* 身代わりキューピッド *
私の名前は、。
何を隠そう、花も恥らう中学生。
儚き恋する乙女です。
その相手というのは…私がマネージャーをやってるテニス部の、
天才の異名を持つ、不二周助である。
顔良し、頭良し、性格良しとは間違いなくこの方の為に作られた言葉とさえも思った。
しかし、それ故に不二君のことを好きな人は、多い。
そしたら、何とこの人も!
私の大親友の、。
なんと、不二君のことが好きらしいです…。
そのことが判明したのは、昨日。
家でゴロゴロしてると、携帯に電話が掛かってきた。
まさかそんな深刻な話が出てくるなどとは思うはずもなく、
親友からの電話に喜んで応えた。
そうしたら、この言葉。
「実はさ、あたし不二君のこと好きなんだけど…」
途端、硬直。
手から滑り落ちた携帯を急いで拾い上げた。
その間も向こうは喋り続けていたらしい。
「…で、仲を取り持って欲しいんだけど…」
一瞬、友情の危機を感じた瞬間。
「はぁ!?ちょっと待ってよ!、不二君と同じクラスでしょ!?」
「同じクラスって言っても…やっぱり話し掛けられないもん。
はテニス部のマネだし、やっぱ気軽に話し掛けられるでしょ?」
「う……」
あのねぇ…これでも私も話し掛けるたび勇気振り絞ってるんだよ!?
確かに立場的にはお気軽なんだけど…心境的にはイッパイイッパイなのよ!!
「そうは言われてもなぁ〜…」
「お願い〜、一生のお願い!!」
私は…傷つけないように曖昧に断るつもりだった。
でも、私は友情を捨てられなかったようです。
「…分かった、協力する」
「ほんと!?やったー!ありがとう、大好き!」
「そのセリフ、私じゃなくて不二君に言いなさいよ」
「意地悪〜!!」
…さらば、私の初恋。
はっきりいって、私はこの瞬間この恋を半分諦めた。
いや、諦めきれるはずなどないのだけれど…無理だろう、と思った。
次の日、私はなんだか重い気持ちで登校した。
教室についてぼーっとしていると、隣の教室からが遊びに来た。
しかし、私は話す気分になれない。
「おっはよ〜っ!」
「おはよ…」
「なんでそんな暗いのかな〜?」
「え〜と…天気が悪いから」
「……快晴ダケド?」
「五月蝿い!!」
「おっひゃ〜、今日のは怖い!」
…ふん。
怒りたくもなるさ。
怒るってか、グレるってか……。
「で、。早速頼みたいこと」
「ん〜?」
はいはいなんですか、もうこうなったら好きにしてくれ。
「不二君の誕生日訊いてきて!」
…なに?
そんなことでいいの?
「2月29日だよ」
「ぉわっ!何で知ってるの!?」
「そりゃぁ…マネージャーだし?」
「じゃあ、他の部員のも分かる?菊丸君とか?」
「………さぁ」
「なにそれ〜!」
くん…そこは触れちゃいけないポイントですよ。
まさか、不二君が好きな人だからその人だけ知ってるなんて……。
「ま、いいや。とりあえずありがとね!んでさ、昼休みに会議やろうね〜!」
そう残して、は教室に帰っていってしまった。
…くそぅ。
人の気持ちも知らずに抜け抜けと…。
……まぁ、断らなかった私も悪いんだけど。
頼まれたらいやと言えない性格、ってやつなのさ。
…損な役だなぁ…。
引き受けてしまったからには仕方がない。
ここまで来たら、全身全霊を掛けて親友の恋路を応援することにした。
開き直ったら、なんか楽になったよ。
それ以上に…寂しいれど。
ま、いいのさ。
昼休み、私とは一緒にお弁当を食べる。
いつも通り、のほうからうちの教室へお弁当を持ってくる。
そして、例の如く作戦会議。
「こんな作戦はどう!?」
「……」
は、フォークを握って力んでる。
私は興味無さげにおかずの煮物を箸で掴んで食べる。
盛り上がるに対して、一人盛り下がる私。
そりゃあ、この状況じゃあねぇ…。
「…何でそんな冷めてるの」
「気にしないで続けてよ」
「ま、いいけど。…で、その作戦ってのはね!」
『好きです!付き合ってくれないなら好きな人教えて作戦』
…一瞬走る沈黙。
「……作戦名で内容丸分かりだね」
「でもさ、いい考えだと思わない?」
「何言ってるの!だって、この作戦で告白するのって誰!?」
「に決まってるじゃん」
「ちょっ!いくらなんでもそれはないでしょ!!」
一体、この子は友情というものをなんだと思ってとるのかね!?
だって…これ…私ふられるんでしょ!?
「冗談じゃないわよ!いくら演技でも私は嫌よ」
「だって…協力してくれるって…言ったじゃん…」
「う……」
そう、私は。
頼まれたら嫌といえない女。
「……分かったよ。やればいいんでしょ!」
「わーv大好きーvv」
…もう突っ込む気力も起こりませんでした。
がっくし。
やると決めたら即効実行、
私は、今日不二君に呼び出しを掛けることに決めた。
部活の休憩中、職権乱用、マネージャーの立場を上手く利用。
「不二君!お疲れ様」
「あ、ありがとう」
タオルを渡して、その横顔に見惚れ…てる場合じゃなかった!
