* ホントノキモチ *












「間違いない…3年6組、不二周助!!!」

おっと、あたしとしたことが。思わず大声で叫んじゃったわ。
だって、3年目にして初めて憧れの不二周助様と同じクラスに
なれたんだもの!

「ワ〜イワ〜イ!!」
「ハイハイ、良かったわね」

思わず一緒にいた友達に抱きついてしまう。
嗚呼、ほんとシ・ア・ワ・セv

その時、後ろから聞き覚えのある(むしろ聞き飽きた)声がした。
そうそう、こいつも同じクラスなのよね。

「おはよー♪」
「おはよっ、英二」
「どうだった?クラス」
「お生憎様、今年も同じでございます」
「マジ!?じゃあ3年連続じゃん!」

そう、あたしたちは青春学園中等部に入学して以来、
ずーっと同じクラスなのだ。
腐れ縁、とでも言うべきなのだろうか。
この人数もクラスも多いこの学校で、3年も連続で同じクラスなのだから。

「そうそう!それでね、不二君も同じクラスなんだよ!」
「えっ!?不二と?」
「そうなの〜。だからあたし嬉しくってさ!」

英二とは仲良かったし、相談とかもよくするから、
英二はあたしが不二君を好きなことを知っている。
でも、英二って相談に乗るの嫌いなのかな。
あたしが不二君の事で相談するとたまに露骨に嫌な顔してくるのよね…たまにだけど。
そんなことを考えてたら、ついにこの人がきた。

「おはよ、英二」
「ふっ不二君!?」

急いで振り返る。ホ、ホンモノだわっ!(当たり前だけど)
ギャーそんな近くにっ!今日も美しいわ!輝いてるわっっ!

「おはよう不二ぃ〜。オレたち同じクラスだよ〜」
「そうなんだ。ところでその子は…?」
「うんと、オレと3年連続同じクラスの…」
です!よろしくお願いします」

深々と頭を下げる。っていうか、あたし今すっごい顔赤いわ!絶対!
こんなんじゃ不二君に顔向けできないもん〜;

「よろしく。元気な子だね。 クスッ」

あら?何か笑われてるみたい。でも印象はついたわよね?
いきなりつかみはOK?っていうかもしかして会話したの初めてじゃない?
うわ〜どうしよ!

「それじゃあ教室行こうか英二、さん」
「は、はひ!」

ヤバイヤバイ、思わず声が裏返るところだったわ。
でも、こんなにお近づきになれるなんて…ビバ!同じクラス!!!
これってもしかして“同級生”ってコトよね!?
ああ、なんか素敵なヒ・ビ・キv
だって、これからは授業、行事、その他モロ×2のことが一緒なんでしょ!?
同じ班ってことも有り得るわ!そしたら、掃除、理科の実験、
調理実習なんてのもやっちゃったりして!!!ちょっと待てよ、
隣りの席なんてことになったらどうしよ!?
忘れ物した時教科書見せ合ったり、授業中の些細なお喋りや手紙交換、
偶然目が合っちゃって微笑まれたりなんかしたら!!!
そしたらあたしきっと鼻血のために出血多量で倒れちゃうわね。
そしたら彼が「僕のせいです」なんつって保健室まで
連れてってくれるわけよ!そしたら「あれ?保健の先生いないみたいだね」
とかいう展開になっちゃったりして!そこは2人っきりの保健室…。
何か素敵なことが起こりそうなヨ・カ・ンv まあ別に何も起こらなくても
構わないけど、「僕のせいで倒れたんだから家まで送ってあげるよ」
なんていって何気なくあたしの鞄持ってくれたりして、もう気付けば
“手を繋いで登下校”も夢じゃないという次元まで…。
※妄想癖のため思考が少々おかしい方へいってます。

おっと、そんなことを考えてたら教室についたわ。
3年6組…ここであたしは彼と一年間過ごすのね…v
儚い青春の1ページだわ。だてに青春学園じゃないわね。
少年少女よ大志を抱け!Boys&Girls be ambitious!(もうメチャクチャ)

さん、入らないの?」
「えっ?あっ、ああ!入ります!入ります」

いやん、あたしったら不二様の前でとんだご失態を…。
妄想炸裂してうっかり教室の前で立ち止まってたみたい。
いけない、いけない。このままじゃ不二君の心の中のあたしは
ただの変な人になってしまうわ!

