――素っ気無いあなただけど。


たまに見せる優しさが、

本当に嬉しいんだ……。











  * a little marriage *












「将ちゃん♪」
「……っんだよ

今日も、私
幼馴染みの将ちゃんこと荒井将史に猛アタックしてます。
でも、なかなか手強い相手なのです…。

「つかいい加減“将ちゃん”ってのやめろよ」
「何でよ〜」
「…子供っぽいだろ?」
「……わかったわよぉ」

ほんっと素っ気無い。
これでも私達付き合ってるのに。
…といっても、特別な口約束をしたわけじゃない。
ただ、小さい頃からずっと一緒に居て。
デートも良くするし、
…お互いの気持ちも手に取るほど良く分かる。
一応、恋人同士なのですよ。うん。

でも、将ちゃん…じゃない、将史か。慣れないなぁ…。
…将史は、ホントそっけない。
私としてはー、ラブラブしたりー、
いつも優しくしてもらってー、
向こうからデートも誘ってもらってー。

……。
それが何よ。

態度はいつも冷たいし。
笑顔もたまにしか見せないし。
デートに誘うのほとんど私だし。

…それでも。
それでも付き合ってるんだから。
何でだろうなー…。


「う?」
「今度の日曜空いてるか?」
「空いてるけど…なして?」

将史は私のおでこをコツンと突いた。

「この前は部活があるって断っちまっただろ。
 だから、明日行こうぜ。見たい映画あんだろ?」
「…うんっ!」
「約束な」

そう言って将史は小指を差し出してきた。
私もその指に自分の小指を絡めた。
目が合うと、にっこり微笑まれた。

…素っ気無いけど、
たまに見せる優しさが嬉しいんだ。
……そこら辺が好きで、付き合ってるんだと思う。

「約束、破らないでよね」
「俺が約束破ったことあったか?」
「…ない」

小指は離されたけど、
将史は手のひらを握り返してくれた。


  **


当日、待ち合わせ場所へ行くと
将史はもう既にそこに居た。

「ごめん!遅くなっちゃった」
「いや、まだ時間前だろ」

将史が待ち合わせに私より後に来たことはほとんど無い。
今日こそは私が先に…!と思ってはりきって早く出掛けても、
将史はもっと早くからそこに居る。
私が待たされたことは、記憶の中には無い。
…ぶっきらぼうだけど、優しいんだ。


その後、私達は映画を見て。
肩を並べて歩いて。
そして喫茶店へ入った。

「もうー映画超感動!ラストの所なんか
 ボロ泣きしちゃった」
「…だからって、あんな大声で泣くなよ」
「何それー」

コーヒーを飲む将史のことをじっと見ながら、
私はパフェを頬張った。

そして、ある事に気付いた。

「そうだ!」
「どうした?」
「来週の日曜日ってバレンタインデーじゃん」
「!」

瞬間、将史はピクッと反応した。

「だーいじょーぶ!そんな心配しなくてもプレゼントはあげるからv」
「そんなんじゃねーよ」

将史は照れているんだか不機嫌なんだか、
そっぽを向いた。
私はその横顔を覗き込むようにして言った。

「それに、ホワイトデーも丁度日曜だよ!やったね♪」

…解説しましょう。
何故、やったねなのかと言いますと。
……将史はホワイトデーにお返しをくれません。
何気に他の女の子にもチョコ貰ってるのに、
お返ししません。
…でも、彼女の特権…なのかな?
私にだけは、必ずお返しの代わりにデートしてくれる。
近い日の休みに。
今回は丁度日曜日だったから、喜んだわけ。
どうせなら、当日がいいじゃん?

