* 雨のち晴れ *












「にゃぁぁ!なんでなんでなんで!?」

今は、HRが始まるちょっと前。
6時間目の授業が終わって、みんなが解放された気分で話し始める頃。
窓の外を見て、オレは思いっきり叫んだ。

だって、今日の空は雨模様。

「ちょっと英二、静かにしなよ」
「だって不二、見てよ!?このど〜んよりした空!!」

オレは空を指差して叫んだ。
その空は、太陽は愚か、青い破片すら見せようとしない。
全体を、厚くて黒い雲が覆ってる。
今すぐにでも、雨が降り始めそう。

「ぐっそぉ〜。にゃんで〜!」
「まあいいじゃない、諦めなよ」
「諦めきれるかよぉ!!」

別に、普通の日だったら構わない。
雨が降ってたって、めんどくさいにゃ〜とか部活できないじゃん、
とかその程度。

でも、今日は特別なんだ。


「せっかくオレの誕生日なのにぃ!」


そう、今日はオレの誕生日。
年に一度の、大切な日。

「普段の行いが悪いんじゃない?」
「そんなことないよ!!!」

こんなにも苦しんでるオレに、
不二は茶々を入れた。

くっそぅ…本気で悲しいのに。

「オレ晴れ男な筈なのにな〜…」
「残念無念また来年」
「にゃぁ!オレの決めゼリフ!!しかも微妙に違うし!」
「ははは。ごめんごめん。でも、どうしようもないことだし。
 残念だけど、また来年だね」
「ぢっぐじょ〜…」

自分の誕生日が雨なんて…悲しすぎる。
ただでさえオレは雨があんまり好きじゃないのに、
自分の誕生日になんて降られたらもっと嫌いになっちゃうよ…。

「約束もしてたのにな〜…」
「ん、なんだって?」
「いや、にゃんでもにゃいにゃんでもにゃい!」

ぶつぶつ独り言を言ってると、
不二は耳が良いので聞き付けてきた。
オレは、手を横に振ってそれ以上追求されないようにした。

その約束ってのはね、
おチビと一緒にどっか遊びに行こ〜、ってことだったんだ。

実は…オレと越前は付き合っている。
みんなには秘密…のはずなんだけど気付かれ始めてるみたい。
そんなにオレ分かりやすい?

ま、とにかく。
普段、おチビはあんまり一緒に出掛けてくれない。
家に行っていい?とか、
買い物にでも行かない?とか。
いろいろ誘ってるんだけど、全然乗ってくれない。
本当に付き合ってるのかよ…と思っちゃう。

でも、「オレのこと本当に好きなの?」って訊くと、
そっぽを向きながら、「そんな当たり前のこと聞かないでクダサイよ」って。
そっぽを向いちゃうのは、照れ隠しなんだって、オレは知ってる。
ちょっと素直になれないところがあるのかもしれないけど。
それでも、愛されてるんだな〜なんて満足しちゃってる。

でもでも、やっぱり普段は全然構ってくれない。
オレから誘ったりして、それでもやっとなんだよ。

そのおチビがなんと!

11月28日は部活の後どっか遊びに行こうって誘ってくれたんだ!!!


オレはめっちゃくちゃ驚いた。
だって、おチビが誘ってくるなんて、確か初めて…だったから。
誘ってもなかなか乗ってくれないのに、そっちからなんて!って。
「突然どうしたの?」って訊いたら、
「だって誕生日なんでしょ、28日」って。
その瞬間、オレ舞い上がって空飛べちゃうかも、とか思った。
まさか、誕生日知っててもらえるなんて思ってなかったから。
驚きが、2倍だった。


そしたら、何さ!?

「あ゛〜っ!ついに〜〜!!!」
「ちょっと英二、五月蝿いよ」
「だって、だってぇ〜…」

空からは、ついに大粒の雨が降り始めた。
それは一瞬にして勢いを増し、
数秒のうちに遠くが見えないほどの大雨になっていた。

「こ、これってあり〜!?」

酷い…酷すぎるっ!!
最近ほとんど晴れてたのに、なんで今日に限って!?

