* 争奪戦 *
「じゃーねー大石♪」
「ああ。また明日な」
菊丸は大石に手を振ると、背を向け元気に帰っていった。
大石もまた嬉しそうに手を振り返していた。
その様子を横目で見ていたのは、不二である。
「……ねえ大石」
「ん?どうした、不二」
「大石はさ、英二のこと、好きなんでしょ」
「えっ!?どうしたんだ突然」
突然の不二の問いかけに戸惑う大石。
不二は背を向けて数歩ゆっくりと歩きながら話した。
「君の英二への気持ちはみんな気付いてるよ。きっと気付いてないのは本人ぐらいだね」
「………」
大石が返事をしてこないのを確認すると、
不二はくるりと向き直り、一言強く言い放った。
「勝負しよう!」
「!?」
「宣戦布告さ。つまりは、どっちが先に英二を振り向かせることが出来るか」
不二は不敵な笑みを浮かべた。
「僕も大石と同じさ、英二のことが好きだ。だからここではっきりさせておきたい」
「そんな、英二の気持ちも考えて…」
「逃げるの?」
大石は幾分焦った表情で口を開いたが、言葉の途中で不二の一言に言葉を失った。
不二の眼は真剣だった。そしてまた、凍ったように冷たく見えた。
どんな訳があろうと、真剣な人を裏切るのは悪いことだという考えが
大石の頭には備わっていた。
大石は、低く優しく、でも強く言い放った。
「…いいだろう」
「それじゃ、決まりだね」
不二はふっと笑うと、踵を返して歩いていった。
―――次の日の朝。
「おはよー大石♪」
「……」
大石は、昨日の不二のセリフを思い返した。
そして思わずまじまじと菊丸の顔を見回していた。
「……大石?」
「えっ?ああ、ゴメン。おはよう、英二」
「…へんな大石」
菊丸も大石の異変には気付いていた。
必死にごまかそうとしても、大石の頭の中には昨日のことがぐるぐる回るだけだった。
――3年6組の教室。
「エイジ、おはよ」
「おはよー不二♪」
「英二、今日も可愛いよv」
「え〜そんなこと男が言われてもなあ」
こんないつものじゃれ合い。
教室の一角での談話。
「そういう不二も綺麗だよね〜。
あ、男に言われても嬉しくないってか?」
「いや、嬉しいよ。英二に言ってもらえるんだったら尚更ね」
不二はいつも通りの笑顔でにこーっと笑い掛けた。
それに対して菊丸も合わせて笑い返した。
――部活の休憩中。
「で、どう?大石。その後の経過は」
「どうもこうも…いつもと変わらないよ」
部活中の些細な会話。
いつもなら、この二人が喋ることは珍しいのだが。
「英二鈍感だからね。なかなか気付かないよ」
「ああ、そううだな」
「「……」」
一瞬黙り込む二人。
視線の先には、後輩とじゃれあう菊丸の姿。
こっちの気なども知らずに…。
「これはもう、英二本人に聞くしかないね」
「!?」
沈黙を破ったのは不二。
ぼそっと呟いた言葉だったが、大石の動揺を誘うには十分の言葉だった。
だって英二の性格を考えてごらんよ、と不二は言った。
「こっちが真剣な顔して『好きだよ』って言っても、『オレもだよ〜♪』とか、
『当たり前じゃん!オレたち親友でしょ』とでも言うに違いない」
「た、確かに…」
「となると直接英二の気持ちを訊くしかない、でしょ?」
「ああ…そうだな」
お互い菊丸のことをよく知っているもの同士。
意見は一致した。
行動を先に起こしたのは不二。
「じゃ、早速訊きに…」
「えっ!今行くのか!?」
「だって、丁度休憩中だし…それとも何、怖いの?」
「そんなことはない」
多少尻込みしている大石だったが、
後ろ目に見やる不二と視線を合わせると、強く言い放ち立ち上がった。
「あ、ほら。丁度英二今一人になったよ」
一緒に話していた桃城がもう一人の二年レギュラー海堂とケンカを始め、
菊丸は少し呆れた表情で二人から離れていくところだった。
そこに、二人は同時に走って詰め寄った。
「「英二!!」」
「にゃ、にゃににゃににゃに!?」
いきなり二人がすごい勢いで走ってきたと思ったら、
声を揃えて自分の名前を呼ぶので菊丸は驚いた。
そして、次の質問でもっと驚くことになる。
「「英二は一体誰が好きなんだ!?」」
「んにゃ;?え、えぇ!?」
戸惑う菊丸に考える間も答える間も与えず、
不二と大石は爆裂トークを始めた。
はたから見ると漫才のようにも聞こえるが、二人は本気である。
「もちろん僕だよね!!」
「ちょっと待てよ、ちゃんと英二の話を聞いてやれよ」
「だからそれじゃ英二は気付かないって」
「そ、そうか!英二、俺のこと好きだよな!?」
「いや、僕だよね!」
「英二、俺たちゴールデンペアとして最高のパートナーだよな?」
「僕、英二のこと大好きだよ!」
「俺も英二のことは大好きだ!」
「ちょっと真似しないでよ」
「本当のことを言ってるだけだ」
「………」
菊丸はぽかんと口を開けてその二人の様を見守るだけだった。
