憶えてはもらえるんだけど、
 なかなか祝ってもらえない誕生日。
 別に、面倒なだけだし構わないんだけど。

 でも、内心少し寂しかったりする。











  * MERRY BIRTHDAY *












「メリークリスマースおっチビ〜♪」
「…クリスマスは明日ですよ」

学校に来て早々、菊丸先輩が走り寄ってきた。
門で待ち伏せしていたのだろうか。
朝から耳が痛くなるような声で、話し掛けてきた。

「分かってるよ!本当はさ、今日の夜中に渡したいんだけど、
 それは無理じゃん?だから今渡しておくの」
「あ…そうっスか」

今日は、12月24日。
俗にいう、クリスマスイヴというやつだ。
イヴというのは前夜という意味なのに…クリスマスのときに限っては
24日がその通称になっている。
そして、どちらかというとクリスマス当日より
クリスマスイヴのほうが、祝祭日というイメージが高い。
何故かは知らないけれど。

とにかく、12月24日はイベントの日。
キリスト教でもないのに、みんなお祝いする。


だから忘れられる。
俺の誕生日というものは。


「いいか、英二サンタからのプレゼント、大切にするんにゃよ!
 オレからのクリスマスプレゼント! あ、不二だ!お〜い!!」

そういって、白い袋を持った菊丸先輩はどこかへ走っていった。

「…まだまだだね」

自分の誕生日の時、俺の誕生日はいつかって訊いて
「クリスマスイヴ?それなら簡単に憶えられるじゃん!」って言ったくせに。
日にちは覚えてても、祝うことは忘れてるんだろうな。


「……」


別に、悲しいわけじゃないけど。
もともと、大袈裟に祝われるの得意じゃないし。


「ところで、これ…」

菊丸先輩に貰った小さな箱を開けてみると、
キャンディーなどカラフルお菓子が入っていた。

「…あの人らしいな」

そう思いながら、俺は下駄箱に行っていつも通り靴を履き替えた。


そのとき、聞きなれた声。

「越前!」
「…なんだ、堀尾か」
「なんだとはなんだよ!…なあ知ってるか、今日クリスマスイブだろ?」
「…それが?」
「お前、相変わらず冷たいなー…。ま、それはさておき。
 クリスマスイブのイブっていうのは、前夜って意味なんだぜ」

いかにも自慢げに鼻高々に言うので、
俺は言い返してやった。

「…常識じゃん」
「……お前、友達失くすぞ」
「別に、構わないし」
「お、おい越前!」

一人でなにやら語っている堀尾。
俺はそれを横目に、溜め息をつくと自分の教室へ向かった。

堀尾だって、この前の菊丸先輩の誕生日は祝ってた。
そのまた前の河村先輩の誕生日だって、忘れてはいなかった。


俺の誕生日は、どうやら完全にクリスマスイヴの影に隠れているみたいだ。




あの人も…。

「――」


そこまで考えて、俺は足を止めた。


俺の、特別な人。

あの人も、忘れてしまっているのだろうか…?




