「………」


海堂薫、9歳。

学校の帰りに公園にて、子猫発見。










  * 小さな君に *












「……」
「…みゅ?」

じっと見つめる海堂に、子猫はキョトンと首傾げた。

その猫から発せられた声は、
弱々しく消えそうのものだった。
まだ、目が開いて間もないほどの小さな子猫。

海堂は、戸惑った。
そして、とりあえず…抱いてみることにした。
そっと手を触れても抵抗を見せなかったので、
頭を撫でてみた。
大人の猫に比べて毛の量は少ないものの、
一本一本が細くて繊細なそれは、
手に優しかった。

「(……あったかい)」

海堂は思った。
小さな命の生きようとする力が、
手に温もりとなって伝わってきているのだ。

「……」
「ミュ?」

決心して、海堂は猫を持ち上げてみた。
そして、抱きかかえた。
本当に小さな猫だったので、重いということは決してなかった。
むしろ、こんなにも軽くていいのか、というほどだった。
胸の中にすっぽりと納まるこの小さな猫を見て、海堂は思った。



可愛い。


頭を撫でてうっとりとした顔をする猫を見て思った。


可愛い。



可愛くて可愛く仕方がなかった。
もう、既に完全に心奪われていた。

すると、猫は海堂の指をくんくんと嗅いできた。
そして…。

「痛っ…」

軽く、噛み付かれた。
まだそんなに歯が発達していないので
余り痛くはなかったのが。
(思わず声に出してしまったのは条件反射というか。)

そして、海堂は気付いた。

「…お腹減ってるの?」

思い直せば、
こんなにも軽いのも食べるものが無くて
痩せ細ってしまっているのかもしれない。
そう考えるとこの猫が不憫でならなくなった。

「…ここから動くなよ」
「ミュゥ」

海堂は、子猫を地面に降ろすと
食料を調達すべく家に走った。




  **




「………」

海堂は、こっそり家に忍び込んだ。
いや、本来はそのようなことをする必要は全くないのだが。
親に気付かれたくないという
少年的一途な頑張り思考ゆえそのような行動を取ることになった。

足音を立てないようにそっと台所に忍び込むと、
おやつの為に用意されていると思われるクッキーを
二つ掴み、家を飛び出した。
海堂は、なんだかちょっぴり悪いことをしているような気がした。
でも湧いてきたのは罪悪感ではなくて、ワクワクとした気持ちだった。

走っている最中、顔に当たる春風が心地よかった。



―ちなみに…


「薫…何してたのかしら?」


母にはバッチリばれていた。





  **





「…ん〜……あ!」

公園について、先ほどの場所に戻ったものの、
子猫はそこにいなかった。
何処かへ行ってしまったのか?と辺りを見渡すと、
数メートル離れた草むらの中にその猫は居た。
それを見つけると、海堂は嬉しそうに走り寄った。

「ほら。お前のために持ってきてやったんだぞ」
「みゅ〜」

クッキーを地面に置くと、子猫は嬉しそうにそれを舐め始めた。
しかし、上手く噛めないようだったので、
細かく砕いてやると、漸く食べ始めた。

「……へへっ」

その様子を見ながら、
海堂もまた嬉しそうに自分のために持ってきた
もう一つのクッキーを齧るのだった。


クッキーを食べ終えた海堂と子猫は、
公園の草むらでそのままじゃれ合っていた。

しかし、海堂は公園の時計を見て、とあることに気付いた。

「あ……」
「…ミュ?」
「ごめん、そろそろ帰らなきゃ…」

そう。
こっそり忍び込んできたものだから(実際には気付かれているのだが)、
親はまだ自分が一度も家に帰ってきていないと思っているはず。
相当心配させているに違いない。

