『プルルルルル』


電話がかかってきたのは、土曜日の午後。











  * テレフォンサービス *












あたしは、いつも通り部屋で漫画でも読んでて。
ごろごろと特に何をするわけでもなく。
自分で忙しいとか言ってる割には時間を持て余していた。

そんな、土曜日の午後。



『プルルルル』

居間から、電話の音が聞こえた。
でも、どうせ自分には関係ないし。
自分に電話なんて滅多に掛かってこない。
受話器を取るのは、親の役目。

あたしには、関係ない。



電話の音が止まる。
親が受話器を取ったのだろう。
ま、関係ないし…。

その電話から一分も経たないうちに、ドアのノック。

、電話だよ」

電話?
あたしに?
なんだろ…誰かが明日遊ばないかとでも?

「誰?」
「桜井君。同じクラスの」


…は?


「えっ!?」

動揺したまま受話器を受け取る。

えっ、えっ、えぇ!?
どうして…そんな…。

桜井とは確かに同じクラスで。
結構男子では仲良い方だったけど特別どうってわけでもなく。
なんで、突然…。


「…もしもし?」
「あ、?オレだけど」
「うん……」

電話から聞こえてきた少し低い声に、少し戸惑う。
今まで、男から電話なんて掛かってきたこと無かったから。
あるといっても、お父さん、先生、塾への勧誘…それだけ。
柄にもなく、少し緊張していた。

「突然電話かけて悪いな」
「いや…別に平気だけど」

喋ってるうちに、ああ、いつものあいつじゃん。
とか思えて、楽に話せるようになってきた。

「今日電話を掛けたのはな…」
「ん?なに?」
「…明日の午後空いてる?」

……へ?

なに、なになになに!?
もしかして…そういう展開!?

「空いてる、けど…」
「実はさ、デートに誘いたいんだけど」



硬直。


あたしは、受話器を持ったまま固まっていた。

なにさなにさなにさ!?
何触れぬ顔して何だかんだいってわいに惚れてたのかねチミ!?
ちょっと…本気でそういう展開!?


と思った矢先。


「…っていうのは冗談なんだけど」
「あそ、だと思ったよ」


……笑。

心の中で大苦笑。
咄嗟にちゃんと切り返せた自分に万歳。

「実はさ、勉強教えてほしいんだ…」
「…?」

勉強。
なんだか突然現実突き付けられた感じ。

「なんで突然?」
「いや…だんだんテスト近づいてきただろ?ほんとは10日前ぐらいから初めりゃ
 いいんだろうけど…丁度その辺部活の大会と重なっちゃって、練習があるから。
 だから早めに始めたいなって思ったんだよ」
「ほ〜ぅ」

偉いなぁ…なんか感心しちゃった。
あたしだったら部活に没頭して
結局勉強せずに終わるところ。オイオイ。

「ん。わかった。で?あたしはどうすりゃいいわけ?」
「明日の午後、うち来てくれないか」
「何時ごろ?」
「う〜ん…まだよくわからないから、明日また電話する」
「オッケー。じゃあ待ってるよ」
「悪いな」
「ううん、大丈夫。じゃあね〜」

『ピッ』

……。


ビックリしたぁ…。
まさか、電話が来るとは…クラスの男子から。
人生わからないもんだね。

…。

でも、なんであたしだったんだろ…?
ま、いっか。








次の日。
なんかいつ電話が来るのかそわそわしてる自分が居まして。
なんで所詮クラスの男子に…。
と思うのですけど、緊張してまして。
…どうしたんだ自分。


『プルルルル』
「!」

電話が鳴ると、心臓が激しく脈打つ。
しかし、自分が出ると親に不審がられるので
部屋でドキドキしてみたり。
…しかし2分ぐらい経っても親は来ない。
どうやら違う人からの電話だったようで。

なぁーんだ。

……とかがっかりしてる自分が居るわけですが。
これってどういう展開…?


