* 髪は女の命 *












今日も私、は元気に青春学園中等部へ登校します!
朝は、結構早い。
朝練があるんだ。
何しろ、全国区の部だからね。
…といっても、実際は私は出てないんだけど。

私は、青学テニス部のマネージャーなのです。


「お早う御座います!」
「ああ、お早う」

手塚部長、相変わらずお堅いですね〜…。
とは言わないけど。うん。

よぉし、今日も頑張るぞっと!


「おはよう」
「!」

聞きなれた声に、
私はバッと振り返った。

「おはようタカちゃん!」
「あ、おはよ、
「………」

…何を隠しましょう、
私は、河村隆君のことが好きだったりします!
告白。ぶっちゃけてみた。

マネージャーというのは、
部内で(先生を除いて)唯一の女子。
やっぱり、特別扱いというか、ちやほやされがち。

「おっはよ〜!今日も可愛いにゃ♪」
「英二おはよ〜、…ってちょっと引っ付かないでよ!」
「えへへ♪」
「菊丸!もうすぐ部活が始まるぞ!から離れて早く着替えて来い!!」
「…なにさ、手塚も狙い?」
「………」
「へいへ〜い。着替えてきますよぉ〜っと…」

…こんな日常。
よく、同じクラスの友達とかに、
「テニス部の人たちと仲良くなれていいね」って言われる。
確かに、私もそれは嬉しいことだけど…
本当は、ただ一人にだけ見てもらえればいい、なんて思ってる。秘密ね。

しかし、その肝心な人にはあまり見てもらえず…悲し。

でもでも、絶対負けないもん!
必ず振り向かせて見せるんだから!




  **




そこで、なのです。
これは、思い切って告白するしかないなと。
…唐突だけど、私は本気です。
本気と書いてマジと読みます。

結構、仲は良くなってると思うのよ。
ってか私が引っ付いてるだけなんだけど;

そう。引っ付いてるだけじゃダメなのよ。
一方通行は切な過ぎる!
両想いになるのです!

…とかこんなことをこっそり授業中に考えてる私。
いいんだ、当たられても答えられる自信がある!


「それじゃあ、次の問題を、そうだな…、解いてみろ」
「はい!え〜っと…分かりません!」
「……」

………あはは;




  **




――部活の休憩中。

「タカちゃん」
「ん、なに」
「今日の帰り一緒に帰れない?」
「え…いいけど」
「やったvそれじゃ、約束ね!」
「う、うん…」

よし、ミッション1達成。
順調順調。

「ねぇ、今タカさんとなに話してたの?」
「ひみつ」
「えぇ〜!何それケチ〜!!」
「あはは」

英二って面白いから好きだ。
同じクラスだから、普段も結構喋るしね。

でも、ごめんね。
今はあなたに構ってる暇はないの。
私は本気と書いてマジなんだからっ!!

…ってなによ、この人は。

「英二…何やってんの?」
の髪の匂い嗅いでるのv」
「やめてよ変態!」
「へ、変態はヒドイにゃっ!!……だってさ、
 の髪黒くて長くて綺麗だし、なんかいい香りがするんだもん♪」
「……」

黒くて長い髪…。
…えへへ、綺麗かな?
ちょっと嬉しかったりする単純な自分。
だって……ね。




  **




、それじゃ帰ろうか」
「うん!」

おぉぉぉ、なんかいい感じ…。
ちょっと緊張してきましたよ?

一緒に帰るときって、どんなこと喋るのかしら。

「…えへへ、タカちゃんと一緒に帰るなんてすっごい久しぶりだね!」
「久しぶり?…初めてじゃなかったっけ…」
「やだぁ〜、憶えてないの?」

…ま、無理もないかな。
憶えてるのは、私のほうだけかもしれない。
一緒に帰るなんて…10年ぶりぐらいだもん、大体。

そもそも、私がタカちゃんを好きになったのは、
小学校の時だもん…。





 ***





入学式。
新入生は、曲に合わせて元気に入場。
適当に背の順に並べられて、手を繋いで行進してくのさ。
そのとき…隣だったのが、タカちゃん。
といっても、まだその時点では好きでもなんでもなかったんだけど。

「君、名前なんていうの?」

「ボクは河村隆。よろしく」
「うん!よろしく〜♪」

こんな可愛らしい出会いで。
家も結構近かったことから一緒に帰ったり、
一緒に遊んだり。
とにかく仲が良かった。

そして、そんな私はいつの間にか
タカちゃんに恋をしていたのです。
初恋は小学一年生。
少女漫画の題名にでもなりそうね。

元々、私はおままごととかその手の遊びがあんまり好きじゃなくて。
休み時間は、男子に紛れてサッカーとか野球とかやってた。
その頃は、力の差もそこまで無かったし。
それどころか私は野球をやればサッカーをやれば点取り屋、
野球をやればピッチャー4番打者という
なんとも恐ろしい女子だった。

