* 幸せ探し *












「お疲れ様。はい、タオル」
「ありがとう」
「サンキュー♪」

今日も、テニス部は和気藹々である。
最近は特に…。
それもこれも、という名のマネージャーが入ってきたからだ。
彼女は編入生なのだ。
本当はも女子テニス部に入りたかったみたいだが、
3年での入部は認められないらしく、
マネージャーとして男子テニス部に入部したらしい。
今まで正式なマネージャーはいなかったし、
他の部員もが入ることは大歓迎だった。

俺もその一人であることについては、否定しないが。



 =−=−=



「お疲れ様。はい、タオル」
「ありがとう」
「サンキュー♪」

、今日も可愛いにゃぁ♪
思わずギューってしたくなるけど、それはガマンガマン。

…大石ものこと見てるよ。
そりゃ、は可愛し人気もあるけどさ…。
やっぱり、大石も、のこと…?



学校の帰り、オレは思い切って大石に言った。

「大石…、オレさぁ」
「ん?」
のこと、好きなんだよね」
「!」

…分かりやすいにゃぁ。
みんなさ、オレのこと分かりやすい、分かりやすいってゆうけど、
大石も十分分かりやすいと思う…。
それともいつも一緒ににいるから分かるのかな?
ま、とにかく、大石の考えてること、結構オレにはわかるんだよね…。

大石はきっと、作り笑いをしてオレを応援する。


「そう…なのか。頑張れよ!」

…ほらね。思ったとおり。
大石は作り笑いが上手い。
普通だったらきっと気付かないくらいだ。
でも、今のオレにはどんなこと考えてるか全部分かっちゃう。

…オレも意外と意地悪だにゃぁ。



 =−=−=



学校の帰り、英二と喋っている時のこと。
とてつもなく、驚くことがあった。

「大石…、オレさぁ」
「ん?」

英二は一瞬躊躇って、視線を下に向けて言った。

のこと、好きなんだよね」
「!」

あからさまに動揺してしまう。
英二は俺を伺うかのような目線でこっちを見てきた。

気付かなかった…。
英二がを好きだったなんて。
英二は人懐っこいし、少し甘えん坊なところがあるから、
そのノリでに引っ付いているのかと思った。
まさか本当に好きだったなんて…。

俺は分かっている気でいたけど、
本当は英二のこと全然分かってないのかもな…。

「そう…なのか。頑張れよ!」

そんなことを言って、作り笑いをした。
今の俺には、それが精一杯だった。



 *−*−*



部活で、休憩中のこと。

「ねぇねぇ、大石君」
「―――」

、大石と話してる。
なに話してんだろ。気になる…。

あ。
大石と目が合っちゃった。
申し訳無さそうな顔をして、目で訴えてきた。

…いいよ。無理しなくても。
オレが昨日あんなこと言ったから、気にしてくれてんだ。
いいやつだな、大石って。
…それに対して、オレって嫌なやつかも…。

「エージ先輩、エージ先輩」
「にゃ?どしたの、桃」
先輩って、絶対大石先輩のこと好きじゃないっスか?」
「っ――」
「だって、よく話しかけるし、一人だけ君付けだし…。
 絶対そうっスよね!」
「……そだね」

