* 月の終わり *

-where the flowers grow-












ちくしょう…ちくしょう…チクショウ!!
なんでだよ…どうにかなんねぇのかよ!

衰弱しきったエージ先輩。
あんなの今まで見たことねぇ…。
いつも元気で明るかったエージ先輩。
もう…あの笑顔はもう見れねぇのか?

「…っくしょう」

ひたすら駆け抜けてきた足を止めたとき、
思わず呟いた。
自分の気持ちが、口から飛び出してきた、ってか。

…ところで、ここ何処だ?
訳も分からず走ってきたからな。
とりあえず確かなのは、病院の外ってことだ。

斜め後ろを見上げる。
エージ先輩の部屋はここからは見えねぇか…。

「………」

なんとなく、足に任せてぼーっと歩いた。
放心されたみたいに、頭の中はすっきりとしねぇ。
何も考えらんねぇんだ…。

オレは駐車場の中をフラフラ歩いていた。
沢山の車の中を抜けると、土手のような場所についた。
そこには…。

「……海堂?」

そう、そこには海堂が居た。
声を掛けると、一瞬ビクッと肩を震わせ
目の辺りを袖で拭ってこっちを振り向いた。

「なんだ…てめぇか」

海堂はいつものようにぶっきらぼうに言ったけど、
声が少し掠れていた。

「なぁーにやってんだ」
「てめぇこそ…」

オレは平常を装って海堂の隣に座り込んだ。
海堂は一瞬嫌そうな顔をしたが、
正面を向き直して何も言わなかった。

「「……」」

お互い何も言わなかった。
喋る気にもならなかったし。

……。

オレは頭の後ろに両手を組んでごろんと寝転んだ。

あ〜…雲になって風の向くままに流されたいって気持ち、
分かるかもしんねぇな…。


そんなことを考えてボーっとしていると、
海堂が声を掛けてきた。

「オイ」
「あん?」
「菊丸先輩…どうした?」
「あ…」

そうか…こいつ途中で抜けてきたから知らねぇんだ。
エージ先輩の流した涙も、
死を悟ったような笑顔も。

「オレの口からは…何も言いたくねぇよ」
「…それって……」
「……」
「…チッ」

こっちを向いてきた海堂に、オレは珍しくも微笑んだ。
といっても、それは苦笑いというべきで、
ぎこちない物だったと自分で分かった。
それで理解したのか、海堂は舌打ちをすると両膝を膝に乗せた状態で、
力なく俯いていた。

「…っくしょう」

海堂の呟きが聞こえた。
悔しさからか、…涙を堪えてるからか。
心なしか、声が震えていた。

風が吹いた。
さわさわと草が揺れた。
雲が流れて、太陽が隠れた。
辺りが少し暗くなる。

…静かだった。
その静けさが、余計に悲哀を際立てた。

「…ゴールデンペアって、なんだったんだろうな」
「―――」

珍しく自分から喋り始める海堂に、
オレは黙って耳を傾けた。

「いつでも一緒で、それが普通で、
 片方が居なくなっちまったことでやりきれなくなって、
 …こんなことになっちまうなんて」
「………」

自然と溜め息が漏れた。
また、風が一つ吹いた。

海堂がこっちを見ていたのが分かった。
オレは気にせず目を閉じた。

「でも…また一緒になれたのかもしんねぇな」

そう言った瞬間、目を閉じたままでも辺りが明るくなるのが分かった。
ゆっくり、目を開く。
太陽がまた雲の後ろから出てくるところだった。
少し眩しくて、右手を伸ばして陽光を遮った。
指の間から光が零れた。

チラッと海堂のほうを見やると、
動揺したような、落ち着かない表情をしていた。

「海堂…」
「……」

海堂はこっちを向かなかった。
聞こえてないのかもしれねぇな。
でも…気付けよ。
まぁ、色々考えたくなる気持ちも分かるけどよ。

「オイ、マムシ!」
「な、なんだよ」

もう少し大きな声で呼ぶと、
海堂は幾分焦った様子でこっちを振り向いた。

やっと気付いたか…。
それともマムシって言うと返事すんのか?コイツ。

「そう塞ぎ込むなって」
「るせぇ…」

…相当滅入ってるな、コイツ。
言い返す声にも元気がねぇし。

「…元気出せよ」

なんて、こんなこと言って元気出るもんでもねぇだろうけどな。
それでも…こんなしょげてるコイツなんて、見てらんねぇし。

海堂は、重々しく口を開いた。

「だって、お前…この前大石先輩が……いなくなったばっかで、
 やっと立て直してきて…これからって時に、菊丸先輩まで…」

それは、自分を落ち着かせる意味もあったのか、
随分ゆっくりとした口調だった。
そこまで言うと、黙り込んで唇を噛み、俯いていた。
その様子を見ていたら、オレも一回治まった気持ちが戻ってきた。

「……」

湧き上がって来た涙を喉の奥で止めた。
その所為で、幾らか声が震えた。

「そりゃぁ…オレだって悲しいけどよぉ…」

そこまで言って、一回ごくんと飲み込んで、
空を見上げて、言った。

「二人は、今きっと幸せだって」
「けどよ…」

海堂はまだ納得いかないのか、言い返してきた。
だから、オレは起き上がって海堂の正面に回りこんで言ってやった。

「そんなこと言ってたって始まらねぇだろ!
 オレたちは、まだ続いてるんだから」
「……」

それでも海堂は悲しそうな顔を止めなかった。
なんとも言えない切なそうな表情で、こっちを見上げてきた。

ったくコイツは…。
何気に感傷的で涙脆いヤツだからな。
マムシのくせに、繊細なんだよな。


オレは一つ溜め息を吐くと、
少し強めの声で言った。

「ほら、二人が見てるぞ!」

そう言うと、はっとしていた。

少し時間は掛かるかも知んねぇけど、戻っていけるさ、オレ達…。
消えたものは帰ってこないけど、
新しいものを作り出すことは出来る。
残っているもので築いていくんだ。

そんなことを考えていると、土手の上から声がした。

「こんな所に居たのか」
「部長!」
「ほら、帰るぞ」
「はい!…ほら海堂、行こうぜ」
「ああ…」

坂を駆け上がった。
上から太陽の暖かさを感じた。
なかなか来ない海堂を振り返ると、丁度すっと立ち上がるところだった。

今見てみると、オレ達のいた辺りには花が沢山咲いていることに気付いた。
まっすぐに、太陽目指して花開いていた。
風が吹いて、花たちが揺れた。

――お天道様の匂いがした。







flowers grow up to catch the sun...
























第三章は桃ちゃん編でっす。
ちょい桃海意識した。(自白)
やっぱり、誰でも辛いわけですよね。
でも乗り越えなきゃいけないと。うん。
不二編といってること変わらない?(汗)

桃ちゃん、好きです。(突然)
自分は辛くても、支えるのよ…泣ける。
包容力満点!万歳!
(作品のコメントになっていないことはシカトである)

海堂泣かしちゃった。乙女だし。許してください。(土下座)


2002/11/08