「またね」
「……」

一つ頭を撫でると、海堂は立ち上がった。
そして子猫に背を向けて、歩き始めた。
しかし……。

「……ついてこないでよ」
「みゅー…」

数歩歩いて後ろを見ると、
自分にピッタリと付いて歩いてくる子猫がいた。
海堂はもう一度しゃがんで、猫に語りかけた。

「うちペット飼えないんだよ。動物の毛はあちこちに付くし
体に悪いから…ってお母さんが言ってた」
「ミュゥ…」

子猫が悲しそうな顔をしたような気がしたが、
海堂にはどうしようもないことだった。

「本当は飼ってやりたいけど…ゴメンね」
「…ミュ」

もう一度だけ頭を撫でて、
今度こそ絶対振り向かない!
そうしないためにも走って帰ろう!
と、思ったのだが…。

「みゅぅ…」
「……!」

どうしてもダメだった。
海堂はまた振り返って子猫のことを思いっきり抱き抱えてしまった。
見捨てることなんて、出来る筈が無かった。

しかし、海堂は悩んだ。
どうすればよいのだろう……。


「飼ってくれる人…探そっか」
「みゅ」

海堂の問い掛けに子猫は短く声を出した。
海堂はなんとなくそれが同意の言葉のように聞こえたので、
探してみることに決めた。

でも…自分はもともと人に話し掛けるのは得意ではない。
結構人見知りしてしまうタイプなのだ。
果たして、飼い主を無事に見つけることなど出来るのか…。

とりあえず、海堂は子猫を抱えて歩き始めた。


「どういう人なら飼ってくれるかなあ」
「……」
「やっぱり…他の動物飼ってる人はやめた方がいいし、
優しそうな人がいいよね?……あれ」

一生懸命考える海堂に対し、
子猫の方はというと……寝ていた。

「……人が一生懸命考えてるのに…」

海堂はなんとなく虚しい気分になったが、
子猫の寝顔がなんとも可愛かったので良しとした。
(ようは子猫が好きなのだ。)

その時、遠くの方から数人の話し声がした。

「あ、あれ海堂君じゃない?」
「ほんとだ。おーい!」
「?」

振り返ってみると、クラスの女子三人だった。
一緒にどこかで遊んでいたのだろうか。

「何してるのー?」
「別に…」

いっぺんに三人に囲まれて、
海堂はちょっと押され気味になった。
女子と話すことは、少し苦手だったのだ。

「ランドセルまだしょってるじゃん。家帰ってないの?」
「…一回帰った」
「えー、変なのー!」

…一応嘘ではない。

海堂はどうその場を切り抜けるか、
試行錯誤を繰り返してた。
すると、女子のうちの一人が気付いた。

「…あ!子猫抱いてるー!!」
「「ホントだー!!」

残りの二人も声がハモる。
何にせよ、女子というのは動物好きが多い。
可愛いー!だの、ちっちゃーい!だの黄色い声を上げている。

「ね、ちょっとだけ触らせて?」
「いいけど…」

頭をそっと撫でると、またキャーキャー叫んでいた。

「柔らかーい!」
「あ、私も私も!!」

横で何度も叫ばれ、
ちょっと海堂は気が滅入ってきた。
そんなとき、一人の子が訊いてきた。

「これって海堂君ちの猫なの?」
「うぅん。ノラ猫だと思う…」
「じゃあ私飼いたい!」
「―――」

念願の飼い主発見…の筈だった。
しかし、海堂の口から飛び出たのはこんな言葉で。

「だ、ダメ!ボクが飼うの!!」
「えー、さっき違うって言ったじゃん」
「…気が変わったんだよ」
「変なの〜」

海堂は、その場を駆け出した。
なんだかとても恥ずかしくなった。
それは、思わず叫んでしまったことと…
完全に子猫に情が移ってしまったこと。

もう、この猫から離れられない…。

海堂は、腕の中で静かに眠る猫を見てそう思った。


猫とは離れたくない。
でも家では飼えない。
でも離れたくない…。

海堂の思考は一本の輪に繋がり
グルグルと回転していた。
一生懸命考えるのだが、解決策が浮かばない。

「どうしよう……また捨てるなんてこと出来ないし…」
「みゅう…」

いつの間にか目覚めていた子猫に、海堂は問い掛けた。

「ね、どうすればいいと思う?」
「…ミュゥ?」

しかし首を傾げるだけの子猫だった。
猫に物を訊こうというほうが間違っているが。

「う〜ん…」

犬小屋ならぬ猫小屋でも家に建てればよいか…。
などという謎のことを考えていると、
一つのアイディアが閃いた。

「ダンボール箱!」

…見ようによっては可哀想だが。
何もない今の状態と比べれば数段マシであろう。

海堂は、今度はダンボール箱を捜し求めて、
商店街へと旅立った。
目的地は、決まっている…。

「へーいらっしゃい!!」

今日も気負いのいい売り声が聞こえてくる。
…八百屋である。
確かに、八百屋には野菜を仕入れた際のダンボール箱が
店の裏に大量に積み上げてある。
海堂はそれに目を付けたのだ。