とりあえず、教室の中に入る。黒板になにやら四角とその中に数字が
順番もメチャクチャに書いてある。
なるほど、四角は机で数字は出席番号を意味するらしい。
…初めは素直に出席番号順じゃない?物好きな先生ね。
そういえば担任誰だっけ?…っと。あたしの席はあそこか。
ラッキー一番後ろ♪隣りなんてこの際誰でもいいわ。
誰よ、出席番号14番って…。
どうせろくなやつじゃないでしょうね。はあ。
そんなことを考えて、あたしは視線を床に向ける。
あ、誰かの足。こっちくるわ。
どうやらこの人こそがあたしのお隣りさんみたい。

「よいしょっと」

…ってこの声は!?

「やあ、席隣なんだね。よろしく」


ウッソー!?
ふふふ、不二君と隣の席〜!?
これであたしは保健室行き決定ね…。
まさか、こんなにも早く“手を繋いで登下校”の片道切符を
手にする日が来るとは…神様感謝!

「おぉ〜、も不二も席近いじゃん」

そう言ったのは、もちろん英二。不二君の前の前、つまりあたしの
斜めと1つ前の席。ん?てことは…。

「あたしたち同じ班ってこと?」
「そうみたいだね」

キャーッ!ウソ!?マジ!?!?何か人生順調すぎて
落とし穴の気配を感じる余裕もないくらいよっ!
その後、あたしは本当に楽しいスクールライフを過ごした。
あの日なんか、もう人生の最高潮に達したような気になっていた。


あたしはその日の前日に、英二と電話していた。

「あたしさぁ…明日不二君に告白しようかな…」
「マジ!?」
「だってさ…今じゃただの“友達”じゃない。
 あたしはそれ以上のものを求めてるわけよっ!!」

思わず力説。だって悲しいじゃない!
やっぱりあたしとしてはコ・イ・ビ・トを目指してるわけで。
現状で満足してちゃダメなわけよ!イエス!ザッツライト!!

「ふ〜ん…。じゃ、頑張れ」
「何よ…その興味なさげな態度はぁ」
「だってオレには関係ないじゃん」
「ぶぅ〜〜〜」

何よ、英二のやつ。突然カリカリしちゃってさ。
今までは…協力してくれてたのに。うん。
意味わかんない。

「それじゃ、オレそろそろ切るよ?」
「うん。お休み〜」
「お休み」
『プツっ ツー ツー 』

……。
どうしたんだろ?英二。
……。
ま、そんな事あたしは関係ないわ!うん。
それより明日、どーしよー!!!



あ〜どうしよ。朝からかなりキンチョーしてるわ!
大丈夫!昨日はおまじない8種類も試したし!
星座別占いは恋愛運◎だったし!!
あ゙っ!来た!!

「おおおおはよう不二君!」
「おはようさん。どうしたの?朝から」

嗚呼!今日も100万Wの笑顔!
美しい事が罪ならば、貴方は無期懲役ね!!
むしろ死刑の領域ね!火あぶり!?島流し!?五右衛門風呂!?!?
いかんいかん。こんなムゴイこと考えてる女だなんて思われたらお終いよ!
ジ・エンド。ゲームオーバー。
ああ、笑い死にが一番苦しいのよね…ってだからストーップ!!!


