わかってたよ。


 いつかはこの日が来るって。



 わかってたよ。




 時間なんて絶対止められないんだから―――。











  * 距離≠愛情≒笑顔 *












「引っ越し!?」

「うん……」

あたしは、否定なんてしなかった。

だって、ほんとのことだから。

隠したって、どうしよもないことだし。



ここは、あたしの家。

大事な話があるって、シュウを呼んだ。


―シュウと付き合い始めたのは、丁度3ヶ月前。

それからは、毎日の何もが楽しくって。

今思うと、夢のような日々。

これからも続くと思ってた。

でも……。

『ヒッコスコトニナッタノ』

さっき、あたしはただそれだけを一言伝えた。

否定できない事実。

辛くても、それが現実。


今思うと、短かったな…3ヶ月。




「えっ…引っ越すって…どこに?」

「…ドイツ」

「ドイツ!?」


いつも冷静なシュウが、少し動揺した声で訊いてきた。

あたしは、ただほんとのことを伝えただけ。

案の定、驚いてました。

えぇ、それはまあそうでしょうね。

あたしだって、知らされた時は驚いたよ。

でも、今ではそれを現実として受け止めてる。

そうなるまで…結構時間はかかったけど。


「…ドイツか。……遠いな」

「っ…」


一瞬、心臓に針が刺さったみたいにチクッとした。

でも、あたしはいつも通りを装って話を続けた。


「今月のね、26日…。飛行機、もう決まってるんだ」

「26日って…もう10日しかないじゃないか!」

「そうだね」

「そうだねって…」


あたしは素っ気なく答えたけど。

それは本当は涙で震えそうな声を必死に抑えているから。

冷静さを装えば、
少しだけ悲しみも紛れるんじゃないかって…。

感情を押し殺してしまえば、
別れも辛くなくなるんじゃないかって…。


だから、必死で我慢した。


「ごめんね。本当はもっと前からわかってたんだけど…。
 なかなか言う決心がつかなくて…」

「ん…それはいいよ。も、悩んだんだな。
 いろいろと…辛かっただろ?」

「……」


こういうとき、シュウの優しさが余計辛い。

優しすぎちゃって、切ない。



本当は、今すぐにでも飛びつきたい。

離れたくないって、叫びたい。


でも、それは叶わぬこと。


余計な心配はさせたくない。

これ以上別れを辛くさせたくない。


だから、ちょっとだけ、我慢する。



それで別れが辛くなくなるのなら…。



「それで、向こうにはどれくらいるんだ?」

「3年…か4年くらい」

「そうか……」


今…声すごい震えてたかも…。

なんか…涙目なってきたのわかるし…。


とりあえずシュウと視線が合わないように、
わざと右斜め下を見た。

ベッドの上に腰掛けてるあたし。
ベットにもたれかかるようにして座ってるシュウは、あたしの左側。

これなら、顔を見られることもない。


今にも涙が溢れんとしてる、あたしの顔…。




辛い。辛いよ。

このやり場のない涙は、どうしたらいいの?

行き場のない感情を、どこにぶつけたらいいの?



