* オメデトウとアリガトウ *












「ただいま」
「お邪魔しまぁ〜す」

部活…というか誕生日パーティーの後、
菊丸は大石の家に来た。
去年もそうだった。
誕生日の日は、菊丸は大石の家に来る。
反対のような気もするが…兄ちゃんがいて落ち着かないから、だそうだ。

でも今年は、去年とは違う。

「英二、親の許可は取っただろうな?」
「うん!誕生日だから特別ぅ〜って言ったら許してくれた!」
「そうか」

菊丸は、大石の家に泊まることになった。
最後まで、自分の誕生日を大石と祝いたい、だそうで。
大石の家族も了解している。


「荷物はここでいい?」

大石の部屋に来て、菊丸はお泊まり用の大きな荷物を
部屋の隅に置いた。

「うん。そこでいいよ。でも、寝るのはここじゃないから」
「えっ、にゃんで!?オレ大石の部屋の床でもいいのに」

そういう菊丸に、大石は少し深みのある笑顔をすると言った。

「居間の方が広いからって、母さんが…それに、ほら」
「?」
「居間の方がみんなの寝室から遠いから…な」

その一言に菊丸はあっ、と納得すると、
嬉しそうに大石の腕に捲き付いた。

「オレ、楽しみにしちゃう、大石からのプレゼント♪」
「コラコラ」

大石は、腕に絡み付いて離さない菊丸の額を、
コツンと曲げた人差し指で小突いた。



 **



夕食も食べて。
お風呂も入って。

二人は今、電気の消えた居間に居る。
無論、そのまま寝るはずはなく。
二人は二つ布団が敷かれているにも関わらず、
一つの布団に足だけを入れ、上体を起こした状態で話をしていた。

話の最中、大石は菊丸にちょっとした問い掛けをした。

「ねえ英二、何で誕生日って祝うか知ってる?」
「え?えーっと…特別な日だから!」

菊丸はちょっと考えると、直ぐに閃いたようで
パァと表情を明るめ言った。
それを見、大石は優しい笑顔を浮かべて言った。

「確かに特別な日だな、誕生日ってのは。一人一つしかない。
 それをお祝いするのはね…」

大石は菊丸の顎を左手でクイと上げると、言った。

「その人が生まれてきたことに、感謝するからなんだ」
「カンシャ?」

不思議そうな顔をする菊丸に、
大石は自分の顔を近付け、唇を合わせた。
そっと触れただけのキス。
大石は顔を離すと、にっこりと微笑んでいった。

「英二が産まれてきて、今日まで元気に生きて、
 こうして巡り合って…」
「……」
「英二が生まれてきて、良かった。俺はそう思うよ」
「大石…」

もう一度唇を合わせる。
先程より、少し長めの――。
そっと舌でまさぐると、求めるように近付いてきて。
そしてお互いを絡ませ、その時を味わう。

「英二も思う?生まれてきて良かったって」
「うん…思うよ」

大石は菊丸に問い掛けながら、服のボタンに指を掛けた。
菊丸もそれに抵抗することなく、素直に身を委ねる。

「今日は、特別な日だ。英二の」

服を脱がせながら、
大石は言葉を続ける。

「俺の感謝の気持ち、全部英二にあげる」
「おーいし…」

大石は、菊丸の服を完全に取り払った。
綺麗な肌を見やり、大石は言った。

「英二も、こういう姿で産まれてきたんだよ、十五年前の今日」
「バカ…」

大石の言葉に、菊丸は恥ずかしそうに顔を横に逸らした。

「バカはないだろう?」
「んっ…」

大石はその菊丸の頬に片手を添え正面を向かせると、
一つキスをした。
深くて、熱いキス――。

「好きだ、英二のこと」
「大石…」

顔を離して、大石は言った。
菊丸は目の両端に雫を浮かべた。
大石はそれを親指で掬い取ると、
自分と菊丸の額同士を合わせた。
そして、囁くように言った。

「英二に逢えて、良かった」

その言葉を聞くと、菊丸もまた、言い返した。
首に腕を回すと同時に。

「オレも、生まれてきて、大石に逢えて…良かった!」
「英二…」

ゆっくりと身体を重ね合って。
甘く、溶け込むような時間。
激しさは求めず、ただただ、愛おしさを込めて。

急ぐ必要はない。
長い時間があるのだから。
いつまでも、一緒に。

「はぁっ…大石…」
「英二……」

繋がっていることが感じられて、
心も身体も奥が疼く。

身を守るものは全て取り払って。
文字通り裸になって。
心も全て開いて。
本当の自分を、曝け出す。
受け止めてもらえることを、知っているから。

「あっあっ、オオ、イシ…!」
「エイジ…大丈夫、か?」
「ん…気持ち、イイ……」

少しずつ、時は流れて。
二人の時間は、進んでいく。

「おおいし…ハァ、オレ…そろそろ…!」
「英二、俺も……イクよ?」
「ん…」

ゆっくりと温められたものが、
一瞬にして熱を高め、そして、放たれた…。

心地よい脱力感を覚え、二人は暫く
横に並んで寝たまま天井を眺めた。
現(うつつ)に戻ったのは、時計の鐘の音。

「あ…」
「…もう明日にゃの?」

ゆっくりとした流れでも、時は確実に進み、未来を告げる。


「オレの誕生日、終わっちゃったかー」
「また、一年後だな」
「でもさ」

菊丸はごろんと大石の上に転がると、言った。

「今年の誕生日は、最高だった!」

大石も、ゆっくり微笑み返した。

「俺もだよ」

そして菊丸を抱え込むようにして、唇を付けた。
菊丸も幸せそうに目を閉じる。

「来年も、一緒にお祝いできるといいね」
「そうだな」

大石は菊丸のことをぎゅっと抱き締めた。
菊丸は、なんて温かいのだろう、と感じた。

すると、あっ、と何かを思い出した風に大石は言った。

「そういえば、二人きりになってからまだ言ってなかったね」
「ん?」
「お誕生日、おめでとう。もう、過ぎちゃったけどな」
「えへへ、アリガト」

はにかんだ笑いをする大石に、菊丸も微笑み返した。
優しくて暖かい時間。

「……よっ」
「ほぇ!?」

大石は菊丸を身体の両脇を両手で掴むと、
掲げるように上に持ち上げた。
顔と顔が、上下に重なる。
目と目を真っ直ぐ見据え、言った。

「それから、もう一つ」
「はにゃ?」

心の底からの笑みで、
心の底からの気持ちで。

一つの言葉に、全てを込めて。


 『生まれてきてくれて、ありがとう――』






















…うふふv大菊ラブラブメロメロ甘々ほのぼの仕上げ♪
エロ少々は隠し味。雰囲気メインで書きました。
やっぱ、締めるのはこの二人で御座います…。

ゆっくりとしたペースのお話を心掛けて書きました。
のんびり、ほのぼの、のたりくらり。(ぇ
こういう大菊、好きだなあ…。

とにかく、菊さんハッピーバースデー!
書いてるときはまだ誕生日になってないじゃん、
という苦情は受け付けない。(あはv)


2002/11/06