* 月の終わり *
-say good-bye to the sun-
もう…分からない。分かりたくない。
今、自分がどんな状況にいるのか。
頭では分かっているけど、心が寄せ付けようとしない。
現実の辛さを、突きつけられた。
受け止めることが…出来ない。
ふらつく足を抑えて、ドアを開く。
白い病室を背にする。
涙で世界が歪む。
その歪んだ視界に移ったのは、青学のみんな。
…そうだ。
頼みごと、されてたんだ。
「乾…英二が呼んでた」
「俺を?…分かった」
僕は視線を上に上げることが出来なかった。
乾のことは肩から下しか見ることが出来なかった。
その乾が入れ違いで部屋に入っていった。
パタンとドアが閉まる音がして。
何かが終わってしまった気がして。
僕はポツリと、言葉を零した。
小さな呟き、君の名前。
「英…二……」
最後のお願い、守れたからね…。
最後の、最期の…。
「エージ……っ!」
役目を果たせたと思ったら、悲しくなった。
これで、僕が出来ることは、何もない。
何もしてやれない。
何もすることが出来ない。
涙が出てきた。
倒れそうだった。
手塚は無言で僕の頭を自分の胸に押し付けた。
「てづ…か…」
手塚のみならず、他のみんなの無言になっていた。
…元々騒ぐようなメンバーじゃないけどね、ここにいるのは。
一番元気でやんちゃだった彼も、もう…。
「………っ」
僕は手塚の服を掴んだ。
溢れる涙は、もう止まることを知らなかった。
英二……。
裏も表もない、素直な君が好きだった。
いつでも明るく、元気な君が好きだった。
なんというか、言葉では表しにくいけど、
…とても眩しかった。
太陽のような人だった。
もう、僕たちを照らしてはくれないのかな…。
輝きを失ってしまった太陽は…?
『ガチャッ』
「乾…」
部屋から無言で出てきた乾に、タカさんが声を掛けた。
僕はそれに反応して手塚から顔を離した。
乾は、なんともいえない悲しそうな表情をしていた。
「英二…なんだって?」
僕は顔を濡らしていた物を袖で拭き取って、
平静を装って言った。
乾は、一つ息を吐いてから答えた。
「…みんなにも伝えてくれと頼まれた。……楽しかった。
大好きだった、ってさ」
「…えい…じっ!」
僕は思わずそこにしゃがみこんだ。
乾の口から出た英二からの伝言。
過去形だったのが、凄く痛かった。
目の前は真っ暗。
頭の中は真っ白。
…分かってた。
こうなるってことは。
でも受け入れられなかった。
信じたくなかった。
そんなの、嫌だよ。
だって…まだ、早過ぎる。
許せない、そんなの!
「不二…」
「手塚!」
上から手塚に声を掛けられて、
僕は立ち上がって叫んだ。
涙も何も、気にしてはいられなかった。
「もう一回…あと一回だけ英二に会わせて…っ!」
正面を見据えて言った。
でも、手塚は首を横に振った。
「手塚ぁ!」
「最期ぐらい…静かにしてやれ。あいつの頼みだ」
「でも…でもっ…」
「大丈夫だ」
僕たちの話に入り込むようにして乾が言った。
僕達二人が振り返ると、
乾は眼鏡を中指で上げ、
ぽつりと寂しげな声で言った。
「あいつは…独りじゃないはずだ」
「……」
話の意味は大体分かった。
大石……。
先に逝って待ってるの?
英二のこと、受け止めるために。
二人、同じ場所に…逝ける?
「ごめん…もう、大丈夫。帰ろ」
僕は目の両端の涙を指で掬って言った。
「…いいのか?」
手塚の心配そうな表情が見えた。
だから僕は、精一杯の笑顔を作って言った。
「うん…。英二、きっと今幸せだね」
「…ああ」
今の僕に出来ることは、
安らかな眠りを願うこと。
二人の幸せを祈ること…。
「それじゃあ、行こうか」
「うん…」
みんな足を揃えて、歩き始めた。
複雑な心境だったけど。
辛くないって言ったら嘘だけど。
僕らが悲しむことは向こうも望んでいないはず。
涙は治まらないけれど。
正直淋しくて仕方がないけれど。
それでも僕が、今することは、君の幸せを願うこと。
英二、今までありがとう。
太陽のような眩しさ、忘れないから……。
the moon never glows without the sun...
不二が白い。(まずそれかい)
あ、月の終わり第二章は不二編です。(遅いって)
失ったものは、大きい。
それを受け止めるのは、やはり大変なわけです…。
でもそれを乗り越えなくてはいけないし、
いつまでも悲しんではいられないと。
…ちょっと語ってみた。(何)
つまりは全て英二さんが大好きだった故、うん。
ってかリョーマさん出てないね。ここに居る中で。
ま、一年生だし、ああいう性格だから。(解決)
2002/11/08