丁度買い物中の主婦が多い時間で、
店は大変賑わっていた。
海堂はその波を避け、
人が減って落ち着くのを待った。

ある時、不意に人が居なくなった。
海堂はその隙を狙って店の前に立った。
すると、こっちから話し掛けることなく向こうから離しかけてきた。

「どうした、坊や。お母さんのお使いかい?偉いねぇ」
「………」

…なんとも答え難かった。

「それで、何が欲しいんだい?」
「……ダンボール箱」
「…あ、そうかい」


何はともあれ、
海堂は子猫の新しい家になるであろう
ダンボール箱を手に入れたのだった。




  **




「これで良しと!」

公園に戻ってきた海堂(と子猫)は、
丁度いい大きさの茂みの下に、ダンボール箱を置いた。
海堂はそこに自分の持っていたタオルをしくと、
中に猫を入れてみた。
そして、上からハンカチを被せた。
自家製猫小屋(というか寝るしか用途は無さそうだが…)は完成した。

「どう?寝心地」
「みゅぅ」

子猫もなかなか気に入ったようで、
もぞもぞと体制を変えるとまたうとうとと眠り始めた。

それを確認すると、
海堂はいい気分で家に帰った。
幼気盛りな子猫を、小さな命の、助けになれた気がしたからだ。


家に帰ってからは、
海堂は何も無かったかのように平常を振舞った。
何度か口を滑らせそうになって焦ることはあったが。

…夕ご飯のとき。
海堂はとあることに気付いた。


子猫は食べるものがあるのか…。


考えてみれば、あのダンボール箱。
それなりに高さがあった。
あの子猫なら這い出れないほどの大きさを選んだのだから当然なのだが。
もし、食べるものが無くて腹を空かせても、
食料を調達にいけるはずなど無い…。
(まだ子猫なのでどちらにしろ無理かもしれないが)

突然不安になった。
自分が食べているものも上手く喉を通らなかった。
親に何とか言おうかと考えたが、
どちらにしろこんな時間に外に出させてもらえるとは思えない。

心配で仕方がなかった。

その夜、海堂は布団を頭まで深く被ったまま、
眠りについた…。
頭の中には、子猫のことで一杯だった。




  **




「……」

次の日の朝、海堂は目が早く覚めた。
頭の中は、やはり子猫のことばかりだった。
素早く着替えると、台所にいる母のところに行った。

「あら薫、今日の朝は随分早いのね」
「…今日さ、学校に早く行かなきゃいけないんだ」
「あら、そうだったの?そうなら早く言ってくれればいいのに」

そんなわけで、海堂は朝早く出発することに成功。
こっそり、ポケットにまたクッキーを忍ばせて…。

ドアを開けると、暖かな陽光が顔に当たった。
朝の澄んだ空気の中、海堂は公園へ走った。
ダンボールは、そこにちゃんとあった。
走って近付き、中を覗くと…!?

「……良かった」

子猫は、ぐっすり寝ていた。
そことなく、幸せそうな表情で。
一瞬動かなくなってしまったのかと見紛うほどだったが、
耳を澄ますと定期的な寝息が聞けた。
海堂もそれで安心すると、クッキーを箱の中に入れた。
逃げてしまうのも嫌だけれど、
封じ込めておくのも可哀想だな、と思うと、
そっと子猫を中から出して、箱を横向きに倒した。
そして、また中に戻した。
猫が目を覚まさなかったことに安心すると、
海堂はまた暫く猫を眺めた。
学校に行かなくてはならない時間まで…。


学校へ来て。
海堂は、いつも通りに授業を過ごした。
しかし、どこか上機嫌で。
授業中にこにこ笑っている海堂に先生は不気味ささえ覚えたという…。


そんな中、給食の時間。

「「いっただっきま〜す!」」

皆、手を合わせて大きな声を張り上げた。
そして、勢いよく食べ始める。
海堂も同じく。
しかし、途中でとあることに気付いた。

子猫のご飯は……。

海堂は、食べ途中であるのに手を下ろした。
膝に手を乗せたまま、じーっと残っているパンを見つめた。

お腹は…減っている。
今日の授業には体育と音楽があった。
この時間割で減らないはずがない。
しかし…子猫はその間クッキーのみで生き延びているのだ…!