そして昼の2時。
忘れた頃に、電話が来て。
親が丁度いなかったので、自分が電話に出る。

ナンバーディスプレイの表示を見る。
…えぇ、間違いないようです。

心なしかゆっくりと受話器を持ち上げる。

「…もしもし?」
『もしもし桜井ですけど…』
「あ、うん…わかってる」
『…?なんでわかってるの?』
「いや、ナンバーディスプレイ付いてるから…」

なんか喋り口調が固いぞ自分!?
なんかどぎまぎしてしまうよ。くぅ…。

『えっと、勉強教えて欲しいって話』
「うん…」
『これからうちに来てくれないかな?場所、わかるよね』
「当たり前でしょ」

そう。
桜井の家はうちから徒歩3分としないわけで。
要するにご近所さん。
あたしは引っ越してきたから幼馴染みってわけじゃないんだけど。

「それじゃ、今から行くね」
『ああ、悪いな』

電話を切る。
溜め息。

「ほぇー…」

なんて言うんですか?
つまり…わたくしこれから男の家に一人で旅立つわけですよね?
おぉ…大発展。
いや、別に発展もクソも無いけど。

なんか壊れてきたぞ、自分。
たかがクラスの男子の家。
そんなに意識すること無いのよね、うん。


というわけで、やってきました桜井家。

…おぉ、うちより全然立派…。


『ピンポーン…』

…このインターホンを鳴らしてからの数秒間が
なんともいえぬ緊張感。

『…はい?』
ですけど…」

何故かフルネーム。

『あ、今開ける』

暫くして、階段を駆け下りる音。
ドアが開けられる。

「よぉ」
「…ども」

初めて見る私服姿。
センス悪く無いじゃん、とか思ってみたり。
そういう自分は変な服着てないかしら、
とかちょっと戸惑ってみたり。

…どうってことないクラスの男子に、どうして…?




「で、早速なんだけど」

部屋に着くなり、桜井は教科書を広げた。
男の子の部屋ってどんなものかと思ったら、
結構片付いてて綺麗だった。
…うちのほうが汚い?笑。
って笑ってる場合じゃないわよね。

桜井は、自分の机の椅子に座ってると思われる。
あたしの分の椅子は、ご丁寧に用意してあった。
別の部屋から持ってきたと思われる、
キャスター付きの椅子。かいて〜ん。

「…回るな」
「いいじゃんいいじゃん、で、何を教えて欲しいんだって?」
「……」

桜井は一瞬固まると、喋り始めた。

「数学」
「いいよ、得意分野だし」

「と、英語」
「うん。分かった」

「それから理科」
「おっけー」

「あと国語」
「……教えられるところまで」

「で、社会」
「…正直に全部って言わんかい」

そんなど付き合いをしながら、
あたしたちは勉強を始めた。
といっても、あたしは横で見てるだけなんだけど。

…ずっと見てたらさ、
指長いなー、とか
字も結構きれいじゃん、とか
こんな表情するんだ、とか
それなりに整った顔してんじゃん、とか。

……。
べ、別に見惚れてたわけではなくってよ!?
って何焦ってんだ、自分…。

「あ、あたし暇なんだけど別のことしててもいい?」
「別にいいけど…何もねぇぞ」
「う〜ん…アルバムとかさ、ない?」
「本棚に二段目ある。それはほとんどオレしか写ってないけど」
「おっけ〜…」

アルバム拝借。
こういうの見るの、結構楽しいんだよね…。

「…何これ!鼻たれ小僧じゃん!」
「あ、バカ!昔のは見るな!!」
「あははは!面白すぎ!!」
「……笑ってないで、ちょっとここ教えてくれ」
「あ、ハイハイ」

そうそう。あたし勉強教えに来てたのよね。
すっかり忘れてた…。

「…というわけで、ここをこう代入して、
 そうするとxが求まるから、この式を計算すると…yも出ると」
「おお…すげぇな」
「数学だけは任してよ!」
「数学だけ、な」
「あっ!そういうこと言うと他の教科教えないよ!?」
「悪ぃ悪ぃ、冗談だって!」

怒ったような表情見せてみるけど、
実はこんなやり取りが楽しかったりして、なんてね。

また問題を必死に解き始める桜井。
あたしはアルバムに戻る。


昔のは見るなと言われたし、
じゃあ後のほうでも…。

「…お」

なんか、可愛い子が出てきたv
このアルバム桜井以外の人写ってるのほとんど無いのに、
…ツーショット。
仲良さげ……。

「ねぇー桜井ぃ…これ誰」
「ちょっと待って、今解けそう…」

ちょっと待てといわれたけど、
気になるものは気になる。

あたしは、必死にペンを滑らせる桜井に
アルバムを掲げて見せた。
一人の女の子を指差して。

すると、問題を解け終えたのか、
こっちを向き直して、言った。

「…これ」
「ああ、美幸って言うんだけどな」

み、美幸?
誰だ…ってか呼び捨て!?
仲良さげで…ツーショット…呼び捨て…。

もしや、もしや…。

「か、可愛いお方ですね…」
「うん、結構可愛いだろ?」

…ノロケかよ。
そういう展開!?
ベタ惚れ彼女がいたわけ!?