「ま、もう一生会えないってわけでもないしさ、
 あんまり暗くなるのやめよう!」

「……」

「あと…残り少なくなっちゃったけどさ、その間、思いっきり楽しもう!」

「シュウ…」


シュウは、必死にその場を盛り立ててくれた。

あたしのこと、気遣ってくれてるんだね。

良くわかる。


…そうだよ。シュウはなんだかんだいってわかりやすいんだよ。

今だって笑ってるけど、作り笑いでしょ。

あたしの眼は誤魔化せません。

いつも…見てたから。

ホントの笑いと作り笑いの違いぐらい、わかりますよーだ…。

…だから余計に悲しい。


『ポーン…ポーン……』

「あ……」

その時、あたしの部屋の時計が6時を示す鐘を鳴らし始めた。

「もうこんな時間か。それじゃあ、俺そろそろ帰るから…」

「うん。また明日ね」

「ああ。また明日」

『パタン』

「…………」


シュウが帰ると、部屋には静寂が訪れた。

それが、また淋しさを漂わせた。

「シュウ……」

でも、結局あたしはこの日、涙は流さぬまま堪えた。




―次の日。


ホームルームの時間に、担任があたしの引っ越しのことを皆に告げた。

みんなが一斉にこっちを向いた。

でも、あたしの席の右斜め前に位置するシュウ。

シュウは、こっちを見ようとしなかった。


みんながざわつき始めると、先生はそこで話を終わりにした。

学級委員…シュウの掛け声で、みんなそろって起立をして、礼。

その瞬間、いつもならバラバラに散らばりだすみんなが、
今日は一斉にあたしの机に集まってきた。


!ほんとなの!?」

「うん…」

そりゃ、あんなこと嘘つくわけないでしょうが、
といつもなら突っ込んでるところだけど。

みんなの余りの気迫に、少し引き気味に答えて、終わりにした。

「え〜マジで〜!?」

みんな、悲しそうな顔をした。

だって…ほんとのことだもんよ。

何さ。あたしだって泣きたい気分だよ。

でもそんなわけにはいかないし。


そしたら、そのうちの一人はこんなことを言った。

「そのことは…もう大石は知ってたの?」

「え…うん。昨日…伝えた」


どんなことを訊くかと思えば…そんなことを。

確かに…あたしがシュウと付き合ってるって話は、結構有名だけど。


「んで、なんて言ってた!?」

「え?いや…驚いてたケド……」

「だよね〜」


そこまで言うと、みんなはシュウのことを見てた。

シュウは、クラスの男子と談笑をしていた。


「何さ…こんなにも可愛い可愛いちゃんが旅立ちだというのに、
 呑気に笑ってる場合かね?」

「え〜あたし可愛くなんてないし〜。それに…」

友人の話を軽く受け流し、もう一度シュウの方をチラッと見た。

…う〜ん。やっぱりなぁ…。

笑ってるけど…空笑いっぽい。

あたしが打撃与えちゃったみたいね…。

ま、今日担任通してみんな同時に言われるよりは、マシだと思うけど…。

あたしの価値観かね?