そんなどつき合いをしている二人だったが、
話しが一段落すると二人同時に菊丸を向き直って言い放った。
「「どっち!!」」
相変わらず二人は声を揃えて言い切った。
それに対し、菊丸は人差し指を合わせながらモゴモゴと言った。
「どっちって言われても…二人とも好きだけど」
「ダメだよ英二、二人なんて。一人に決めなきゃ!」
不二が意気込んでいった。
その気迫で、鈍感な菊丸もだんだん事態が飲み込めてきた。
「えっ?それって…もしかして……友達としてじゃない、とか?」
「そういうことになるな」
次は大石が言った。
菊丸はただただ戸惑うだけである。
「だってオレ…そんな考え方したことないし…」
小声で呟く菊丸。
しかしその言葉は二人の気迫にかき消された。
「「どっち!?」」
「え、え〜;」
菊丸が一瞬泣きそうな顔になったとき、手塚の声が当たりに響いた。
「休憩終了!レギュラーはコートに入ってサーブの練習」
ほ〜っ、と菊丸は肩を撫で下ろした。
「この勝負はお預けだね」
「ああ」
二人の闘志はびんびんだった。
菊丸はどうすることも出来ず怯えていた。
「……」
菊丸は、今日大石と一緒に帰る予定だったが、
正直な話怯えていた。
もし、さっきのような雰囲気だったら、と…。
しかし、鍵閉めを終えた大石はいつも通りだった。
「お待たせ。じゃ、帰ろうか」
「! うん♪」
いつも通りの帰路に着く。
いつも通りの会話。
しかし、菊丸は今日の二人の行動が不安でならなかった。
意を決して、菊丸は大石に訊いた。
「…ねえ大石ぃ」
「ん?」
「なんでさ、今日…オレにあんなこと……言ったの」
「ああ……」
大石は、菊丸の問いかけに戸惑った表情を見せ、固まった。
菊丸は、自分で問いかけておきながら、
困っている大石をフォローするように言った。
「オレさ…二人がオレのこと好きって言ってくれたの嬉しかったし、
俺も二人のこと大好きだけど…でも…。
それは、きっと同じ“好き”でも意味が違うし…えと、
……どっちか一人なんて決めらんないや!」
「英二…」
つたない言葉だったが、大石には十分気持ちは伝わったようで、
穏やかな笑みを浮かべていた。
「だから、その…オレのためにケンカとか…しない、で?」
「…英二は優しいな」
上目遣いに見上げながら喋る菊丸の頭を撫でて大石は言った。
二人が微笑み合った、その時。
「話は全部聞かせてもらったよ、英二」
「んにゃ!不二!?」
ポンと菊丸の肩をたたき登場したのは他でもない不二だった。
「いつからいたの?」
「ん、ずっと。気付かないほうが不思議だったよ」
「ウソ…;」
菊丸は困ったような恥ずかしがったような表情を見せた。
「っていうか大石さり気なく英二に触るの禁止」
「なっ!?頭に手を乗せただけだろう」
「いんや。下心見え見え。少なくとも僕にはそう見えた」
「なんだよそれは…;不二だって英二の肩に手を乗せただろう」
「あれはスキンシップだよ」
「どこが違うんだよ!」
「んにゃ〜!だから二人ともケンカはやめてってば!!」
菊丸はまた始まった二人のどつき合いとうとう叫んだ。
「ごめんごめん、でもこんなのケンカのうち入らないでしょ」
「う〜…でもぉ〜……」
「うふふ、英二可愛いv」
不二はそんな菊丸をなだめた。
その様子を大石は苦笑しながら見ていた。
すると突然菊丸ははっとし、真面目な表情になり不二に伝えた。
「不二、そういうわけでさ、オレ…どっちか一人なんて決められない…ゴメン」
「ん、いいんだよ」
不二も穏やかな表情だった。
菊丸の表情もぱっと明るくなる。
「そんな英二だからこそ、僕たちが好きになるんだもん」
そういうと、不二はチラッと大石を見やって言った。
「この勝負、英二の一人勝ちだね」
「だな」
そして、二人は顔を見合わせ苦笑した。
それを見た菊丸も嬉しそうに微笑んだ。
「良かった!二人がいつも通りに戻って…」
しかし、その言葉を聞くと二人は同時に菊丸のほうを向き直し、言った。
「でも、僕は諦めたつもりはないよ」
「俺もだ」
「え…え〜!?」
そして三人は顔を見合わせて笑った。
暖かい春の陽気の中で……。
その後、菊丸の心は誰のものになったのか…?
それはまた、別の話。
ぷひゃ〜!(深呼吸)
遅くなりました、1000HIT小説。
k小路さんに捧げます。ほんと遅れてすまんそん。(何)
大石→菊丸←不二な小説でした。
う〜ん…難しい。
でも結構楽しかったです♪
その後英二さんは誰を好きになったのか。
突然リョーマさんとか言ったら笑えますね。(いや、誰でもいいんだけどさ)
不二が結構白い?真っ黒くはないと思う。
っていうか二人ともバカ。(涙)
なんで漫才なんかやってんだ?(汗)
まあいいや。(爆死)
ちょっとギャグ風味?ですかね??
2002/08/13