私のカンペキパーペキな作戦!(あら、英二語がうつってるわ)
あたしは気付けば不二君とも手紙をやり取りできるようになんかなっちゃってるわけ!
それを利用するわけよ。
本日も、さり気なーくその手紙の中に呼び出しの手紙を!
朝早めに渡しちゃうとその後が恥ずかしいから、六時間目を狙うわ!
やっぱり、呼び出すのは一日の締めくくりの放課後よね!
彼は部活があるからその後に呼び出すのが礼儀ってやつよね!
その彼が部活から帰ってくるのを待ってる時間がまた切なくて!
というかホントに来てくれるかしら?というこの不安がたまらなく苦しいわけで!!

さん…さん!」
「はぇ?」
「次、体育だけど行かなくていいの?」
「えっ?あ、ホントだ!ありがとう、教えてくれて;」
「どう致しまして」

相変わらず不二君優しいわ…。
ってかまた夢を膨らませて自分の世界に入っていたのね;
とりあえず落ち着いて一日を過ごさないと…。


かれこれそれから五時間半。
いよいよ六時間目、勝負の時!
それにしても、この数学のセンセ眠くなるのよね……。


「――おい!」
「は、はいぃ!」

…あ、あれ?
あたし…寝てた!?いつの間に!!
あわわ;不二君の前でとんだ失態を…。

「居眠りとは余裕だな。受験がないから油断してるんだか知らないが、
 一応テストはあるんだからな。気を引き締めてもらわんと困る。
 それじゃあ…眠気覚ましに109ページの問2に答えてもらおうか」

…はっ、マジ!?!?

唯でさえ数学苦手なのにグッドスリープに陥ってたあたしに
分かるわけないでしょうが!?
…ってだから先生が当ててくるのか;くそぅ。
あぁ〜どうしよ。適当な答えを言うよりウケを狙った方がいいのかしら?
しかしそれでは先生の怒りを覚醒するばかり。
素直に負けを認めたほうがいいのか?
しかしそれはあたしのハイプラズマ並みのプライドが許さない。
う〜んと…。

「どうした?わからんのか?」

ぐぅ。イヤミなやつね。
「ああわかんねぇよ。てめぇの授業が分かりにくいからだよ!!」
とでも言ってやりたいが寝ていた手前文句も言えまい。くそぅ…。

『トントン』
「?」

藤君が小さな紙切れを渡してくれた。あ、答えか。

「えーっと、12√7です」
「……正解」

やった!不二君チョ→優しい!大感謝!!
…そうだ。これならスムーズにあの展開に持ってけるんでなくて?

あたしは寝てて起こられたくせに懲りずにノートの端を破いて
手紙を書き始めるのでした。

……よしっ。
いつも通り丸めて机狙って投げる。とりゃっ!

―内容。
『さっきがありがと!助かったよ(^^)
 お詫びといっちゃなんだけど、何か奢るから放課後一緒に帰らない? ♪』

30秒も経たないうちに返事が来る。

『部活の後になっちゃうけど、いい?』

一応先生が黒板に板書してるのを見計らって、投げる。

『全然余裕♪ んじゃ、放課後教室で待ってるね!』

…今度は返事は来なかったけど、代わりにOKサインと笑顔が返ってきた。
うわ、鼻血もの…。
そんなあたしを保健室送りにするようなことしないでv
何しろ今日はそんなことしなくても一緒に帰れるんだからっ!!

そんなことを考えてると、チャイムが鳴った。

『キーンコーンカーンコーン…』
「それじゃあ、今日の授業はここまで。
 しっかり予習復習しておくように」
「起立、気を付け、礼」

みんながガタガタと散らばり出す。
はぁ。これで今日の授業は終わり。
でもまだ一日は終わらないわ!放課後はパラダイスよ!!
小学校の頃漢字テストで“放火後の学校”なんて
恐ろしいことを答えてしまった自分が切なくも懐かしいわ。
ビバ!放課後のスクール!ハッピー アフター スクール デイズ!
あ〜ホント今から楽しみ。自分の勇気に乾・杯。むしろ完・敗☆


 **


…ヒマ。

HRも掃除も何もかも終わった教室で待つあたし。
日直の仕事で残ってた友達も30分前に帰っちゃったし。
ひ〜ま〜。
なんかさ、好きな人を待ってる時間は苦じゃないとかいうけど、
それは私には通用しないね。
待ち遠しくて仕方がない。早く会って話がしたいわ。

……そういえば、今日英二と話してないわね。
っていうか元気なかったよね。どうしたのかな?