「ほら、英二。HR始まるみたいだよ」
「へぇ〜い…」

なんか、人生にやる気をなくしたって感じ。
オレは、HRの間ぼーっとしてた。



とにかく、HRを終えた後、オレは一年の教室に行った。
おチビは、教室の掃除をしていた。

「おっチビ〜!!」
「あ、英二先輩」
「外見た?見た!?」
「見ましたよ。…凄い雨っスね」
「ねぇ、今日どうすんのさ!」

越前は、箒で床を適当に掃きながら、窓の外を見て言った。

「…この雨じゃ出掛ける気にもなれませんよね」
「えぇ〜!?じゃ、じゃあ…」
「…中止?」
「マっジ〜!?」

オレがそう叫ぶと、越前は
「じゃあ、掃除終わらせないといけないんで」と言って離れていってしまった。
数歩歩いてから、何かを思い出したように振り替えると、言った。

「あ、そうだ」
「?」
「お誕生日、おめでとうございますね。それじゃ」

『ズッガァーン!』

オレの誕生日は、こんなオマケのように祝われて終わってしまった。
凄い雨で部活もなかったし、
オレはそのまま一人で家に帰ることになった。

傘は、持ってた。
でも差すのも面倒臭くなって、
オレは雨に濡れながら帰った。

水溜まりに飛び込んだり、
立ち止まって大きく両手を広げてみたり。
わざと、ビシャビシャになった。

「おチビも雨も、バカヤロ〜!!!」

途中で思いっきり叫んだけど、
雨は、オレの哀しい気持ちまでは洗い流してくれなかった。

「…バカ。……ぐすん」

雨が降ってたから、始め自分でも気付かなかったけど、
オレは気付けば泣いていた。
ぶちぶちと愚痴を言いながら帰った。
道行く人がこっちを不思議そうに見てきたけど、そんなの構ってる間もなかった。


プールに飛び込んだみたいに全身びしょびしょで家に着いたときには、
体は完全に冷え切っていた。


そして、次の日…。

「…37.6℃」

オレは、見事に風邪をひいて学校を休んだ。

…バっカみてぇ〜…。

布団の中で、思った。

それにしても、昨日は今まで中で一番最悪な誕生日だった気がした。
雨は降るし。
おチビには約束破られるし。
大して盛大に祝ってもらえなかったし。

…グスン。

オレは、布団の中でひたすらいじけていた。


オレってさ、本当におチビに大切にしてもらえてるのかな。
確かにさ、雨が降って出掛ける気がしないってのはオレも分かるけど、
態度が、素っ気無かったっていうか…。
寂しい…。



その日一日寝てたら、熱は下がった。
次の日…つまり11月30日、土曜日は、
部活は休みだと前から竜崎先生が言っていた。
だから、オレはもう一日寝ることにした。

そうして考えると…2日はおチビに会わないことになる。
明日はどんな顔をすればいいのかな、
ちゃんと笑えるかな…。

そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。
暫くすると、部屋のドアが開いた。
ノックもせずに開いたから兄ちゃんか、と思ったら、
…小さい。

「……っておチビ!?」
「チッス」

オレは口をパクパクさせた。
二段ベッドの上からおチビを見下ろした状態で、暫く固まっていた。

「上、上っていいっスか」
「…うん」

訊かれたから、素直に答えた。

「よっと」

ベッドに二人で座ると、
なんだか狭く感じられた。
二人で座ってるからって言うより…
オレの気持ちが、そう思わせたのかな。
圧迫感というか、なんとゆうか…。

隣に座ったっきりおチビは何も言わない。
だから、こっちのほうから声を掛けた。

「どうしたの?」
「…この前の埋め合わせ」

おチビは、オレの顔を見ないままそう言った。
オレがそっちを覗き込んでも、目を合わさないまま喋り始めた。

「誕生日当日…結局何も出来なかったから…
 さすがに悪いかと思って」
「……」

その言葉が、嬉しかった。
ちゃんと、オレのこと考えてくれてたんだって。
でも、なんか嬉しすぎて悔しかった。

「だったら当日になんかやってよぉ!!」
「だって、雨だったから」
「う〜…」

オレがなんと言っても、おチビはいつもひらりとかわしちゃう。
どんなことでも言ってのけるんだ。
何でかなぁ…。

「だって、雨嫌いなんでしょ?」
「へ?」
「晴れの日のほうが、喜んでくれるかと思って」
「…?」

越前は、オレの手を掴んだ。
そして、少し引いた。

「これから、どっか出掛けようよ」
「…うん!」

そのまま、オレ達は手を繋いだまま家を出た。
おチビが妙に速歩きでオレの前に出たがってるのは、
やっぱ、照れてるからなのかな、
なんてちょっと面白かった。

オレは、ちょっとだけ小走りになっておチビの横に並んで言った。

「ありがとね」
「…別に」

おチビは、オレが横に行って顔を覗き込むと、
少し照れた表情で帽子のつばを引いて深く被った。

オレ達は、何をするわけでもなく、ぶらぶら歩いた。
空を見上げると、おっきなおっきな太陽が見えた。
その太陽に、オレは心の中で「ありがとう」と言った。
出来れば、2日前に頑張ってほしかったけど、にゃんてね。
すると、おチビが言った。