いつか伝えなきゃいけないのは、同じだし。

あ〜…目の下クマ作っちゃってさ。

昨日あんま寝てないな、ありゃ…。

……他人事みたいだけど。


『キーンコーンカーンコーン…』

「あっ、チャイム」

誰かがそう言い、皆自分の席に散らばっていった。


…はっきり言って、もう授業受ける必要ないんだけどね。

ま、とりあえず聞いとくけどさ…。




その後、あたしは質問攻めにあったりしたが、
特にいつもと変わらぬまま、一日を終えた。

ただ、帰り道、シュウにはやはり元気が無かった…。




そして、3日後…。


「あ〜あ。今日で今学期も終わりかぁ」

「……」

あたしの前の席で親友のは、そう呟いた。

今は通知表を配っている時間である。
自分の番が来るまでの間は、はっきりいって暇なのだ。

その間に、みんなはお喋りをする。


「あ…今学期っていうか、はもう今日で学校最後じゃん!」

「ん、そうだね」


はすごい勢いでこっちを振り向いて言った。

あたしは、もう既に承知していたことなので、落ちつた口振りで答えた。

「あ〜淋しいな〜。無しじゃうちのクラス合唱コンどうすんのさ」

「大丈夫でしょ。体育大会からの2連覇狙ってよ!」

「ん〜そうだけどさ〜…」


はつまらなそうに言った。


「なんかがいないと盛り上がりに欠けるんだよ!」

「そ、そう?」


確かに…あたしいっつも行事ごとになると結構大騒ぎしてたからなぁ…。

お祭り好きなのよね、つまり。


ああ…そういえば、こんなことあったな。

体育大会で優勝したときのこと……。





『やったね!このまま合唱コンクールも優勝狙っちゃおうよ!』

『でもな〜。うちのクラス個人技強いけどまとまり無いから…』

『なに学級委員が弱気なこと言ってるの!頑張ってまとめてよ!』

『…そういうだって周りとの協調性無いだろ』

『な…!そんなことないよ!あたしが何か言うとみんな笑ってくれるし〜…。
 それにそれに…』

『それは周りを巻き込んでるって言うの』

『ぶ〜……』




思えば、あの頃は凄く楽しかったな…。

もう、今となっては過去の思い出…。





「……そうだ!」

「え、あ、何?」

の叫び声で、あたしは現実に引き戻された。


「クラスのみんなでさ、パーティーみたいのやろうよ!
 カラオケかどっかにでも行ってさ〜♪」

「あ…楽しいかも」

「最後の思い出作りだよ!ね?いいでしょ?」

「うん…やりたい!」

「よーし決定!ねえねえみんな…」


こういうものを企画するのが好きなは、
早速その旨を皆に伝えていた。


「ねえ、25日、前日だけど…平気?」

「あ、うん…平気だと思うよ」

「よし!んじゃ、決定!!」


おぉ…なんか…楽しいかもしれない。

最後の、思い出作り……。

それが終わったら、もう、無いんだね…。


「それじゃあ後で先生に時間もらってみんなに伝えよう!」


さすが、行動が早い……。



そうして、とうとう帰りの時間になった。

帰り際に門の所まで来ると、当分見納めとなるであろう学校を振り返った。

少し、淋しかった。

ありがとう。今まで二年三ヶ月過ごした、学校。





―7月24日。


あたしは、もう既に荷造りを終えて、はっきりいって暇だった。

荷物のほとんどはダンボールの中だ。

残っているのは、ベッドだけ。

部屋中ダンボールって、落ち着かないな…。


そんな時、電話の音。

ー!電話出てー!!」

お母さんの叫び声。

何やら今は手が離せないらしく、電話を任された。

受話器を取る。


「もしもし…あっ…シュウ!」

『うん…。、今暇か?』

「暇だけど…どうして?」

いきなりの電話に、あたしは驚いた。

そりゃ、電話はいきなり来るものだけどさ…。

『だったらさ、どっかでゆっくり散歩しながら話でもしないか?
 ほら、明日はパーティーがあるだろ。
 二人でゆっくり話せるのも…最後かと思って……』

「あ……」

そっか。それもそうだな。

考えもしなかったよ。

『それじゃあ、今からの家行くから』

「ん。わかった…」


……。

シュウ…。

もしかして、あたし以上に淋しさ感じてくれてるのかな?

それはそれで嬉しいけど…。

あたしが鈍感なだけ?