 ***


―同時刻テニス部

「ネット!」
「あ…」
「菊丸交代、次!」
「う〜……」

ちっくしょー。
いつもだったらこんなこと無いのに…。

「お疲れ」
「…ありがと」

オレが顔を洗ってると、不二がタオルを渡してくれた。
顔を拭いてるオレに、不二が言う。

「今日調子悪いじゃん。どうかしたの?」
「……」

不二が水道に腰掛けながら言う。オレも横に座る。

…どうしよう。訊いちゃおうかな?不二に。
のこと…。

……よし。思い切って訊いてみよう!

「不二、あのさぁ…」
「ん?」
「今日、に何か言われた?」
「どうして?」

どうしてって…相変わらず不二は意地悪だにゃぁ。
言っちゃって…いいのかな?
不二はほんとに知らないの?それとも知らないフリ???

「どうしてってゆわれてもぉ…昨日電話で…そのぉ」

オレがモゴモゴ言ってると、
不二はいつもみたいにクスッて笑ってゆった。

「今日、彼女と一緒に帰る約束をしたよ」
「!」

それはつまりどうゆうコト?

「それって…」
「何か言うつもりなのかな」
「…」

不二、絶対気付いてる。
の気持ちに…。
オレの、気持ちにも?

「もしそうだとしたら、僕の返事は決まってるよ」
「――」

一瞬の間。
不二は立ち上がってゆった。

「可愛いよね、ちゃん」
「!」

立ち去る不二の背中を見て、オレは暫く固まっていた。



 ***


さん」
「不二君!」
「ごめん、遅くなっちゃった」
「ううん、全然大丈夫!」

あ、これって恋人的台詞じゃない?
『ごめん待った?』『ううん、今来たとこー』
いやんv 私たちってもう将来を誓い合った仲なのね!?

「それじゃ、帰ろうか」
「はいっ!」
「…ずっと気になってたんだけどさぁ、なんでさんって
 返事するときいつも敬語なの?」
「えっ?あっ、ウソ!いつもつい咄嗟に…;」

だってだって、偉大なる不二様にタメ口なんてきけないわ!
…きいてるけど。オイ。
なんて自分で突っ込みいれてる場合じゃないわね。

「ふふ、おもしろいね」
「そ、そうかな」

Yes!サイッコ→!お・も・し・ろ・い!
それってあたしのことよね!?
不二君のハートを鷲掴みできたわけ?
尾も白いとかいうオチで無くって?イヤッハー!
ああ、いいわねv 放課後の学校…。

「そうだ!あたし何か奢る約束だったよね、
 何がいい?タイヤキでいいかな?」
「う〜ん…タイヤキにキムチ味ってあったっけ?」
「え゛っ…」

タイヤキキムチ味!?そんなものあったかしら?
やはり不二君に常に尽くしたい身としては、
必ずしも手に入れなくては…!といっても、
いくら不二君と言えど、あなたのその味覚だけは理解できません…。
まあ、何でも美味しく食べれるということはいいことよね!うん。
料理オンチのあたしの料理も食べてくれるかしら?キャッ!
むしろあたしを食・べ・てv なぁーんて何考えてんじゃ!!

「やっぱりないよね、キムチタイヤキなんて」
「いえっ!必ず手に入れて見せますわ!!」
「いや、いいよ無理しなくて。僕何気に甘いのも好きなんだ」
「…」

なーんて優しいの不二君!
もう思わず泣きそうになっちゃったわよ!
感涙って言うの?嬉し泣き!?