「でも…この前が雨で、丁度良かったかな」
「にゃんでよ!!」

オレが考えてることと正反対で、思わず大きな声を出してしまった。
それに対して、おチビはこんな返事。

「だって、部活が終わった後なんかより、休みの日の午後の方が、
 長く一緒にいられるでしょ?」
「!」

その言葉に、オレは手を離して体全体で
がばちゃっ、と越前に抱きついた。

「おチビ〜大好き〜!!」
「苦しいっス」

そんなことをして立ち止まると、越前は何かを考えてる風な表情になった。
オレが体を離すと、越前は指をオレの右斜め上の方向に向けた。

「……あ、英二先輩、あれなんだ」
「へ?どれ?」
「あれっスよ、アレ」
「え、どこ〜?」

オレはおチビが指差した方を見たけど、
別段変わったものはない。

「なに、何があるのさ?」
「え、見えないんスか?」
「だから何が!」
「英二先輩屈んでくださいよ。
 身長が違うから視界が違うんだ」
「あ、にゃるほど」

オレは、しゃがんで中腰の体勢になって、
おチビの横に顔を並べた。
それで、指を差している方向を見たとき…。

「隙有りっ」
「んにゃぁ!?」

オレはぴょんと飛び退いて左の頬を押さえた。
だって、だって…。

「おチビ、今何した!?」
「いや、丁度いい場所にあるなと思って」
「おチビが屈ませたんだろ!!」

なんと、おチビはオレのほっぺに…キスしてきたんだ!!

「ふ、不意打ちだにゃっ!」
「いいじゃないっスか、誕生日プレゼント」

飄々とおチビは言ってのけた。
オレは自分が顔真っ赤なのが分かった。
…何でだろう。

背も小さいし、
力も弱いし、
年も二つ下だし。

なのに、オレは絶対におチビに勝てないと思ってしまう。

う〜…と唸る俺に、
おチビは言ってきた。

「という訳で、少し遅れたけど」


――心からのHappy birthday。


そして、手の甲にもキスをされた。
こんな所にするなんてキザだにゃーなんて思いながら、
実際凄く嬉しいのでした。

とってもとっても、いい気分。
いい気分になって、オレは訊いた。

「ね、おチビ」
「ん?」
「オレのこと、好き?」

こう訊いた時の、おチビの反応は決まってる。
そっぽを向くか、帽子を深く引いて、
当たり前のこと訊くな、って。
その言葉を聞くだけで、オレはとっても嬉しいんだ。

「好きっスよ」
「…は?」

おチビはオレの顔を正面から見たまま言ってきた。
予想外の行動と予想外の返事に、オレは間の抜けた声を出してしまった。

「だから……、もういい…」
「なになにおチビ!?もう一回言って!」

振り返って歩き出そうとしてしまうおチビの肩を掴む。
でも、後はいつも通り素っ気無い越前だけだった。

「イヤっスよ」
「にゃんでぇ〜…」

もう一回ぐらい言ってもいいじゃんかー、とも思ったけど、
オレは確かに聞いた。
おチビの口から出た言葉を。

「オレもおチビのこと大好きにゃ〜」
「はいはい」

この無愛想な態度も、
照れ隠しだと思うと、オレは更に嬉しい。
何だかんだいって、オレは幸せ者。

一緒に居られることが、一番の幸せ。

「ほらおチビ、見て」
「――」

真上を見上げると、
果てしなく広がる青い空を背景に、
強く輝く太陽。

「オレ達のこと、祝福してくれてるように見えない?」
「…さぁ」
「あ、こら待ておチビっ!!」

歩き出してしまうおチビの背中を、オレは追った。
ぽかぽかと背中に当たる陽光が、
とても温かかった。

…来年も、またお祝いできると良いにゃ♪






















やっぱり、リョ菊はほのぼのなんですね、ハイ。
何ででしょう…オーラ?(謎)
菊リョくさくてもリョ菊なんです。(主張)
菊リョ菊?まあいい。リョ菊の菊は襲い受(以下略)
リョーマがキャラ違う気配もしましたがこの際良いのです。(ぇ

青学って土曜日学校あったっけ?
まあ、いいや。(いいの?)

とにかく、菊ちゃんお誕生日おめでとう!
Road to Xmas様に再び捧げますた。
第一段はリョーマの誕生日&クリスマスに。
(順番逆だよ、とかいう辺りは気にしないでくださいねv)


2002/11/23