そんなことを楽しみに考えていると、
将史が私に訊いてきた。

「…
「何?」
「好きな動物、あるか?」
「好きな動物ぅ?…うーん。何だろ…。
 …熊、かな。クマ。でもなして突然?」
「あ、いや、気にすんな」

将史は曖昧に誤魔化した。
…なんでしょ。

この日私達は散歩しながら話をして、
それでデートはお開きとなった。



そして、一週間――。


「ハッピーバレンタイン!!」
「…おぉ」

…今日は将史に勝ったぞ。
いつもは将史が迎えに来るのに、
今日は私が先に将史の家の前で待ち構えた。
そして、ドアが開いた瞬間パンパカパーン!なのだ。
作戦通り、驚いてたみたい。しめしめ。

「はい、チョコレート」

立ち尽くしている将史に、
私は小さな袋を渡した。
甘いの苦手な将史のために愛情たーっぷり込めた
ビターチョコでございます。

「ああ、サンキューな」

将史は笑った。
私も一緒に笑った。
幸せな一時だった。



――次の日。

いつも通りに、将史が迎えに来てくれて。
それで私達は登校する。
その時に、話題に出した。

「ねえ将史、チョコ食べた?」
「ああ、食ったぜ」
「美味しかった?」
「去年のよりはな」
「な、何よそれ…」
「去年のは硬くって石みたいだったからな」
「ひっどぉーい!!」

そんな笑い話をしながら登校した。
とっても楽しかった。


それから二週間ちょっと。
毎日私にも将史にも楽しい日々だった…
…と思うけど。

なんだか、将史がそわ付いてる気がした。
元からだけど、それ以上に素っ気無くって。
なんだかドライな感じ。
それで、たまに上の空。

一週間前ぐらいから気になってて、
私はついに決心して訊いてみることにした。


学校の帰り、横を歩く将史に私は覚悟を決めて話しかけた。

「ねえ、将史…」
「ん?」
「何か、最近そわそわしてない?」
「…そうか?」
「うん…」

少し、将史は真面目な顔になった。
暫く黙り込んだと思ったら、
今度は逆に質問で返された。

「お前、覚えてるか?」
「え、何を…?」
「……」

将史は怒ったような悲しんでるような
微妙な表情をした。
眉を顰めて、斜め下を見た。

何…?
何か約束、あったっけ……?
…記憶にない。
知らないうちに、約束すっぽかしちゃった?
将史、怒ってるの…?

悩んでいると、将史は質問を変えた。

「お前、今14歳だよな」
「そう…だけど」

何?
意味が分からない。
14歳だと何なの?
将史、何を考えてるの…?

「将史、どうしたの…?」
「お前、本当に覚えてないんだな。
 ここまで言っても思い出さないなんて…」
「将史!?」
「俺だけ盛り上がって…バカみてぇ」
「ちょっと待っ…」

言い終わる前に、将史は駆け出して行ってしまった。
名前を叫んでも、止まってくれなかった。

「どういう…こと……?」




  **




その夜、メールが入った。

『明日は朝練あるから一人で行く』

……いつもは、“早いけど一緒に行くか?”
とか訊いてくれるのに…。
何があったの、将史…。
私も知ってるはず…。
何だっけ……?


学校でも、私は将史と話せなかった。
とりあえず話を聞かなきゃ何も分からない。
部活が終わるのを待ち伏せした。
将史は私の顔を見るなり走り出そうとしたけど、
腕を掴んで縋り止めた。

…離せよ」
「や!」

我が侭なのは分かった。
でも、将史が全てを教えてくれるまで
離す気は無かった。

少し泣きそうになったけど、
将史のことを睨み続けた。
暫くすると、将史は観念したのか、溜め息を吐いて喋り始めた。

「俺は約束一度も破ったことねえのによ…」
「……」
「お前が、忘れてるなんてな…」
「将史、その約束って何!?本当に、覚えが無い…」

そう、あれからずっと考えていたけど、
何も思い浮かばなかった。

「…忘れてるんだったら言えねえよ」
「どうして!?」

私は将史の腕に回す腕に更に力を込めた。
でも、将史はそれをすんなりと剥いだ。
質問には答えずに、別の話を始めた。

「……それから、日曜のデート、無理になった」
「なっ…どうして!」
「部活があんだよ」
「一日中って訳じゃないでしょ!?」
「…じゃあな」
「将史!!」

将史はゆっくりと歩いていったけど、
私は何故か追うことが出来なかった。

「なんで…よ……」

その場に座り込んで、暫く泣いていた。


夜、私は何通もメールを打った。
約束の内容を訊いてみた。
何回も謝った。
でも…次の日になっても返事は一回も来なかった。

もしかしたら、このまま将史と別れ…。

私は首を思いっきり振って考えたことを必死に否定した。
でも、このままじゃ本当にそうなりかねない。

メールが駄目なら電話だ!
と思った瞬間、着メロが鳴った。
メールの着信音だ。

「……」

将史からだった。
心臓がドキンと鳴った。
もしも、これで別れ話とかだったら……。

ゾクッとした。
少し…怖かった。
けど、深呼吸をして、メールを開けた。

『メール、シカトしててゴメン。普段も避けてて、ごめんな。
 あと、明日のことも。突然キャンセルしてごめん。俺も、
 約束守れてないな。 …明日の朝、郵便受け見て欲しい。
 朝一番に。俺からの、お返しだから…。 将史』