とりあえず、屋台でタイヤキを買って二人で食べながら歩いた。
嗚呼、憧れてたのよね、こういうのv

「それじゃ、僕こっちだから」
「うん。今日は楽しかった!」
「こちらこそ。タイヤキご馳走様でした」
「いえいえ」
「それじゃ」
「うん。バイバ〜イ♪」

…ってちょぉーっと待ったぁー!!
あたしってば本日の最大にして強大なメインビッグイベントを忘れていやしないかぃ!?

「待って、不二君!」

うっわ〜、呼び止めちゃったわよ!心臓バクバクだYO!
パニック陥りそう!HELP ME!!!

「なに?」

おちけつ!おちけつあたし、じゃなかったもちつけ!って
餅ついとる場合かぁー!!
…よし。いつも通りのナイスなボケ突っ込み。

「えっとね、話があるんだけどぉ」

ってもう話しとるやん!っていう気分だね。

「なに?」
「えーっと…」

よし!ここは捻らずストレートに行け!とあたしの第六感が告げる!
先祖様を信じて直球勝負!!

「私、は、不二周助君のことが、好きです!!!」

うわー言っちゃった言っちゃった;
ガバチョっ!ってな感じで深々と頭を下げる。

……アレ?
応答が無いわ。
もしかして返事はNO?イヤ〜!!
あまりの感動に打ち震えて声も出ないとか?
…それは無いわね。ってことはやっぱり!?うわ〜ん!

なんてことを考えていたら、頭にぽんと手が乗った。
続いて、不二君の優しい声。

「ありがとう」

アリガトウ?
それはどういうコト?
OKってことかしら!?だがしかし、一瞬その気にさせといて、
『その気持ちは嬉しいよ。でも…』というパターンも多々!
ど、どっちだ;; この間は何!?沈黙は何!?次のセリフは!?

「実はね、僕も前から君のこと可愛いなって思ってたんだ」


・・・え?


「でぇ!?」

思いがけない言葉に奇怪な叫び声(むしろ呻き声)を上げてしまう。
激しい勢いで状態を起こして不二君の表情を確認。
いつも通りのにこにこ顔。熱はなさそう。というか正常。とっても健康的。

「僕も君のことが好きだよ」


不二君。住宅。沈みかけの太陽。雲。オレンジ色の空。
全てがスローモーションになってあたしの視界に入ってきた気がした。
ぐるんと世界が回る。

!?」

アレ?今不二君あたしのこと呼んだの?何か違和感。
真上にお空。心なしかだんだん遠ざかって…。

『バターン!』


―――暗転。




 **


「…あら?」

目が覚めたのは、自分の部屋。いつも通り。
時計…。

「7時15分…」

なーんだ。さっきのは夢だったのね。
通りで上手く行き過ぎてると思ったわ。
それにしてもリアルな夢だったわ…。
さーて、早く着替えな…。

「あれ?」

あたしは、制服のまま寝ていた。

「あら、。起きてたの」
「お母さん…今何時?」
「7時半頃じゃない?」
「……今日学校ないっけ?」

混乱。今はイツ?私はドコ?
あたしはどこから流れ、どこへ流れ行くというのか…。

「あんた何言ってんの?今は夜の7時よ」
「え?」

てことはぁ…どういうことよ!?

「あんた一体どうしたの?聞けば学校の帰りに倒れたっていうじゃない」
「…?」

つまりどういうことよ。ホワットハープントゥミー?

あたしの何も理解してない顔を見て悟ったのか、
お母さんは溜め息を吐いて言った。

「まあ、一緒に帰ってる人がいて良かったよ。
 不二周助くんっていったね。優しそうで良い子じゃない。
 今度うちに呼んでおいでよ」

大胆なこと良いますね、お母様。不二君を家に呼ぶなんてそんな…
…って、え!?今なんとおっしゃいました!?

「お母さん…誰があたしを送ってきてくれたって?」
「だから、不二周助くんだよ。同じクラスの。
 あの細身の体であんたを負ぶってきてくれたんだよ。
 明日しっかりとお礼言っときな」

現実、だった?
マジで?マジで?マジで!?
不二君が、あたしを……?