「…あら?」

厳しい顔をして給食とにらめっこをしている海堂に、
担任の先生は気付いた。

「海堂くん、どうかしたの?」
「…いや……」
「給食まだ食べ終わってないじゃない。
今までお残ししたことなんて一度もないのに…」

海堂は、ひたすら下を見て黙り込んでいた。
本当は、食べたいのだ。
しかし猫のためを思うとそうもいかず…。

「もしかして…お腹かどっか痛いの?」
「お腹が減っていないだけです」
「そう?それならいいけど…」

先生はそう残すと自分の机へ戻っていった。
その直後…。

『グキュルル…』

……お腹減った。
と海堂はなんだか虚しくなった。


「「ごちそうさまでした〜!!」」

皆声を揃えると、
我一番と突っ込んで片付けを始める。
終わった者は、ボールを持って校庭に駆け出したり、
隣のクラスの友達のところへ遊びにいったり。

そんな中、海堂は…。

『……サッ』

誰も見ていない隙に、
パンをこっそりランドセルに入れた。



「子猫!」
「みゃぅ?」
「ただいま!」

学校の帰り、海堂はまた公園へ寄った。
ひたすら走って来たので、少しだけ息が切れた。
でも、猫の無邪気な顔を見るだけで、
疲れなど全て吹き飛ぶのだった。

「はい、今日のご飯だよ!」

海堂はカバンの中から給食の残りのパンを取り出すと、猫に与えた。
すると、とても嬉しそうに食べ始めた。
海堂はそれを楽しそうに眺めていたが、
暫くすると切なげな表情になって語り始めた。

「ねぇ猫ぉ…」
「?」
「ゴメンね、こんなことぐらいしか出来なくて…。
本当はさ、もっとあったかいクッションとか、
もっと美味しいご飯とか…あげたいけど…」

そこまで言うと、海堂は涙が出そうになった。
自分でこの子猫を飼うと決めたものの、
満足に世話もできない自分に不甲斐なさを感じたのだ。

「ごめん…」
「……」

海堂が下を俯いていると、
子猫は海堂の膝の上に登った。

「…子猫?」
「ミャー」

子猫は、大丈夫だよ、とでも言うかのように、
尻尾をパタパタ振って嬉しそうな表情を見せた。
子猫も自分のことを好きでいてくれてるのかな、なんて、
海堂もちょっぴり安心した。
それを見て猫もまた尻尾をパタパタと振った。
すると、海堂はとあることに気付いた。

「そういえばさ…お前の尻尾って、
先っぽがジグザグに曲がってるね」
「みゅぅ〜?」
「変なの。一回曲がってるだけならみたことあるけど」
「ミュ」

そんなこんな会話(?)をしながら、
楽しい日々は続いた。
それから二週間ほど経っただろうか。
海堂は毎日公園へ寄って、毎日子猫の世話をした。
とっても楽しかったし、
とっても幸せだった。


しかし、ある休みの日…。

「あら、今日は台風がくるみたいよ」

天気予報を見ていた母が呟いた。
海堂もテーブルに頬杖をついて、
その画面を一緒に見ていた。
チラッと窓の外を見ると、
なるほど、空は厚い雲に覆われて真っ暗である。

「今日は家から出ちゃだめよ」
「はーい…」

そうは言ったけど、
気掛かりなのは猫のことだった。


二時間ほど経って。

「あら、とうとう来たみたい」

雨がぽつりぽつりと屋根に当たる音が聞こえてきて、
一分も経たないうちにザーッという強い雨の音になった。

「これは相当すごいわね」
「……」

テレビの電源が入れられ、ニュースのチャンネルに合わせられる。
ニュースキャスターのはっきりとした言葉が、
耳に入ってくる。

『台風11号は勢力を増して関東地方を横断中です。
規模は相当に大きく、既に関西地方では大きな被害が出ており、
崩れたブロック塀に当たるなど、三人の死者を出しております。
最大風速は33mで…』