「将史…」

読んでる途中から、涙が出てきた。

悪いのは約束忘れてた私なのに、謝ってくれちゃって。
…なんでそんな、優しいのよ…。

それに…お返しの物なんて要らないから、
一緒に居たいよ……。




  **




……次の日の朝。

泣き腫らした赤い目を擦りながら、私は玄関を出た。
そして、言われたとおり郵便受けの中を覗いた。

小さな、白い箱があった。

「……」

そっと、開けてみた。
開けてみると、余程壊れやすいものなのか
丁寧に扱われているのか、
薄い紙に何重にも包まれていて。
その紙を、ゆっくりと開いた。
中から顔を覗かせた物は。


――結婚式を挙げている熊の置き物。



「…あっ……!」

見た瞬間、全てが蘇った。





  ***





「はい、将ちゃん!」

四歳のとき、私は初めてバレンタインデーに
男の子にチョコを渡した。
といっても、もちろん手作りでもなんでもないのだけれど。
でも、それなりに心の篭ったプレゼントだった。

ちなみに、渡した相手は、
家の近所に住んでて同じ幼稚園に通ってた、
将ちゃん。
生意気ながら、私の初恋の相手でもあった。

「…何これ」
「チョコレートだよ!今日バレンタインデーなの。知ってる?」
「ん、何となく」

…やはりこの手のイベントは女子の方が詳しいのか。
正直な話あんまり分かって無さそうな将ちゃんに、
私は説明してやった。

「女の子がね、好きな男の子にチョコあげる日なんだよ!」
「えっ…」

そういうと、将ちゃんは少し顔を赤くしていた。
小さい頃の、いい思い出。
その後どんなことが起こってその会話に辿り着いたのか
憶えていないけど、
こんな会話を憶えてる…。


「大きくなったらさ、結婚しようねー!」

…よくある話である。
ませたちびっ子たちが将来に期待を膨らませていう言葉である。
どんな時代も結婚というのは少女の大きな夢なのだ。

しかし、こういうのは大抵成就しないものである。
哀しいことですが…。

それを知っていたのかなんなのか、
将ちゃんは妙に冷静な四歳児だった。

「そんなこと言ってさ、そのうち別のところに
 好きな子できたらどうするの?」
「う…」

……当時の私は相当ショックを受けていた。
ちょびっとだけ、失恋気分を味わってみた。
まあ、ようするにプロポーズ断られたようなものだから…。
実際失恋したわけじゃないけど、気分だけ。

「絶対将ちゃん以外に好きな人作らないもん!!」
「…じゃあさ、こうしようよ」

私が悔しくなって叫ぶと、
将ちゃんはやはり冷静に、言った。

「もし10年経ってもお互いのこと好きでいたら、ね?」

泣きそうな私に、将ちゃんは笑顔で優しく言ってくれた。
この頃は優しさの塊のような子だったからな、将ちゃんは。
今は冷静だった部分が素っ気無さに変わってるけど…と、
その話はさておき。

「ホント!?」
「うん。約束」

飛び上がるほどに喜ぶ私に、
将ちゃんは小指を差し出してくれた。
私はそれに、自分の小指を絡ませた。
そして、お馴染みの歌を歌った。
そして、笑い合った。

 指切りゲンマン 嘘ついたら針千本のーます
 指切った! ―――――・・・…






  ***





『俺が約束破ったことあったか?』
『好きな動物、あるか?』
『お前、今14歳だよな』
『俺だけ盛り上がって…バカみてぇ』
『お前が、忘れてるなんてな…』

今までの言葉が、走馬灯のように蘇ってきた。
素っ気無い表情も、
悲しそうな顔も、
少し怒った風な顔も、
とびっきり優しい、笑顔も…。
全部、思い出しだ。

「将ちゃん…!」

涙がたくさん溢れてきた。

自分はなんてことをしてしまったのだろう。
向こうは約束破ったこと無いのに。
私だけだ。約束忘れちゃったりするようなバカは。

会いたい…!

