それは、ある日の帰り道のこと。


理由なんて覚えてない。

いつの間にか、喧嘩してた。

いつも仲良い分、反動が大きい。

本気で本気で怒った。


オレは大石と、喧嘩した。











  * 裏返しのウソ *












「もうオレ大石のことなんか大っ嫌いだ!」

オレは思いっきり叫んだ。
曲がり角を横切る人がこっちを振り向いていた。
でもそんなことを気にする余裕もなく。
顔が真っ赤になるくらい、叫んだ。

「ホント嫌だ!もう…オレに近寄るなよ」

そう言った後、何故か一瞬寂しくなった。
潤んだ目を誤魔化そうと必死だった。
その感情も押し殺して大石を思いっきり睨んだ。

そしたら、大石は息を一つ吐いて静かに言い放った。

「…ああ、わかったよ。もう近付かない」
「!」

大石はいつも優しかったから、
オレはこんな言葉初めて言われた。
自分から言い出したのに、
言われた心がチクっとした。
でもなんか悔しくて。
勢いで口が動いてしまった

「あ〜あ。なんでオレこんなヤツに好きなんて言ったんだろ。信じらんない!」

少し自分の声が震えてる気がした。
涙が溢れそうで。

ホントは謝りたい。
早いうちなら取り返しがつく。
『ゴメン言い過ぎた』
たったの一言。まだ間に合う。

…と思ったのに。

「……じゃあ、もう言うなよ」

大石にそう言われた。

なんか大石は不機嫌なのか。
いつもの優しい大石とは違った。
…そうさせてるのは自分なのかな。
でも、ここまで来たら、もう戻れない。

「わかったよ!絶対言わないもん!」
「うん…じゃあな、英二」

オレが言うと、大石はオレに背を向けて歩き始めた。
その背中に、オレは一回息をを大きく吸ってから叫んだ。

「バイバイ!もう顔も見せるな!」

そうすると、大石は本当に振り向かなかった。
立ち止まることも、声を出すこともなかった。

ただ、ゆっくりと背を向けたまま、
本当は二人で歩くはずだった道を一人で歩いて行った。

「……大石のバカっ!!」

もう、大石は角を曲がって見えなくなって。
声が聞こえないくらいの距離に行ったころ、
オレは声の限り思いっきり叫んだ。

叫んだあと、涙が込み上げてきた。

「……大石の…バカァ…」

思いっきり泣き出したい気持ちを必死に抑えた。

涙で潤んだ自分の靴を見ながら、
オレもゆっくりと道を歩き始めた。





  **




『ピロリピロリピロリラリ〜』

家に帰って、オレはベッドに座ってボーっとしてた。
携帯が、大石からの電話を告げる。
…これで、何回目になっただろう。

「……」

絶対、出てやんないもんね!
もう絶交したんだから…。

でも、どうせ出る気ないんだったら、
どうして電源切らないんだ?

…ホントは掛かってきてることが嬉しい……?

違う!他の人から掛かってくるかもしれないから。
そうだそうだ。大石なんか…知らにゃいもん。



でも、それでも何故朝携帯を開いてみる気になったのか。
画面を開いてみると、一通のメールが。

いつ、届いたのだろう…。

そんなことを疑問に思いながら、送信者を確認すると、
…もちろん大石だった。
急いで内容を確認する。


『昨日はついカッとしちゃって…ごめんな。
 なんて、謝って許されることじゃないと思うけど。
 顔も見せるなって言われたから声だけでも…と思ったけど、
 喋るのも嫌かな?どうしても俺のこと、ヤダ?』

「おおいし…!」

朝からオレは泣きそうになった。
でも必死に堪えた。
本人に会うまで泣くことも出来ない。
謝らなきゃ…オレも。
伝えなきゃ…伝えなきゃ!



オレは走った。
鍵当番の大石は登校するのが早い。
オレはもう朝ご飯は諦めて、家を飛び出した。

『ピンポーン…』

大石の家に着いて、ベルを鳴らした。
走ってきたための鼓動とは違う、
また別の心臓の高鳴りを感じた。
息を整えながら待つと、中から出てきたのは大石のお母さん。

「あ、おはようございます!」
「あら菊丸君、どうしたの朝から。
 秀一郎ならもう出掛けたけど…?」
「あ、そうですか…じゃあいいです。ありがとうございました」
「うん。行ってらっしゃい」

オレは一つ礼をすると、また走った。
大石…大石…大石!!


「大石っ!」
「………」

暫く走ると、見慣れた後ろ姿が目に入った。
声を掛けると、とにかく足は止めてくれた。
振り返っては、くれなかったけど。

「大石…」
「どうした、英二」
「……どうしてこっち向いてくれないの?」
「英二が、顔見せるなって言うから」
「……」

大石、やっぱりまだ不機嫌なの?
当たり前だよね。
オレ昨日あんなヒドイこといったんだもん。
でも…オレ反省してる。
昨日行ったことは全部訂正したい。
オレの本当の気持ち、伝えたい…!

「じゃあ大石、そのままでいいから、聞いてね」
「……」

大石は黙ってたけど、とりあえず聞いてくれてるということはわかった。

「オレ、大石のこと大嫌いだ」
「分かってる…」

ちょっと大石の返事に心臓チクっとしたけど、
オレは深呼吸してそれを振り切った。
もう一度大きく息を吸った。

全部、伝える。オレの気持ち。


お願い、届いて…!


「大石のことなんて大嫌いだから、
 今から大石に言うことは全部ウソだ!」
「――」
「オレ、大石のことなんか世界で一番大大大大大っ嫌いだ!!!」


思いっきり叫んだ。
体の底から、全てを出して。

ちゃんと届けられた?伝わった?

ギュッと目を閉じたまま、オレはその場に立ち竦んだ。
すると数秒後、オレの周りの風がふわっと動いた。

「俺も、大嫌いだ!」
「大石…」

大石は笑顔でそういうと、
オレのことギュッと抱き締めてくれた。
伝わったんだね、オレの気持ち…。

「それじゃあ、仲直りね」
「うん」

オレたちは笑い合った。
良かった、良かった…。

すると、大石が言った。

「もう仲直りしたんだから、本当のコト、言ってくれるよな?」

にっこり笑って言う大石に、
オレも思いっきりの笑顔を返して、言った。


「うんっ!オレ―――…」



  * * *






















微妙な終わり方してみた。
最後の英二君の台詞はご想像にお任せー、見たいな。

喧嘩の内容思い付かなかったから曖昧にしちゃった。(コラ)
どうせ痴話喧嘩な夫婦喧嘩ですよ。へへ。(何)

これから言うことはウソだっつって、大っ嫌いと叫ぶシーン。
とにかくこれが書きたくてこの小説を書いた。
(いっておきますがロマン○ーズの影響じゃないですよ)
…題名で結末予想ついちゃいますかね?
ま、大丈夫だろ。(短絡思考)


2002/11/06