 ウ ソ 。



後から考えれば、あれが放心状態、というやつだったのかも知れない。
もう何も考えられなかった。むしろ意識が無かった。
暫くして、お母さんの“あんたご飯食べるでしょー!?”という声で目が覚めた。
というか、現実に引き戻された。
その日は、ずっと夢見心地だった。


 **



…朝?今度こそ朝よね。
今までの全てが夢だったりして…。
それは無いわ。
昨日倒れて頭を打ったのか、少々後頭部が痛む。
後頭部なんか打ち付けてよく生きてたもんだ。
自分に万歳!…って早く学校行かなきゃ!

はあ。教室に行くのがキンチョーだわ。
まあ、テニス部は大抵朝練があるからあたしの方が先に居るんだけどね。

ほぉ〜。心臓ドキドキもんだね。
朝ご飯も喉を通らないわ。ひーふー。
あとは歯を磨いて…と。

『ピンポーン』

誰よこんな朝から。ま、あたしにゃ関係ないだろうけど。

ー、英二君よー!」
「えっ?英二!?」
「どうしたんだろうねぇ、朝から。そういえば英二君今年も
 同じクラスだったわね。また遊びにおいでって言っといてよ」
「……」

そう。英二は昔よくうちに遊びに来ていた。
まあ、目的はお兄ちゃんの持ってるゲームみたいだったけど…。
そういえば、あるときを境に全く来なくなったな…。

『ガチャ』

「何?」
「……」

ドアを開けると、そこには浮かない顔をした英二が居た。

「どうしたの?」
「昨日…どうした?不二…」
「!」

おっかなびっくり。ピンポイントに攻撃してくるわね。

「ちょっと待ってて、一緒に行こ!あ、朝練は?」
「今日は無い」
「あそ、じゃ、すぐ来るから」

元気のない英二を後にして、あたしは洗面所に駆け込んだ。
急いで歯を磨く。鏡確認。よし。

「行ってきまーす」
「ハイハイ行ってらっしゃい」

ドアを開けると、もちろん英二はまだそこに。

「…」
「……」
「えと、立ち話もなんだから歩きながら話そっか」

そうは言ったものの、な〜んか気まずい雰囲気…。

「で?何よ、訊きたいことって」
「だからさぁ、不二のコト…言ったんだろ?」

今日の英二、ホント可笑しい。
表情も暗いし喋る声にも元気が無い。
いうなら耳と尻尾も垂れてるってか?
調子狂うなぁ…。

「言ったよ、OKだった」
「そっか、やっぱり…」
「やっぱり?」
「あ、いや、やったにゃ!おめでと!」
「……」

やっぱり、可笑しい。英二はさ、分かりやすいんだよ。
空元気だって。モロ顔に出てるもん。
それに、いつもの猫語だって冴えないし。
お手前の菊丸語だって出てきやしない。
どうしたの…?

「オレ、やっぱ先行くね」
「え、ちょっと英二!?」

あたしの声に返事することも無く、
英二は走って遠くへ行ってしまった。
だんだん背中が小さくなって、見えなくなった。

「英二…?」




英二…ほんとどうしたんだろ?
そういえば一昨日ぐらいから可笑しいよね?
何かあったっけ…?
……不二君のこと相談してから…?
で、でも今までは普通に相談とかしてたし…。
どうして…?

「おはよう、
「へぇ?」

…あ゛っ!

「あ、お、おはよっ!不二君!!!」
「ふふっ、今日も面白いね」
「あはは…」

一瞬誰に呼ばれた呼ばれたか気付かなかったわ;
間抜けな声出しちゃったし。
あたしとしたことが…。

…そうか、昨日から何か可笑しいと思ったら、
あたしのこと“”って呼んでくれてるわ!
突然変えるなんて器用な人ね。
じ、じゃああたしも“周助”って…。
そ、そんな!ギャー!恥ずかすぃー!!!