は、大石のことを。
大石も、のことを。

…なぁんだ。両想いじゃん。
……。

オレだって、うすうす気付いてた。
が大石のこと好きだって。
そう思いたくなかったけど。
だから、無意識に考えないようにしてたのかも…。

でも、他の人に言われて、やっぱりそうなんだって。
認識せざるを得なくなった。

…あ〜あ。悲し〜…。



 =−=−=



休憩中に、が俺に話し掛けてきた。

「ねぇねぇ、大石君」
「―――」
「…聞こえてる?」
「あ、うん!ごめん」
「ちょっと聞いてよ〜。今日うちの担任ったらさ〜…」
「……」

 『オレさぁ、のこと好きなんだよね』

「……」

の顔を見ると、
昨日の英二の一言が頭に浮かんでしまう。
話を出来るのは嬉しいことのはずなのに、
罪悪感が募ってしまう…。

あ、英二と目が合った。
気になるんだな、なに話してるか。
ほんと、すまないな。
自分の好きな人と誰かが喋っていたら、
そりゃ気になるだろう…。


…あ。話ちっとも聞いてなかった。
でも無意識に相槌は打っていたらしく、
は楽しそうに話を続けていた。

「で、あとさ、話があるから…部活終ったあとうちの教室来てくれる?」
「ああ、分かった」

最後の一文だけは、しっかりと耳に入れた。



 **



「お待たせごめん、遅くなっちゃって」
「ううん、全然平気!」

日誌を出してそのままの教室がある3年3組へ向かった。
教室には、広い教室に一人ちょこんと座るがいた。
俺が走って教室に入ると、は立ち上がって俺に近付いてきた。

「で、なに?話って」
「あ、うん。実はね…」

…どうしたんだ?
こんなに改まって…。

の唇がゆっくりと言葉を紡ぎ出す。

「私ね、大石君のことが…スキ」
「!」
「付き合ってクダサイ…!」

冗談でないということは、
の真剣な表情を見れば一目瞭然だった。

え……?
が、俺のことを?
俺も、のことを―――…。


 『オレさぁ…のこと好きなんだよね』

    ス キ ナ ン ダ ヨ ネ。


「……っ」
「大石…君?」

辛かった。
の目が見れなかった。
俺は視線を左下に逸らせて言った。

「…ゴメン。気持ちは嬉しいけど…君とは付き合えない」
「そう…だよね。きっと、大石君にはもっとお似合いの
 可愛い子がいるのよね…」
「え、いや、その…そういうわけじゃ…」
「でもありがと!なんかスッキリしたよ」
…」
「…さよならっ!」
「あっ…」

は、その場を駆け出した。
追うことも出来たけど、俺は追わなかった。

…何やってんだ、俺…。
でもこれで良かったはず。

…良かった……のか?



 *−*−*



「う〜ん。大石どこいったんだろ。一緒に帰ろうと思ったのに」

もしかしてオレがあんなこと気まずくて
先帰っちゃったとか?
大石に限ってそんなことないよにゃぁ…。


『タタタ…』

「だれ?」

誰かが走る足音が聞こえた。
大石にしては軽すぎるような音だったけど、
可能性が無い訳ではないのでオレは声を掛けてみた。
すると……。

「あ…」
……?」

泣い…てる…?

「どうしたの!?」
「菊丸、わた…し…」
「……なに?」
「私ね、大石君のこと好きだった」
「…うん」

事前に分かっていたから、そんなに打撃は大きくなかった。
といっても本人の口から直接言われるのは、
それなりに抵抗があったけど。

やっぱり、そうだったんだよね…。

「でね、今教室に呼んでそのことを伝えたんだけど…
 ダメだったよ。えへへ…」
「!」
「ああもう、悲しー…。うぅ〜〜…」
「……?!」

何?
どうゆうこと?
大石はのこと好きだったわけじゃないの?
いや、それは絶対にない。

ということは、やっぱ…

 オレの所為?


「う〜…ヒック…ぅぅ…」
!大丈夫だから!オレが何とかするよ!!」

オレはの震える肩に両手を乗せて言った。

「何とかするって言っても〜…っく」
「泣かないでよ…オレは笑ってるが好きなんだから…」
「…ふぇ?」
「じゃ、行ってくる!」
「……菊丸…?」




――オレは、今なんで走ってるんだろう?
泣いてるを見たくなかった?
それもある。
でもそれだけじゃない。

大石のため?
自分のため?
…ワカラナイ。

の為っていったって、
大石の為っていったって。
結局、自分がどうなるかぐらい分かってる。
寧ろそのままにしておいたほうが、
自分にとってはいい状況になる。

でも、オレは今走ってる。

…だって、こんなの間違ってるよ。絶対!!!