でも、あるときクラスの女の子に言われた。

「なんでちゃんっていつも男子と遊んでるの?」
「ん〜…そっちの方が好きだから」
「へー…そういえば髪も短いし、男の子みたいだね」

『ズッガァーン!!!』

このとき、私はそれなりに打撃を受けた。
確かに、女の子らしいかと聞かれたら
男勝りなほうだったけど。
スカートなんてはいたこと無かったけど。
髪もそれはそれはショートだったけど!!
それでも、自分は女の子でいたかった。矛盾気味だけど。

それで、訊いてみたんだ。

「ねぇタカちゃん」
「ん?」
「あたしみたいにさ、髪も短くて、スカートも穿かなくて、
 おままごとしないみたいな子ってさ、どう思う?」
「どうって言われても…自分がいいと思ったらそれでいいんじゃないかな?」
「そっか…そうだよね!」

私はその言葉が嬉しかった。
そしたら……。

「それに、確かにって男の子の友達みたいで付き合いやすい」

『ズッゲェーン!!!』

タカちゃんに悪気は無いのは分かったけど、
でも…それなりに打撃を受けたのでした。

所詮お友達なのね…とほほ、と。
やっぱり、タカちゃんはもっと女らしい子のほうが好きなのかな?って。

そんなことを思い始めた矢先、
おやつを食べてた私にお母さんの一言。

「ねえ、ちょっと真面目な話をするから聞いてね」
「ん?なぁに〜?」
「今度、引っ越すことになったから」
「――」

そう言われて、私は思いっきり号泣したんだっけ。
行きたくない行きたくない、あたしだけでも残る〜!!って。
でも、当然小学一年生の私の話なんて取り合ってもらえず、
一年生一学期終了と同時に、転校。

東京から、一気に青森へ飛びました。
いろいろと大変なこともあったけど、
そこで楽しい小学校生活を過ごしました。

そして…私は青学を受験しました。

3月の終わりには東京に戻れるめどがたったのです。
どうせ、公立中学に行っても知ってる人なんてほとんど居やしない。
折角なので、私は私立を受験した。
それが、青春学園です。

めでたく合格し、入学。
入学式の時、タカちゃんを見つけたんだ…。
随分と変わってたけど、
絶対に、タカちゃんだって分かった。

正直な話、青森に居た間もずっとタカちゃんを好きでい続けた〜、
とかそんな乙女な話はない。
他に好きな人ができたのかというと、そうでもないんだけど。
はっきりいって、会うまで忘れかけてた。
見た瞬間に、懐かしさと愛しさが全て込み上げてきた。

でも、何だかんだいって、意識してたのかな…。
何故って、私は小学校の間ずっと髪を伸ばし続けてた。
鬱陶しく感じることがあった。
洗ったり結んだりするの面倒だった。
邪魔だった。
でも、伸ばし続けてた…。

タカちゃんがテニス部に入ると知った。
本当は私も入りたかったけど、
女子の私が男子テニス部になど入れるはずも無く。
少しでも近付きたくて、私はマネージャーを希望した。

向こうは、こっちのこと憶えてないみたいだったけど…。
でも、絶対振り向かせるって、その日決めたんだ!!!




 ***




それで、かれこれ2年間な訳ですよ。
行動するの遅いなー、私…。
でも、今日こそ今日こそ絶対手に入れて見せます!!!

そんなことを考えてメラメラ燃えてると、
タカちゃんが訊いてきた。

「…ねえ
「ん?」
「なんで…俺のことちゃん付けで呼ぶの?」
「―――」

え…それわ…。

「特別、だから…」
「特別?」
「う、うん……」

ヤバイ…心臓バクバクいってる…。
えぇい、負けるな
このムードでそのままアタックアタック!
そしてそのままゲッチューウォンチュー!

と思ったら、こんな一言。

「その呼び方やめないか」
「…――どう、して?」
「いや、たまに言われるんだよ…どうしてお前だけちゃん付けなんだ、って」

…英二かな、なんて頭の隅で思いながら、
本当に考えてるのは別のこと。

「迷、惑…かな……」
「いや、迷惑なんてことは無いんだけどっ」

……やばいやばい、
涙、出そう…。

私はずっとタカちゃんのこと好きで、見てて。
少しでも近付きたいと思ってて。
でも向こうはこっちのことなんて別に想ってなくて。

擦れ違ってた。
自分だけ空回りしてた。

馬鹿みたい……。

今日こそは、手に入れるって、決めてたのに……。

私には、そんな勇気、無い。

過去の思い出が否定されたみたいで、
私を支えてくれるものが、消されたみたいで――。

それでも、思いは消せない。


「…昔はさ」
「え?」
「昔はさ、タカちゃんもあたしのこと名前で呼んでて」
「……?」
「分かってるよ!そんなこと憶えてるの私のほうだけだって!!」
「え、ちょ、ちょっと落ち着いて…」
「どうせタカちゃんにはあの頃のことなんてどうでもいい思い出なんでしょ!?」


止まらない。


とまらないトマラナイ。

言葉も涙も想いも。


自然と口から言葉が飛び出す。
止めなきゃいけないって分かってるのに。
自然と目から涙が流れる。
弱い自分は見せたくないのに。
思いが胸から溢れる。
空回りしてると、分かっているのに………。


「……っ」
「あっ、!!」


やっぱり、向こうにはその程度の思い出だったんだ。
私がいくらいくら想っても、一方通行。

私は変わってない。
向こうは変わってしまったの――?