ところで、あたしが不二君に呼ばれて気付かないなんてね。
なんか、英二のことで頭一杯でさ。
……これってどういうこと?


「ねぇ
「はいぃ!」
「今日英二の様子がなんか変なんだけど、知ってる?」
「…ワカラナイ」
「そっか」

……不二君の今の微妙な笑顔はなんだったんだろう…。
ま、いっか。
でも、英二ほんとにどうしたんだろ…?


その後、あたしは英二とあんまり話せなかった。
英二自身は少しずつ元気になってきたみたいだけど、
あたしは、前のように気軽に会話できないまま。
なんか、寂しいな…。


 **


そんなことを考えてるうちに、あの日が来た。

「げっ!今日日直じゃーん!」

メンドクサっ!…ズラかろうかしら。
…ちょっと待って、確か日直って、先が隣同士の人じゃなかった!?
な、ななななんとっ!!
…ちょっとやる気v

黒板消しや日誌は面倒臭いけど、
不二君と一緒なら…!
ちょっとはやる気ですかも、うん。


…とはいっても黒板消しは一人だし。つまんなーい。
残るのは放課後の日誌ね!
やっぱビバ☆アフタースクールデイズなのかしら…。
…突っ込む気力も無いわ。はぁ。


―そんなこんなで放課後。

「それじゃあ、さっさと終わらせちゃおうか」
「うん!」

あたし的には、ゆっくりと愛を育みながらでも構わないけどv
なんつって。はは。
でもま、不二君はこのあと部活もあるし。うん。

「……」

『シーン…』

……気まずいわ。なんか会話、会話!
う〜んとう〜んと。

「最近さ、英二元気出てきたよね」

あぅっ!こういうときに浮かぶのが英二の会話だけなんて;
でもどういうこと話せば良いのか分からないし…。

「そうだね。もう吹っ切れたんじゃない?」
「…?」

何その言い方…。
どういうこと?
不二君は…何か知ってる…?

「不二君…知ってるの?」
「何を?」
「英二が調子おかしかった理由」
「多分、知ってる」
「! じゃあどうして…」
「気になる?」
「うん」
「………」

沈黙が走った。
自分の鼓動が速くなっていくのが分かる。

なに、なんなの?
英二に何かあったの?
あたしに関係があるの?
不二君は、何が言いたいの……?

「…君には言えない」
「っ!どうして…!?」
「僕も、そこまでお人好しじゃないよ」
「…?」

不二君の表情に闇が走る。

「君の目に、僕は映ってないよ」
「…え……?」
「じゃ、日誌は出しとくから。暗くなる前に帰りなね」

『バタン』

「…………」


ドウイウコト?

 アタシハフジクンヲミテナイ?

 フジクンモアタシヲミテクレナイ?

 リョウオモイジャナカッタノ?

 アタシハダレヲミテルノ?

 コンナニココロガクルシイノニ
 オクソコドコカデハベツノダレカヲモトメテイルノ?

 
   ワ  カ  ラ  ナ  イ  ―  ―  ―  …  。






「マツモトキヨシに忘れ物〜っと。…あれ、?」
「エー…ジ…」

英二…だよね?今の声。
…もう何も考えたくない。

「どうしたの、っ…」

目の前にいるの英二だよね?…英二だ。
なんか、霞んで見える……。

――涙?

そっか。あたし泣いてるんだ。妙に納得。

?どうしたの?っ!」

目線は足元。
耳に響く英二の声。
でもあたしの頭には届かない。

〜…」

あたしも、英二も、不二君も。
バラバラになっちゃったのかな?
この前まであんなに仲良くて。どうして?