とりあえず、今日で、最後になるかもしれない…。

それは、変わりもしない事実。



『ピンポーン』

「はい!」

暫らくして、ドアのベルのなる音がした。

あたしは急いで駆け出した。

シュウが、立ってた。

いつもと、何も変わらないように感じた。



オシャレして。

ドアの前でウキウキしながら待ってて。

5秒刻みぐらいに時間気にして。

チャイムが鳴った瞬間にドアを飛び出る。


ただの、いつもと同じデートみたい。

でも、確実にいつもとは違う。


「……行こうか」

「うん…」


いつもなら明るい気分で弾む会話も、今日は話題すら浮かばない。

無言で、あたしたちは歩いた。

何も言わず。宛てもなく。

でも、自然とあたしたちの足先は同じ方向に向かってる気がした。


「……やっぱり、ここについちゃったね…」

「そうだな」


辿り着いたのは、小さな公園。

あたしたちの、一番思い入れのある場所…。


そして、そのままブランコへと向かって座った。


「よいしょっと」

「……」


あたしはゆっくりと足でブランコをこぎ始めた。

そんなに思いっきり漕ぐわけでもなく、なんとなく。


「…ここに来たの、何度目だろな…」

「わかんない…とりあえず、いっぱい」

「そうだな…」


もう夕日は半分沈んでいる。

公園にはもう他には誰もいなかった。


あたしたちは、思い思いに話し出す。


「ここにいると、いろんな事思い出すね」

「ああ…学校帰りに何となくここに寄ったら、夕立が来て
 ずぶ濡れになって帰ったこともあったな」

「うん…先にあたしたちがここで喋ってたのに、「大人はどけ」とか
 小学生に言われたこともあったね」

「はは…あの時はおもしろかったな。
 本気になって「あたしはまだオバサンにはなってない!」とか
 怒ってるんだもん」

「だって〜…中学生だよ〜、うちら」

「うん…」


交互に思い出を語り合った。

話題は、尽きない。


「前に一回だけ大喧嘩したけど、仲直り場所はここだったな」

「だって〜…ここの雰囲気好きなんだよ〜。なんか、話しやすいじゃん?」

「俺も好きだ」


風が吹いた。

顔に掛かってきた髪を、耳に掛けた。


大きくて真っ赤な夕陽が、地平線のかなたに消える瞬間だった。


「あと…あれだね」

「ん?」

「ファーストキスもここじゃない?」

「あ〜…そうかもな」


シュウの方を見た。

恥ずかしがっているのか。
少し首を反対方向に傾けていて、表情は読み取れなかった。


「ほんと、いろいろあったね…」

「ああ…」


そう…そして何より、ここは…。


「あたしたちの始まりの場所だもんね」

「…ああ」



今でも、あの時のことは思い出せるよ。


あたしがここに呼び出したのに。

何故か、告白してきたのはシュウの方だったね。


あの時は、思わず笑っちゃったよ。

でも、本当に嬉しかったのを憶えてる……。



ふいに、上を見上げた。

「……キレイ」

「ん?……ほんとだ」


思わず声が漏れた。


夕日は完全に沈み、でもまだ西の空は少しオレンジがかっていて。

空全体は薄い青色。

一番星が出始めていた。

その星たちが、綺麗に瞬いていた。


「…あ!それより、時間は平気か?」

「あ〜…そろそろ帰らなきゃかも…」


しまった。時間のことなんかすっかり忘れてたよ。


居心地良くて…。



もっとここに居たい。


もっと一緒に居たい。



「じゃ、。帰ろう」

「ん……」


シュウは先にブランコから立ち上がった。

あたしは名残惜しくて、座ったままでいた。

そしたら、シュウは手を差し伸べてくれた。


「ほら」

「うん…」


その手を掴んで、あたしはようやく立ち上がった。

そのまま、手は離れる事無く歩き続けた。


あたしは、シュウのことを見上げた。


…150ちょっとしかないあたしの身長。

その差は、大きかった。


「シュウ………ずるい」

「どうした、突然?」

「その身長分けてよ」

「え……」


なんてね。

ちょっと困らせるために言っただけ。

でも、たまに本当に感じる、20cm以上の大きな差。


…それはちょっと無理が…」

「だってさぁ!顔一個分違うんだよ!?
 なんかさぁ〜…距離感じるっていうか…」


思い切って大告白でございます。

どうせ最後だし、ね。


「え〜でも…はそのままがいいよ」

「あたしが良くないの!」


上目遣いに見上げながら言った。

自然に、そういう配置になってしまうんだけど。


「小さくて可愛いじゃん?」

「むぅ…」


そりゃあさ。

シュウを抜かしたいなんては思わないよ。

でも…つり合わないとか、ないかなって。

たまに、考えちゃうんだよ…。


「あとちょっとでいいから身長欲しぃ〜…」

「じゃあ、どれぐらい欲しいのさ?」


…いうのか?

あたしの目標身長……。


「……155」


思わず小声。

シュウも、意表をつかれた感じで固まってる。


「…それでいいのか?」

「……」

「ぷっ…はははは!」

「何よ!笑うことないじゃんか!!」


シュウは笑ってた。思いっきり。

ヒドイ…。

結構本気なんだけど。


「ゴメンゴメン、でも、なんからしいなって」

「何だよそれ〜」

「今のままの、がいいよ」

「……」


そうだね。


今のままで、居られたらいいのにね…。

と、思ってたら、シュウはこう言った。


「目標、155だっけ?」

「え、うん…」

「頑張れよ、あとちょっとじゃないか」

「そうなんだけどね〜…」


そのちょっとが伸びないのよ、これがまた。


「いいんじゃないか?」

「へ?」

「それぐらいの、目標がさ」

「…?」

「遠すぎず、でも追いかけていけるような、目標」

「シュウ…」


そうだね。それもそうかもね。

人は、少しずつ変われるんだね。

変わっていける、目標があれば。



「でも155でも差は20cmなんだよね〜」

「いいじゃないか、それぐらい」

「どうせなら165ぐらい目指そうかな」


あたしは呑気にそんなことをいった。

きっとシュウはそれに突っ込んでくる。

いつもの会話…。


「いや、それは…」

「何、無理だって言うの!?」

「や、そうは言わないけど…」



そうして二人話していると、帰り道はあっという間だった。


いつもより別れが名残惜しいのは、残された時間を意識しているから?

後ろに見えた星が余りに綺麗だったから?


「それじゃあ、また明日な」

「ん」



『また明日』


この言葉が聞けるのは、もしかして今日で最後…?


明日になったら、“また”は無くなる。

止めることの出来ない、時の流れ。


いくら願っても。

いくら惜しんでも。



それでも、時間は流れて行く――。












わかってたよ。


いつかはこの日が来るって。



わかってたよ。




時間なんて絶対止められないんだから―――。








「それじゃあ、の旅立ちの無事を祈って、カンパーイ!」

「「「カンパーイ」」」



あたしたちは今、カラオケボックスの中にいる。

一番大きな部屋にしてもらったものの、そこは相当狭い。

こなかった人もいるが(男子は半分ぐらいが来ていない)、
それでも20人は居る。相当な込み具合だった。


「それじゃあみんなどんどん歌って飲んで食べて騒いでね!!」


やはり今日もは張り切っていた。


他の人達も、だんだん騒ぎ始めた。



とても楽しかった。

時なんて忘れていた。

別れが近いなんて感じる余裕も無かった。


それほど、大騒ぎした。



でも、現実は変わらない。


「明日、だね」

「……」

に話し掛けられた。


忘れていたことが、一気に甦った。


「あ〜ほんとに淋しくなるな〜」

「ん〜」


あたしだって淋しいよ。

とは、口には出さなかったけど。


「クラスのムードメーカーだったあんたがね〜。
 いなくなったらそれは静かになるわ!」

がいれば平気でしょ」

「ん?何それ」


笑い話にして、淋しさを必死に紛らわした。



…あれ?