…へ〜…そうなんだ。
いや、だからどうって訳でもないけど、うん。
……そうだった、んだ…。

「……あたし帰っていい?」
「え、ちょっと待てよ!まだ全然教えてもらってないんだけど…」
「気が変わった」
「おい、!」

なんでだろう。
なんでか分からないけど、むしゃくしゃした。
胸の中に黒い塊みたいなのがある感じがする。
なんで……。

あたしは鞄を掴んで立ち上がった。
すると、桜井はあたしの前に立った。

「…何よ」
「どうしたんだお前、突然」
「だって……」

あたしが言葉に詰まったとき、
桜井の後ろからドアのノックの音。

「雅也ー、これから出掛けない?」

…女の人の声。
お母さんって感じじゃない。
あたしと同い年ぐらいの……。

「え、今はちょっと…」

…誘われてる。
何事?
何事何事!?!?

混乱してると、桜井はドアを開けた。
そこに居たのは……。

「…あなた、写真の…!」

そう。そこに居たのは例のアルバムに居た人。
まさか、まさか…!

あたしが固まっていると、
その人は床においてあったアルバムに目をやり、こっちを向き直していった。

「写真?ああ、アルバム見たのね。桜井美幸15歳、よろしく!」


―――。

サクライ…桜井!?


「でぇっ!?」
「あれ、お前初対面だっけ?」

…どういうことどういうこと!?
……お姉さま!?!?

パニックに陥ってるあたしに、
美幸さんはあたしに問い掛けてきた。

「あ、もしかしてあなたが噂のちゃん?」
「ウワサ?」
「ちょ、ちょっと姉ちゃんは黙ってろよ!」
「あはは、それじゃ〜ごゆっくり♪」
「……ったく」

……ウワサ?
あたし、噂されてた訳?
…どういうことよ。
っていうか……。

「悪いな、騒がしい姉貴で」
「いや、全然……」

………。

「年子?」
「うん」

……マジっスか。

「ねぇ桜井ぃ」
「ん?」
「桜井って…もしかしてシスコン?」
「ぶっ」

…吹いてるし。
図星ってとこかね。

だって、普通自分の姉貴可愛いとか言わないでしょ…。
よっぽどご自慢のお姉さんなのね、はいはい。

なぁ〜んだ。
余分な心配しちゃったよ。良かった。

…良かった?


「さあ、勉強の続きでもやりますか!」
「え、お前帰るんじゃねぇの?」
「気が変わった」
「…自己中〜」
「五月蝿いわね!」

そんなこと言いながら、
なんか、いい気分だったりした。
怒ってるはずなのに、なんとなく笑ってしまった。
そしたら、向こうも笑い返してきた。

…笑う桜井を見て、確信した。

……好きなんだな、あたし。桜井のこと。
いつからだったろ?わかんないや。
…でもそうなると、今めちゃイイ展開!?
好きな人の家に部屋で二人きりですよ!?
…言っちゃいますか?唐突だけど。

……言っちゃいましょうか?
そうだ!こういうのは言われるより言った方がいいに違いない!

「ねぇ桜井…」
「ん?」
「………えっと、さっき言ってた噂って何?」

ああ!私の根性なし!
何やってんだ!
ああ!ぎゃあ!わあ!

…心の中で叫んでも変わらないわな。


「…お前、そういうの流させてくれないワケ?」
「え?」

振り返ると、桜井は顔に手を当てていた。
指の隙間から見える顔は、
微かに赤らんで見えた。

「この前姉ちゃんと話してるとき、
 口滑らせちまったんだよ…。好きな人いる?って訊かれて」
「………えっ…!?」
「…本当は、今日お前を誘った時から、
 ずっと言おうと決めてたんだ……オレ――」
「!!!」

言葉を聞き終える前に、私は走って逃げた。
恥ずかしくって、その場に居られなくて。

親はまだ帰ってきていなかった。
家に駆け込んで、鍵締めて。
ソファにぼさりと倒れこんで、
真っ赤な自分の顔に手を当てた。

「…言おうと思ったら言うなんて反則〜」

でも、逃げちゃいかんだろ自分、と思ったとき。


『プルルルルル』

一本の、電話。
ナンバーディスプレイを見て、私は笑った。
やっぱり、自分から言った方がいいね。
驚くかな?
悔しがるかな?
どう思うかな?

そんな期待を胸に受話器を持ち上げた二秒後、
私たちは二人同時に結ばれた。


全ては、一本の電話から始まった。






















何がしたかったのかわかりません!(爆)
一応桜井君ドリーム。
初めは乗り気で書いてたのに、結構難しかった…。
桜井君シスコンにしちゃったし。(笑)
でも年子の姉居るの希望。めちゃ希望。
あ、妹でもいいやとか思った。(気変わりすぎ)
その場合は3つ以上離れてること必須。

終わり方、微妙。(笑)
電話使うことにこだわりすぎて無理しちゃったかも。反省。
一応、あれは受話器取ったら二人同時に「好きだよ」
という意味で書きました。分かりにくいかな;
ってか題名謎過ぎ。(苦)

他校キャラ初ドリームです。
桜井君ラブ!出番増やしてくれ!(主張)


2002/11/13