* to my dearest partner -2- *












みんなに見送られて、オレは家まで帰った。

中には玄関まで着いてくる奴も、数人いた。

最後のお別れを告げて、オレはそこで切った。


「またいつか」なんて言わない。

すっぱり切るんだから。


 「さようなら」


自分で放った言葉なのに、心にずんときた。

でも、なんともないふりをして家に入った。


家に帰ると、オレは荷造りの最終段階に入った。

昨日までに、ほとんどは終わらせておいた。

もう持っていくものは綺麗に揃えてある。

後は鞄に詰め込むだけ。

作業が進むうちに、なんだか淋しくなった。


家具や大五郎はもう先に送られちゃったし。

漫画とかは荷物に詰めるか捨てるかしちゃったし。

壁に貼ってあったポスターも接がされたし。

残ってるのは、ベッドだけ。

ベッドは残していくということになったから。




随分ガラーンとした部屋は、なんだか自分の部屋じゃないみたいだった。

違う世界に来たみたいな、変な気持ち。


もう、明日オレはここには居ない。


そう思うと悲しかったけど、でも、
何もかも、すっぱり切ると決めたから…。




  **





「…あれ?」


夕食のとき、オレはとあることに気付いた。


「兄ちゃんが…いない」


ちなみに、兄ちゃんというのはオレの一つ上のほう。

食卓、9人揃って食べるはずの食事。

何故か、8人しかいない。


オレがもう一度数えなおそうとすると、姉ちゃんが言った。


「ああ、なんかね、最後だから友達の家に大勢で集まって泊まってくんだってさ」

「最後ぐらい家にいなさいって言ったけど、
 聞かないのよねーあの子は。でも、それほど大切な友達なのね」

「へ〜…」


じゃあオレは今日一人で寝るのか、
あのガラーンとした部屋で。

なんか寂しいにゃ〜とか思いながらご飯を食べた。




  **




…やっぱり、寂しかった。


ほとんどもののない部屋。

シーンとしてて、そんなことはないのに寒い気がする。


オレは色々考えてて、なかなか眠れなかった。

明日はごたごたするだろうから早く寝なきゃ、と思うんだけど、
少し興奮状態になっているのかなかなか寝付けない。

時計を見たら、2時。

家族のみんなは、もう恐らくぐっすり寝ているであろう。


オレも早く寝たいんだけど…考えてしまう。



アイツ…今頃どうしてるだろうとか。


なんか、挨拶も中途半端のまま来ちゃったし。

まあ、そのほうが良いのかな。

後一回でも逢ってしまったら。

優しい言葉を掛けられてしまったら。

オレは甘い水に浸りたくなって、
もう別れることなんて出来なくなると思う。


どうせ、別れなくてはいけないんだから。


これ以上逢えなくて淋しい思いをするんだったら、
オレはきっぱりと関係を切ってしまうことを選ぶ。

そのほうが…辛く無い気がするんだ。


ずるずる引き摺るより、すぱっと終わらせたほうが、気が楽だ。





そうは思うけど、やっぱり…。



「逢いたい……」




思わず小さく呟いた時、
枕元に置いてあった携帯がなった。

なんでこんな時間に…と思った。

でもそれより、なにより、着信音が問題で。


アイツ、からだった……。


メールじゃなくて、電話だった。

オレは、4コール目で通話のボタンを押した。



「…もしもし?」

「あ、英二、寝てた?」

「ううん。まだ起きてた」


電話越しに聞こえるアイツの声。

少し機械的なのが、辛くって。


「そうか……実は、最後に一つだけ話したいと思ったんだけど…いいかな?」

「いいよ…」


どんなことを言われるんだろう、とか考えながら次の言葉を待った。

最後の挨拶かな?

だって、結局昨日は何も話せないまま終わっちゃったし。


「……」

「…何?」

「英二、あのさ…」


一瞬言葉を区切ってから言ってきた。


「無理なお願いだとは思うけど…一瞬、外来れないかな?
 実は今、英二の家の外に居るんだ」

「えっ!?」


オレはその言葉を確認した瞬間、
携帯を握ったまま階段を駆け下りた。

といっても、家族には気付かれないようこっそり。

物音を出来るだけ立てないようにして、
サンダルを履いてドアを開けた。


街灯が薄暗く光っている中、
唯一つのオレの視界に入る対象物。



「…大石…!」


アイツは、本当にそこに居た。

























2002/12/09