城が。
何かと思えば…。



「オレ達が…」
「ダブルス!?」


これにはさすがに驚いた。

「ああ、今部員全員の能力から考えると…
 お前ら二人がバランスが良い」
「「………」」
「確かにシングルスとしても欲しい戦力じゃが、
 まあ、ダブルスでもやっていけるだろう」


…とのこと。

確かに、桃城とは一度だけダブルスを組んだことがある。
しかし…まさかそれがペアとして固定されるなんて、思っても見なかった。


「それじゃあ、今日から早速ダブルスの練習を入れるから…」
「ちょ、ちょっと待ってくれよバアさん!どうして、よりによって
 オレがコイツなんかとダブルス組まなきゃなんねんだ!?」
「こっちそお断りだ」
「んだとぅ!?」
「やめんかい!お前たち!ったく。…いいかい、
 青学が全国へ行くためには、お前たちが協力することが必要なんだよ。
 これからは喧嘩なんてやめて、しっかりとやるんだよ!」
「「……」」

思わず、俺と桃城は目を合わせて固まってしまった。


結局、ダブルスの練習をしたが…ロクなもんじゃなかった。
試合のときは上手く動いてるように思えたが、
実際は見てみると穴だらけで。
不二先輩と河村先輩のペアに、コテンパンにのされた。

苛付きばかりが募った。

お互い動きまでもがギクシャクしているのが分かった。
だからといって、どうすることも出来ず。

「……」

大石先輩と菊丸先輩に申し訳なくてならない。
二人の代わりを勤めるなんて…無理だ。


「なーにやってんだ」
「……桃城」

土手の上から声がした。
振り返ると、桃城は微妙な笑顔をして下りてきて、俺の隣に座った。

「…今日は越前と一緒じゃないのか?」
「ん、なんか学校に用事があんだってよ。
 そういうお前こそ、今日は自主練しねぇのか?いつもここでラケット振ってたろ」
「……」


俺は何も言ううことが出来なかった。
頭の中に浮かんできたのは、昔のテニス部。

誰がこんなことになると予想していただろうか。
ただ、純粋に勝利を目指して、我武者羅に走り続けていたあの頃。
もう、戻れない、遠い日々。
失ったものは、戻ってこない。

現実なんだ、これが。
いくら強くなったって、ラケットを振ったって。
何も戻ってこない。




ふぅ、と桃城が溜め息を吐くのが聞こえた。

「今日滅茶苦茶だったしな、オレ達」
「………」
「これじゃあゴールデンペアの二人に示しが付かねぇや、とか」
「?」
「考えてんじゃねーか、お前」
「……」


確かに、図星だった。

どうしてコイツには、俺の考えてることが分かるんだ?


「お前は色々考え込みすぎだ。この前もそうだけどよ。
 いつまでもくよくよしてたって始まらねぇんだから」

そう言って、桃城は笑った。
コイツは、嫌なヤツだけど、ヤなヤツだけど…。
でも、良いヤツなんだ。

何故かは分からないけど、コイツに言われると
そうなんだと思ってしまう。


腹を括った。


「…他人は関係ない。俺は俺のテニスをする」
「お、らしくなってきたじゃねぇか」
「足は引っ張るなよ」
「うるせー!それはこっちのセリフだ!!」

立ち上がって、ラケットを取り出した。
いつもより時間は遅めだが、そうせずにはいられなかった。

「あ、そうだ海堂!」
「なんだ」
「どうせだから、どっかで打ってかね?」
「……いいだろう」
「といってもストリートテニス場ぐらいしかねぇな。
 あそこダブルスだけなんだけど…ま、練習にもなるし丁度いいか」
「フン。誰が相手だろうと叩きのめすだけだ」

鞄を持って、二人で土手を駆け上った。

「そうだ、ミスが多かったほうはバツゲームな!」
「…じゃあ心の準備しておけよ」
「なにぃ、それどういう意味だよ!!」


そうして喋っているうちに、辛い気持ちは薄れていった。
なにをやっても現実は変わらない。
だったら…今ある道を進むだけだ。


「乗ってく?」

親指を背の後ろに向けるアイツに、
俺は視線をそらして地を蹴った。

「…走る!」
「よっしゃ、競争だ!」
「オイコラ、ちょっと待て!桃城っ!!」


俺は駆けて、アイツは後ろを嫌味に振り返りながら自転車を漕いで。

伸びも縮みもしない間隔を保って、俺達は走った。



 ――青い空が心地良かった。


心の奥には、淋しさを感じるけれど。

でも、それにも負けない。


強くなろうと、決めた。







we keep running under the blue sky...





















桃海だ!やったぁ!!(何)
薫ちゃんの永遠のテーマは『強く生きること』です。
私的イメージではね。
誰よりも強く、自分にも負けない。
無愛想だけど滅茶苦茶情熱的なやつなのさ。
表に出さないだけ。その不器用さに萌。

二人はケンカしてる感じの程好い感を保ちつつ。
とかいっといて思いっきりダブルス組ませちゃってる私ですが。(寒)

indian skyは、雲一つない空のことです。
しかし、辞書に載ってないんだ…スラングなのかな。
(と思ったらスラング辞典にも載ってないし…こういうときはどうすればいいの?)


2003/01/18