私は走った。
涙で歪んだ世界の中。

道行く人全てが敵に思えた。
泣いてる私を嘲笑ってるように見えた。
走る私を嫌がって避けてるように見えた。
何もかもが嫌に思えた。


「ハァ……」

息を切らして止まった時、
私はもう家の近くまで来ていた。

今日こそは、手に入れるはずだったのに…。
そんなことを考えていると、後ろから温もり。
誰かなんて、すぐに分かった。

「…タカちゃんっ!?や、離して…!」
「離さない」
「同情なんていらない、どうせ、私なんか…っ!」
「思い出したよ」
「……へ?」

私が暴れるのをやめると、
タカちゃんは漸く落ち着いて腕を離した。

「ごめん、さっき言われて、やっと気が付いた…」
「思い出したって…小さい頃のこと?」
「他に何があるんだよ」

タカちゃんは微笑を浮かべた。
少し、照れたような表情で。

「ごめん、本当に、気付かなくて…三年間も傍に居たのに」
「いや、思い出してくれればいいケド…」

私は言いながら涙を拭った。
そしたら、タカちゃんは言った。

「随分と、変わってたから…」
「変わるって、私が?」
「うん」

私、変わったのでしょうか…?

ポケンととぼけてる私に、タカちゃんは言った。

「随分…女らしく、なったっていうか……」
「!」

瞬間、自分の顔が赤くなるのが分かった。
そしたら、タカちゃんも少し赤くなってたから、
なんか嬉しかったりして。

「ど、どどどどんなところが!?」
「え?どこって…少しおしとやかになった?」

…これでも?
まあ、小学一年生の頃から比べればね…。

「それから?」
「それから…髪、伸ばしたんだね」

そう。
これなのよ、私が求めていた言葉は。
このために…ずっと伸ばしてきたんだから。

「でも…」
「?」
「短いのも…“”らしくて良かったと思うけど」
「!」

私は、思いっきりタカちゃんに飛びついた。

「タカちゃ〜ん!!」
「わっ、こんな道端で…」
「タカちゃん、大好きぃ〜!!!」
「…俺もだよ」

その瞬間は、本当に幸せでした。

何がって、ありのままの自分を認めてもらえた気がしたから。
それから、あの頃の気持ち、思い出せてもらえたこと。
些細な一言だけど、本当に嬉しかった……。

それに、つまり結果的には上手くいった訳だし?
結果よければ全て良し!




 **




次の日は朝練が無かった。
私は目が早く覚めてしまって、早く学校に来た。
軽く友人に挨拶を交わすと、
みんなが驚いた表情を見せた。
それを軽く促すと、私は窓側にある自分の席に着いた。
そこから、門のほうを眺めてみた。

一人の人の到着を待ち侘びて…。


そのとき、後ろから声が。

、おっはよ〜…んにゃ!?」
「ああ英二、おはよ〜」
「…それ、どうしたにゃ!?」
「ん?」

私は、短くなった髪に触れた。
そう、髪はバッサリ切ってしまったのでした。

在りのままの自分を、見てもらおうって決めたんだ。
だから…もう終わり。


「…あ、もしかして失恋とかっ?」

…女が髪切ると、すぐこれだ。

私は、微妙に楽しそうな表情をする英二に、
満面の笑みで答えてやった。

「ううん、成就したの!」
「…はにゃ?」
「あ、来た来た!」

私は、頭の周りにハテナマークを浮かべる英二を置いて、
教室を飛び出した。

どんな表情するかな?
どんな反応見せるかな?


そんな期待を胸に、私は階段を二段飛ばしで駆け下りた。






















終わりかた微妙っ!?(滝汗)
えと、タカさんBD記念のドリムっス。いちお…。
タカさん初です。難しかった…;
ほとんど主人公の勝手なノリで進んじまった感じですが。まあいい。(ぇ
タカさんが主人公を好きになる動機がない気がする。
…あ、いわなきゃ気付かなかった?(汗) 書かなきゃ良かった。(後悔)

なんか…全体として纏まってない気がする;
どうしよう…頭の中の構成では完璧だったのに…Why?
英二さんの位置も微妙だし。はっきりと△にしちゃえば良かった?
ってかもっと微妙なのって手塚だし。(苦笑)

ボーイッシュな主人公ですが、内心は乙女。そして幸せボケ気味。
難しいですねぇ…いやはや、本気で。
最後の一行、二段飛ばしというのは
早く近付きたいという気持ちと同時に、
女らしさを捨てかけてるという意味もあったり…。
成就したからってそれじゃいかんだろ、主人公。(ツッコミ)

とにかくタカさんお誕生日おめでと〜!
訳わかんないのになっちゃってゴメンナサイ〜><;


2002/11/14