「あらやだ。死人ですって。
これは相当すごいわね」

ビューと強く風が吹く音がした。
雨でくすんだ視界の向こうで、
樹が大きく揺れるのが見える。

その時。

『ピカッ! ゴロゴロゴロ…』

「まあ。台風で雷なんて珍しいわね」
「お母さん!」
「なに、薫」
「公園に雷が落ちるなんてこと、ある?」

息子の不思議な質問に、一瞬驚いたが、
母はそうねぇーと上を向いた。

「雷は高いところに落ちるとか言うけど…。
あと金属のものとか。でもさっきの雷は結構遠いみたいだったし
まさかこの辺には……」

『ピカッドーン!!!』

「…あらま。今のは近かったわね…」
「!!!」
「薫?」


海堂は階段をすごい勢いで駆け上がった。
自分のドアの部屋を閉めると、
布団に潜り込んで小さく縮こまった。


高いところ…公園には町で一番高い樹があった。
金属のもの…公園にはブランコとか滑り台とかとにかく金属質のものが多い。

「子猫ぉ…」

海堂は雷が聞こえないように
頭をギュッと抱え込んだ。

そんなことしたって、台風が治まらないということは分かっていながら。



…夕食に呼ばれて漸く布団から抜け出したとき、
台風はもう既に完全に過ぎ去り、
物が飛び交い荒れた町と雲一つない空を残していった。



次の日。
海堂はいつも通り、公園へ走った。
しかし、気持ちが全然違って。

胸が疼く。
早く会いたいとか、そういう気持ちじゃなくて。
何故か分からないけど、胸騒ぎがした。



「……子猫?」

海堂はダンボール箱の前に立って呟いた。
中は…もぬけのカラ。
箱は、雨で湿っていた。
その横に、これまた湿って重くなったタオルが落ちていた。
数メートル先に、風で飛ばされたのか
ハンカチが木に引っ掛かり、寂しげにはためいていた。


「……子猫?」

海堂はぽつぽつと歩きながら、声を出して猫を探した。
草むらの中、滑り台の上、ベンチの下。

「…コネコ?」

でも、あの可愛げな泣き声が帰ってくることはなくて。

「ウソ…だよね?」

辺りを取り巻いたのは、
渇いた静寂。
海堂は、気付くと澄んだ瞳から雫を流していた。

「こねこぉぉぉっ!!」

高々と掲げた声も、
風に流され潤されることはなかった。






  ***







海堂薫、14歳。
今日も日課である自主トレのために町内をマラソンしている。

そのコースでは、いつも公園の横を通る。

いつもはさほど気にせず通り過ぎるのだが、
海堂は猫の声を聞いて足を止めた。

『ミャー』
「――」

自主トレの最中。
出来れば止まらずに走り続けたい…。
しかし、猫好きの海堂は誘惑に勝てず、
公園の中へ入っていった。


「どこだ…?」

声が聞こえた辺りを見回しながら、海堂は歩いた。
木の陰、草むらの中…。
そして、最終的に茂みの下に猫の家族を見つけた。

「子猫じゃねえか」

海堂はその前にしゃがんだ。
数えると、子猫は6匹いた。
その子猫たちは、親猫に寄りかかって寝ていた。
なんとも微笑ましい光景だった。


「………!?」

その様子を見ていて微笑んでいた海堂だったが、
とあることに気付き目を大きく広げた。

「お前……」

パタパタと振った尻尾。
二回、ジグザグに曲がっている。

見間違えるはずがない。
その猫は、間違いなく…5年前に自分が飼っていた猫だった。

「大きく…なったな」
「ミャー」

海堂が笑うと、猫も笑い返してきた気がした。
頭をそっと撫でると、幸せそうに目を伏せた。

「元気で、やってたんだな」
「ミャ」
「…もう、子猫じゃない。親猫なんだな」

海堂は、懐かしさと嬉しさと淋しさ、
色々な気持ちが混じった。

小学生の頃も思い出が帰ってきた懐かしさ。
居なくなってしまったと思った猫が元気でいた嬉しさ。
そして、変わってしまったということの…淋しさ。

「色々変わったな、お前も。前はあんなに小さくて…」
「ミャー」
「その泣き声と尻尾だけは変わらねえな」
「みゅ」
「見つけたんだな、自分で生きる道」
「みゃ」
「………」

色々変わったのだ。
小学三年生だった自分は中学二年生になって。
あんなに小さかった子猫は親猫になって。
色々と変わった。
前のままではいられない。
それでも…。

「…」
「みゅ?」

海堂は立ち上がると、子猫に微笑んでから、
一言残して走り始めた。

「頑張れよ…“コネコ”」
「――」


海堂は走り始めた。
何度か聞こえた猫の鳴き声にも振り返ることなく。

変わった。
色々変わった。

それでも、自分の中の思い出は、
懐かしかったあの頃の気持ちは、
いつまでも、変わることはない―――。
























…終わってみたら微妙だった。(コラ)
自分も周りも変わっていたけど、
思い出は変わることなく輝き続けるぜー
ということを主張してみた。最後で。(されてる?)

海堂、小3だったらさぞかし可愛かろう…。(くふふ)
でも、一人称ボクとかでよかったのかしら;?(滝汗)
喋り方も少年チックに。何処が海堂だよ、というと最後のシーン辺り。(ダメじゃん)
どっかで海堂の性格が豹変する事件が!?とかダメかしら…。自然と変わったのかな?へへん。

よく分からんけど日記5000HIT企画連載海猫小説でした。終わじ。


2002/10/17〜2002/11/01