「不二君、あっ、あの…」
「ん、なに?」
「今日、部活終わったら残ってくれる?話が…あるの」
「…うん。分かった」
「それじゃ、よろしくお願いしますね〜…」
なんて、意味不明な言葉…。
引き攣った笑いをしながら、私は不二君から離れた。
…ふぅ。
自分のことじゃないって分かってるのに…。
これ、めっちゃくちゃ緊張する;
本当に、割に合わないって。
くぅ〜め。
こうなったらヤケ食い!
明日はチョコレートパフェ5杯も10杯も奢らせてやる!!
問題の放課後。
私と不二君は、テニスコートにいる。
他の部員は、皆帰ってしまって誰もいない。
鍵当番の大石君も、さっき帰った。
遂に、勝負の時。
…っていっても、
私自身のじゃないんだけどね。はぁ。
「……で、話って?」
「うん。あのね…」
私は気付くと手をぎゅっと握っていた。
心臓がバクバクした。
もう、まるで自分のことみたいに。
バカなぐらい、緊張してる。
息をスッと吸って、
声が震えないように苦労しながら、言った。
「私、不二君のことが好きです」
「―――」
風が吹いて、髪がなびいた。
不二君って髪の長い女の子が好きそうだなと思って、伸ばした髪。
毎日、手入れを欠かしたことなんてない。
…髪、切ろうか…。
夕日が涙で霞んだ。
自分は一体なんでこんなことしてるんだろうって悲しくなった。
恋愛より友情を取ったんだから、仕方がないんだけど。
さあ、もう言うこといったんだから、不二君の返事を待つのみ。
『ごめん、君とは付き合えない』
『好きな人がいるの?教えてくれるまで諦められない』
完璧。なんて完璧な台本。
完璧すぎて…泣けてくるわい。
さあ不二君、早く返事を。
「そうだったんだ。実は、僕も君のことが好きなんだ」
「……は?」
「聞いてなかったの?僕はさんのことが好きなんだって」
…え?
……え、ええ?
…………ええぇぇぇぇ〜〜!?!?
**
『やっぱり?』
「……;」
私は返事もしないまま走って逃げてきてしまった。
家に帰って、即行でに電話した。
どうやって謝ろうか、悩みながら。
そしたら、この言葉ですよ!?
「ちょ、ちょっと待って…『やっぱり』って……?」
『だから、不二君ものことが好きだったんだなって』
「それって…どういうこと…;?」
な、なんだか先が読めるようで読めないんですけど…。
『ねぇ、って不二君のこと好きなんだよね?』
「………」
『正直に、どうぞ』
「…はい。スキデス…」
さんごめんなさいさんごめんなさいさんごめんなさい〜!!
悪気があったんじゃないんだって!
そりゃ、初めに頼まれた時点で断るべきだったのかもしれないけど、
まさか不二君もこっちを好きだなんて思わないじゃない?
だからだから…。
『じゃ、おめでたくラブラブじゃんv』
「……へ?え、じゃあ、は…」
『あたし?へへっ。実はあたし初めから不二君のこと好きじゃないもん』
「……はぁっ!?」
『ごめんねぇ〜。実はさ…』
その後の言葉は、半分放心状態で聞いてた。
なにやら、は私が不二君を好きなことを前から知ってたらしい。
そして、ある日不二君がにこう訊いてきたらしい。
『君、さんと仲良いよね。好きな人とかいないか知らない?』
その一言で、氏は全てを悟ったと。
それで、私と不二君をくっつけようと計画したらしい……。
「……マジ?」
『うん。激マジ』
そう。
キューピッドのつもりだった自分は、
実は、キューピッドになってもらっていたのです。
私は、携帯を掴んだまま口をポカンと開けていた。
『んでさ、、くっ付けてあげたんだからあたしからのお願い!』
「…なに?」
『本当のこというと、私菊丸君が好きなんだ!仲取り持って!!』
「…っ同じクラスでしょっ!」
『いやー、菊丸君は結構気軽に話せるんだけど、逆に肝心な良いムードに持ってけないのよ』
『というわけで、明日の朝不二君にしっかりと返事言うんだよ!』
「うん。…ありがと」
『お礼はいいから、菊丸君のこと、よろしくね〜♪ プツッ』
「あ…」
『ツーツーツー…』
……全くコイツは。
と、思うのだけれど。
でもやっぱり…キューピッドに感謝、なんちゃってね。
明日、学校に着いたら。
朝練が始まる前に、言うんだ。
言伝じゃなくて、自分の気持ち。
「おはよ、不二君!あのさ――…」
――キューピッドの矢は、放たれた。
不二個人ドリーム。初かな?初かも。
不二より友人の方が出番多いとかツッコミ禁止。
身代わりで告白したら自分のこと本当に好きだった…。
っての、ずっと昔からやりたかったんですよね。(5年ぐらい前から/マジ)
漸く念願かなって万歳。
マネージャーの割りに君とさん付けって初々しすぎ?
ま、いっか。(いいんかい)
2002/12/19