そう考えると、さっきより涙が一気にどっと出てきた。
でも、その所為で意識ははっきりとした。
冷静に涙を落ち着かせて、あたしは前で心配そうにこっちを見てくる英二に声を掛けた。

「英二…」
っ!どうしたの!?」
「英二…あたし、不二君に…」
?不二がどうしたの!?」
「う〜〜…」

ヤバイ、止まり掛けた涙が溢れてきた。
声も出せやしないよ。

「どうしたのさぁ、?」
「う…っく……うぅ〜…」
「止めてよ……。が泣いてると、
 オレまで悲しくなるじゃんかぁー…」


……アレ?英二も泣いてる。あたしのために?
あたしも、泣いてる。誰のために?
不二君のため?ううん、不二君に“僕を見てない”って言われた。
それであたしは悩んだ。じゃあ誰を見てるの?って。
あたしは誰を見てるの?誰のために泣いてるの?
誰を思って泣いてるの―――?


 **


私達は思いっきり泣いた。
ワケも分からないまま。
気付いたら空は真っ暗で。
英二は私を家まで送ってくれた。

「じゃ、また明日ね」
「ん…」
「今日は…ありがとね!
 思いっきり泣いたらスッキリしたよ」
「よかった。は笑顔のときの方がカワイイもんにゃ♪」
「――」

なんか、目が点って感じ。
同い年の男子にそんなこと言われるとわ…。
でも、そういう英二のほうが可愛いよ、
なんてどぎまぎしちゃった自分が憎い。

…そういえば久しぶりだな。
英二とこんな話せたの。
あたしに笑い掛けてくれたのなんて何日ぶり?
なんか、懐かしくて温かい…。


「にゃっ!?にゃんでまた泣いてるの!?」
「え、いや、違うの!全然大丈夫!!」

これはホントの気持ち。
あたし自身も不二君の事は吹っ切れた気がした。
それもこれも、英二のお陰。
この涙は…きっと嬉し涙だ。
あたしはしっかりと前を向いていった。

「また明日ね!」
「うん!まった明日っ♪」

そういうと、英二はVサインをしてくるんと回り、帰っていった。
なんか…明日のあたしはまたいつも通りでいれそうだ。
ううん、むしろ…。

 明日からのあたしが、ホントのあたし!



 ***



………。
英二、上手くやったかな…。

「フ…」

僕も結構お人好しだね…好きな人を他の人に譲るなんて。
…それとも、友情が愛情を上回ってたのかな?
……。
きっと違う。
だって分かってたからね、初めから。
あの子…ちゃん。
僕にやたらと引っ付いてきてたけど、
ホントに見てる人は、違うところに居るって。

…告白されて付き合ったのに片想いなんて、
苦しすぎるもんね。

……。

「あ〜あ。明日あの二人がどうなってるか楽しみだな」

不安半分、楽しみ半分、だけどね。


さよなら、
明日からは、ただの仲の良い…仲良しに戻れるかも分からないけど。
恋人でも、なんでもない、
“クラスメイトの一人”として宜しく。

ね、さん。






















いんや〜、長い!(笑)
こんな長くなるとはな!
三角関係初挑戦作品だったり。(アップは後ですが)
思いっきり不二中心で進んでどんでん返しっていうのが狙い。
前フリは入れるように頑張ったんですが…一応。
…最後の不二のシーン、どうなんでしょ?
性格上ありえなさそうな気もしますが、まあいいでしょう。(何が)
だってあのシーン削ったら、話のつじつまが中途半端なんだもの。
不二に説明して纏めてもらったv(この文才不足め)

続編は書かない予定ですけど、その後の3人の様子は頭に浮かびます。
不「さん、今日も可愛いね」
菊「おい不二!オレのに近付くにゃ!」
主「不二君…v」
菊「マジ!?」
見たいな。ギャグのノリで。仲良くやってると思います。うん。
不二は、冗談みたいに言ってるけど、本当は本当に好きなんです。
でも、悟らせない。ギャグのノリで流してる。
他2人の性格分かった上で。う〜泣けるっ!(誰)

というわけで、無意味に長い不二&菊ドリームでした。
これってやっぱ英二メインなの?(自分でわかれ)


2002/11/09