 **




学校の間、クラスの女子がなにやら
プレゼントの交換とやらで騒いでいる気がした。

まあ、俺には関係ないし。

そんなやつらがいる以外、特に変わったことはなかった。


部活も、いつも通り。

今日も、特に何もないまま終わるのかな、と思ったとき。


「越前」
「…部長」

休憩中、話し掛けてきたのは、俺の特別な人。
手塚部長だ。
一応、付き合っている相手でもある。

「今日の夜、会えるか」
「…なんでっスか?」
「今夜は街の広場のモミの木がライトアップされるのだろう?
 綺麗だと聞いたから…一緒に見に行けないかと思って」

そう言われて、断るはずがない。

「…行きます」
「それでは、適当な時間に迎えに行く」

そういって部長は踵を返すと、
大石副部長となにやら話し始めた。


広場のモミの木…か。
結局は、クリスマスな訳なんだよね。



 **



夕食。
俺の誕生日とクリスマスのダブルということで、
いつもより豪華な食材が使われていた。
デザートにはケーキもあったし。

なんだかんだいって、家族は誕生日忘れないもんなぁ、と思った。


そんな夕食も終えて、暫くしたとき。


『ピンポーン』

「あ、俺だ。…ちょっと、出掛けてくんね」
「こんな時間に?」
「うん。街の広場まで」
「誰と行くの?こんな時間に…」

後ろから追ってくる母さんを半分無視してコートを着た。
靴を履いてドアを開けると、そこに居たのはもちろん部長。

「…あ、保護者の方もご一緒なの?それなら大丈夫ね」
「保護者?」
「ぷっ」

勘違いしている…ま、丁度いいや。

「それじゃ、行ってきます」
「あんまり遅くならないのよ!」

部長と二人きりになって。
初めに言われた言葉は…

「保護者はどこだ?」

だった。
どうやら自分が言われたとは気付いていないらしい。

「ま、気にしないで行きましょうよ」
「ああ……」

何か気にくわない様子だった。
なんだかそれが面白くて俺は少し笑ってしまった。

「…何を笑っている」
「いや、なんでもないっスよ」

気温は低かったけれど、
とても温かい気持ちで俺達は広場へ向かった。




 **




「結構…凄いっスね」
「ああ…」

広場について、俺達は度肝を抜かれた感じだった。
イルミネーションは、予想よりも遥かに美しかった。

クリスマスツリーは当然綺麗だし。
周りの小さい木たちもそれはそれは豪華に飾られていた。

ツリーの前に立って。
二人で暫くぽーっと見入っていた。


近くまで行くと、綺麗なだけじゃなくて大きくて。
細かい飾りとかも見えて。
俺は、首を真上に向けて、チカチカ光るライトを見ていた。

すると、部長の声。


「越前」
「はい?」

すっと差し出されたのは、縦長の小箱。

クリスマスプレゼントか、と俺は直後に悟った。
それを受け取りながら、俺は言った。

「へぇ…部長って宗教関係苦手そうなのに」
「宗教関係…なのか?」
「…?」

確かに、日本ではキリスト教とか関係なくクリスマスを祝っているけど。
部長はそういうの気にする人だと思ったら…
キリスト教の儀式だということすら分かってないのか!?

まあ、とりあえず気にしないことにした。

「…開けてもいいっスか?」
「ああ」

開けてみたら、出てきたのは時計。

「…あ!これ、部長の…」
「ああ、お揃いだ」

俺は、その少し重そうなイメージのある
ベルトが金属で出来ている腕時計をじっと見つめた。
今時ペアルックなんて…部長もなんだか可愛いところあるじゃん、なんて思った。

「ありがとうございます…」

本当に、嬉しかった。
ガラにもなく、少しドキドキしてしまった。

しかし、俺は気付いた。

「あっ、でも俺部長に何も用意してないっス」
「…何故お前が用意する必要があるんだ?」
「?」

…なんか、話が噛み合ってない。
俺は時計と部長の顔を交互に見比べた。
すると、部長の口から出てきた一言。



 「誕生日おめでとう、越前」





瞬間、俺は口では表せないほど嬉しかった。

誰も憶えていてくれないと思った誕生日。
自分の、たった一人の大切な人が、祝ってくれた。

こんな幸せなことが、あるだろうか。


時計を見たまま、半分放心し掛けていた。


「…どうしたんだ、気に入らなかったか」
「い、いえ!めちゃくちゃ嬉しいっス…!」

そうか、と部長はツリーを見上げた。
俺もつられて見上げる。
そして、言った。

「…てっきり、クリスマスプレゼントかと思いました」
「あ…そういえばクリスマスもあったな。何か欲しかったか?」
「いや!そんなことは言ってないっス。
 部長が俺の誕生日憶えててくれて…嬉しかったから」
「…そうか」
「それに、俺も何も準備してませんし…」

そう言って俺が下を向くと、
手塚部長は俺の肩を掴んで、そっちを向かされた。


「…部長?」
「……」

部長は、真剣な表情だった。
いや、いつでも真剣なのだけれど。

何を言うのかと思ったら、こんな言葉。


「クリスマスといっても、特にキリストを祝う気などはない」
「はぁ…」

そこまで開き直られると、逆に清々しい気さえした。
でも、問題はそこじゃなくて。

「ただ、お前と一緒に居られればいい」
「部長…」
「まあ…なんというか、そのきっかけを作ってくれたことには、
 感謝するかな…」

そう言って、部長は少し背を屈めた。
俺に顔が近付くように。

そして、優しい声。


「メリークリスマス」


それから一秒後には、額に優しいキス。


それが離されると今度は優しい目。

優しい表情で、優しい言葉。


「それと、ハッピーバースデー」


綺麗なクリスマスツリーの前、
豪華なイルミネーションに囲まれて。

沢山の優しさに包まれて。

大切な君にさえ祝ってもらえる、最高の幸せ。


こんなロマンチックな誕生日も、いいかもしれない。






  silent night, holy night...






















あわわわわ;
あ、有り得ないと思ったのに…!
やっちまいました、塚リョ。
リョ塚じゃないでしょ?ちゃんと塚リョでしょ!?
手塚ブチョが天然へたれ攻。リョーマは煽り受。万歳。

誕生日プレゼントに「宗教関係なのか?」と戸惑ってしまう
手塚が浮かんで書き始めた。(マジ)
部長、天然だよね。うん。

イベントと誕生日重なるといいな〜と思う方も居ますが
結構隠れちゃうんじゃないかなあと私は思います。(微笑)
実際、お正月(樺Gと一緒)に誕生日がある友人Mタンは、
お年玉がプレゼントで通され続けているらしい。(そして金額は同じ)

こんなんでお祝いになってるか分からんけど、
リョマたんハッピーバースデー*

※Merry birthdayなんてフレーズありませんv(笑) 意味としては通りそうだけど。


2002/12/08