 *−*−*



オレ、何やってんだろな。
好きな子に告白されて、断って、…きっと泣かせて。
どうして断ったんだっけ?
どうして……。

「大石!」
「…英二…」

英二は、凄い勢いで部屋に飛び込んでくると、
俺の前に滑り込んだ。
そして、半ば睨みつけるような表情で訊いてきた。

「大石…に告白されたってホント?」
「……ああ」

どうして知ってるんだ、英二のやつ…。
まあ、それはどうでも良いのだけれど。

「……ふった、の?」
「そういうことに…なるな」
「…、泣いてた」
「……」

そうか、やっぱり、は…。

「大石、のこと好きじゃなかったの?そうでしょ!?」
「………」

俺は何も答えられなかった。
英二は、無言を肯定と取ったらしい。

「…オレの…せい……?」
「……」
「否定…しないんだ…」
「……」

俺は、静かに目を伏せた。
すると…。

「〜〜〜バカッ!!!」
「!?」
「何やってんだよ大石!そんなこと、
 そんなことで……っ!」

英二は、大声を張り上げると同時に、
俺の制服の胸元を掴んできた。

「そんなことされたってちっとも嬉しくないよ!」
「…」
「大石のバカ!そんなんでだれが幸せになるのさ!?」
「!」

英二は一瞬俯いて喉をごくりと鳴らしてから、
もっと強い声で言った。

「誰一人として幸せになれてないじゃんか!」

それほど大きい声だったわけじゃない。
でも、その言葉は俺の心の強く響いた。

「――」
「一番悲しい思いをしてるのはだよ!?」
「!」
「大石のバカ。アホ!オタンコナス!ドテカボチャ!!」
「英二…俺…」

俺…何やってたんだろな。
今頃になって、真実が分かった。

「…もういいから…行ってきなよ。
 まだ校門の辺りに居ると思うから…」
「……」

英二は、俺を掴んでいた腕を離すと、後ろを向いた。

「早く行きなよ…、待ってるよ」

俺が呆然と立ちすくしていると、
英二はこっちを見ないまま言った。
俺は、その背中に声を掛けた。

「…ありがとう、英二!」
「……」

『ゴメンな』

その一言は、心の中に留めておいて、
口から出ることはなかった。



 *−*−*



「行った…か」

そうなるように仕立てたのは、オレなんだけどさ。

「あ〜あ。これが失恋の痛みってやつかにゃぁ」

でも、これで良かったんだよね。
こうすれば、少なくとも二人は、幸せになれるから…。

「…ちぇっ。オレってばのけ者じゃんか」

……。

「オレが譲ったからにはハッピーエンドじゃんね。
 …なぁ〜んか嫌な役」

…もしかして結局一番哀しい思いしてんのってオレ?
ま、でももういいや。

「…決めて来い、大石!」



 *−*−*



オレ、何やってたんだろな。
本当にバカだったよ。
だって、自分で何してたか分かってないんだもんな。
ごめんな、
ごめんな…英二。ありがとう…。

「……!」
「!」
…ごめんな!」
「そんな、私、謝られたって…」

そう言って振り返ったが細くて、
触るだけで壊れてしまいそうで…。
でも、俺は気付くとに後ろから抱き付いていた。

「やめて、大石君!そんなことされたって、私…」

振りほどこうとするの肩を、
俺はもっと強く抱き締めた。

「違うんだ。俺は…のことが好きだ」
「ほん…とに?」

俺は涙で潤んだ視線でこっちを見てくるに、
頷いて肯定の意を示した。

「じゃあ、さっきはどうして…!」
「ゴメン」
「…もう。謝られたら怒ることも出来ないじゃないの。
 …でも嬉しい。…あ〜、良かった」
「良かった?」

に笑顔が戻って良かった、と俺は思ったが、
嬉しいはともかく、“良かった”という表現はどうなのだろう、
と少し疑問に思った。
疑問符を付けて言い返すと、は戸惑ったように言ってきた。

「え?あ、んとね、なんでもない!アハハ…」
「…ほんとか?」
「う…実はね、大石君と菊丸いつもラブラブだから、
 出来てるんじゃないかって噂聞いたから…あは;」
「……」

呆れて声も出なかった。
というよりか、うちらそんな風に思われていたのか…。
……英二も浮かばれんな。

「私、幸せ」
「…俺もだよ」

そう言ってのことを抱き締めながら、
こりゃ英二には何か奢らないと顔が起たないな、
なんて考えてしまうのだった。
























英二さんゴメンっ!!(まず謝罪)
思いっきり切ない役引き受けて頂いちゃった;
ごめんなさい…嗚呼。
黄金で△ドリームやると、私の趣味により大石寄りになるので(コラ)、
英二さんが切ない役になりがち…あぅ;

二兎を追うものは一兎を得ず、でしたっけ?
そんな感じのないようですね、ハイ。

この話、「俺は笑ってるが〜」「誰一人として幸せに〜」
「決めて来い、大石!」の3つのセリフが書きたくて出来た話だったり。
三角関係初物だったりします。
ゴールデンウィーク(黄金週間)に浮かれて書いたものですが。
…しかしアップするの遅っ!!!(大爆死)


2002/11/17