そう思った瞬間、私はもう駆け出していた。



私の足は、とある場所に向かっていた。
…幼稚園。
バレンタインチョコを、渡した現場である。
部活があると言われてたのも忘れて、そこに来た。

休みの日。誰もいないはずの幼稚園。
誰もいないはず、なのに、
ブランコに誰かが座ってるのが見えた。

「……将ちゃん!」
…?」

柵を開け放って私は走り寄った。
言いたいことが溢れかえった。
謝らなきゃいけない。
お礼言わなきゃいけない。
嬉しかったこと伝えなきゃ。
昨日淋しかったことも言わなきゃね。
でも……。
言葉なんかより先に、体が動いていて。

私は、将ちゃんに思い切り抱き付いていた。
そして、思いっきり泣き始めてしまった。

「……
「将…ちゃ……っく」
「ったく、冷たい態度取って悪かったから泣くなよ…」
「違う…違うの!」

体を離して、涙を腕で拭って、
心からの笑顔を作って。
しゃくり上げている合間に、言った。

「ありがとう…!」

短い言葉だったけど、
心をたくさん込めて。
思いは伝わったみたいで、
将ちゃんは私を抱き返してくれた。
そのまま、私達は話した。

「…よくここが分かったな」
「気付いたら走ってた…」
「そうか」
「将ちゃん…部活は?」
「…あんなの嘘だよ。の気持ちを、確かめたかった」
「…イジワル」
「悪いって」

そこで漸く体を離した。
話は続いた。

「部活無いならさ、約束通りどっか出掛けようよ!」
「ああ、そうだな」

笑顔が自然と重なった。
本当に幸せだった。

「プレゼント、ちゃんと見てくれたんだな」
「うん!すごく可愛かった!ありがとう…」
「…ここに来たってことはさ、思い出したわけだろ?」
「……うん」
「そっか」

私は無意識に少し下を向いた。
自分の顔が赤くなってる気がしたから。
…将ちゃんの顔を見ると、
何だか少しだけど、同じように赤い気がした。

「…なあ、
「何?将ちゃん」
「…ほら。将ちゃんに戻ってる」
「あ……」

そ、そういえば…。
何だか昔のこと思い返したら
気持ちまでその頃までに戻ってたかも;
怒ってるかな?と思いながら
将ちゃんの顔を見上げると…。

「手」
「…え?」
「手ぇ貸せって言ってるんだよ」
「あ、うん」

私は訳が分からなかったけど
とりあえず手を広げて差し出した。

「違うって…こう」
「……これって…」

将ちゃんは、私の手の指を
小指を除いて全て折り曲げた。
すると、言ってきた。

「将ちゃんなんて、子供っぽいだろ?もう…」


『――結婚まで、誓ったんだからな』


最後の方は、耳元で小さく言われた。

「ほら、行くぞ」

手を繋いだんじゃなくて。
私達は、小指を繋いで歩いた。
私の手を引く将史の耳が、
真っ赤になっているのが、なんだか微笑ましかった。
すっごく、嬉しかったんだ。
小指からも、将史の小さな優しさがたくさん伝わってきた気がして。

私は、小指にギュッと力を込めて、言った。



 “今度の約束も、絶対守ってね…!”






















友人Yさんに元ネタを提供していただきました。
いや、あれなんですけどね。
修学旅行夜の定番。(笑)
なんか元からめっちゃんこ掛け離れてますけど。
必要以上に甘くなってしまった…。
いいんだ、それで!!!
でも書いてて泣きそうになった。
頭を掻き毟らなきゃ読み返せなかった。
ふぅ。。。なんともはずかC→小説です。(爆)

話自体は結構気に入ってます。
つーか荒井先輩リーベ。(らびゅ)
こんなこと言うような人じゃないような気もしますが、
いいんだ。(強引)

友人にもこの小説見せたんですが、
テニプリキャラ使ったドリーム小説だとは
気付かないだろうに。(爆死)


2002/10/11