そういえばさっきからシュウが居ない。

隣りにいたはずなのに…。

トイレにでもいったのかな。


「あ、住所教えてよ、向こう着いたら。まだわかんないんでしょ?」

「うん。落ち着いたら手紙書くよ」


「ね〜、最後に写真撮ろうね〜!」

「うん」


「ね、ね、最後にみんなでに一曲歌ってあげようよ!大合唱!」

「あ〜いいかも〜!!」

「最後の思い出作りみたいな?」

「サイゴの思い出ね〜!」

「え〜でもサイゴはで締めた方がいいかもよ〜」


『サイゴノ』

『サイゴハ』



 最後


 さいご


 サイゴ 



 サ イ ゴ




 サ


   イ


      ゴ








「………っ」



ヤバイ…。


突然辛くなってきた。




泣きそ………。





「あ……あたしトイレっ!」

!?」



あたしは思わずその場を駆け出した。

溢れてきた涙が、零れ落ちるその前に。







でも……。


ドアを出て直ぐ曲がったその場に、誰かがいた。


ぶつかると同時に、抱き締められた。



顔は見れなかったけど、
もちろん誰かなんて、一瞬でわかった。



あたしの顔は、その人の胸にすっぽり収まった。


感じていた、20cm以上の身長さ。

でも、そうでもなければ、今の私は、自分の顔が剥き出しだ。

優しく、でも強く。抱き締めてくれた。


上から、優しい声がした。



「我慢しなくていいよ」

「……」

「こうしてれば、誰も見れないから」

「しゅ…う……」



その言葉が優しすぎて、とうとう私の涙は一気に溢れ出した。


表面張力が働いてたみたいな感じで、さっきまでは平気だったのに
一度流れ出したら止まらなくなった。



「泣きたい時は、俺がいるから」

「……」



背中に回った腕に力が少し加わった。
あたしは何も言わずただ聞いていた。

というよりかは…何も答えられなかったんだけど。


そうしたら、彼の口から出たこんな言葉。

「いつでも傍にいる…っていうのは無理になっちゃうかもしれないけど、
 でも、気持ちは…いつでも一緒だから…!」

「……」


涙が止まらなくってあたしは返事が出来なかった。
とりあえず、首を大きく上下に振った。


いつの間にか、涙が出る理由が変わっていた。



さっきまでは、別れの涙。悲しみの涙。

今のは、嬉し涙。喜びの涙。



正確にいうと、ただ嬉しいだけかっていったらそれは違うけど。

でも、あたしはいつになっても独りじゃないね………。



「ほら、。まだ今生の別れってわけじゃないし…」

「うん…そうだね」

あたしはゆっくりと顔をシュウの胸から離した。

それで、笑った。

不自然な笑顔じゃなかったはず、とりあえず、自分としては。


あたしが笑ったら、シュウも笑い返してくれた。

良かった。


大好きな、笑顔だ。

 

そうだね、あたしたち、離ればなれじゃないね。


いつでも、傍にいるから。



気持ちは、一緒だから……。







 ***






「………」


今は、飛行機の中。

窓から、遠ざかっていく日本が見える。



さらば、日本。

グッバイ、エブリワン。



バイバイ…シュウ……。




淋しいけど、大丈夫だよ。


いつでも、一緒だから。心の中で…。

気持ちは、どこへ行っても繋がってるから。




あたしがまた帰って来たときは、歓迎してくれる?


またその笑顔で、迎えてくれる?



大丈夫だね、きっと。





あたしたちの関係は、距離なんて関係ない。

笑顔一つで、気持ちは繋がる。




どこへ行っても、青い空の下。





また会えるから―――…。






















ぷひゃ〜!(深呼吸)
一日で書き上げました…。
疲れた。
時期ネタだから早めにアップしなきゃと思って…。

ところでこれ、設定モロ自分に合わせちゃったんですけど、
他の方が読んでておもしろいんですかね;?
心配です。
ま、自己満ってことで。(ぉ

細かいところ解説。
公園で二人が語り合ってるシーン。
実は、その思い出の話一つ一つの小説にしようかと。
少なくともファーストキスと告白の話は
頭の中に浮かんでます。*ノノ
いつか書きたいな…。
ケンカものもよいですね。
ふふふ。。。(怖)

そんなわけで、管理人本人もドイツへ旅立ってきます。
また向こうでも夢みたいと思います。(笑)
ではでは…。


2002/07/17