* 虹の出る日 *












(雨……)

窓の外は、しとしとと降り続く雨。
さほど勢いは強くないが、当分止みそうに無い。
学活中に窓の外を見、菊丸は溜息をついた。

「――礼。さようなら」
学級委員の号令と同時に、ガヤガヤと騒ぎ出し散らばる生徒たち。
いつもなら、そのまま部活へ直行する菊丸だったが、今日は雨。
屋外で活動するテニス部は、今日は中止であろう。

(雨ってにゃーんかヤな感じ〜)

菊丸は思わず床に視線を向けた。


 今日はいい気分になれない。
 雨が降っているから…まあ、それもあるけど、何よりも…。


バサッ

菊丸はやる気なさ気に1冊の本を机の上に広げた。
『学級日誌』
そう、彼は今日、日直なのだ。

(めんどくさいにゃー)
心の中でお得意の猫語で呟き、大きな溜息を1つ落とした。


その時、教室の入り口から聞き慣れた声がした。

「英二」

その声にはっと振り向く。大石だった。
「今日はもう部活無いから帰るだろ?」
いつもなら喜んで一緒帰る菊丸だったが、今日はそうもいかない。
「あー…ゴメン。オレ日直の仕事があるから…」
「そうか…」

そういうと、大石は何処かへ行ってしまった。

「……ちぇっ」

自分で断っておきながら、悔しさが身をよぎった。


 ******


「でーきたっと」
誰もいない教室で1人呟く。
外の雨は、まだ降り続いている。

「後はこれを職員室に届けるだけー…あ」
ここへ来て、彼は重大な事に気付いた。

「傘持ってきてないや…;」

 ***

職員室へ向かう途中廊下から外を見ると、
傘を持っていないことを認識したからかどうなのか、
雨脚がさっきより強くなっている気がした。

「どうしようかにゃ〜」

とりあえず、職員室へ急いだ。


 ******


「失礼しまぁーす」
ドアをノックして中へ入る。

「先生、日誌持ってきました」
「はいはい、ご苦労様。…あ、そうだ。ついでと言っちゃ悪いんだけど…」

菊丸は、その瞬間に“嫌な予感”というのを察知していた。
先生から視線をそらすと、そこには詰まれた本の山があった。

予感は的中した。

「その本を図書室まで持って行ってくれないかな?
カウンターの上においておけばいいから…ごめんね」
「はぁ…」

今日は厄日だ。菊丸は心底そう思った。


 ******


「よいしょっと」
カウンターの上に、運んできた重たい本を置いた。

「これでよしと。やっと帰れるにゃ〜」
そう思った菊丸だったが、直後に固まった。

「傘持ってないんだった…」
どうしようかと一瞬考え込んだ時、背後から声が掛かった。

「ちょっと」

「ほえ?」
「借りた本はちゃんと本棚に戻してください」


図書委員長だった。
女子生徒ではあるが、そこら辺の教師より威厳が大きい。
逆らう事が出来るはずも無く、
借りたわけでもない本を片付ける事になった。

(ホント厄日だにゃ)

今日はいいことが1つも無い、そんな気がした。


 *********


片付けも終わった菊丸は、玄関へ向かった。しかし…。

(どうしようかにゃー)

日直の仕事だけならともかく、先生の用事にも付き合わされたため、
既に結構な時間である。
もうこの時間に生徒はほとんど残っていないだろう。

 しかし、雨は降り続いている。
 そして、傘は持っていない。

「…走って帰るしかにゃい…か」

靴も履き替え、走り出そうとした。その時。


「英二!」

「―――!」

言葉も無く振り返ると、そこには最愛の友、大石の姿があった。

「お…いし……?」
「随分遅かったな。ご苦労様。じゃ、帰ろうか」
大石は、立ち尽くす菊丸にも気付かずに、傘を開いて歩き出そうとした。
しかし、菊丸は立ち止まったまま動かない。
ただ、目は一点を見つめたまま口をあまり動かさずに言った。

「どぉ…して?」
「ん?」

「今日…日直だからってゆったのに…」

大石は、軽く息をつくと肩越しに微笑んでいった。

「『先に帰る』とは一言も言わなかっただろう?」
「!」


「ほら、何やってんだ。行くぞ!」
「ほいほ〜い♪」

菊丸はタッと足を踏み出した。友の元へ。
さっきまで、“今日は厄日”なんて思ってた事なんか
忘れているに違いない。
むしろ、“今日はいい日だ!”というような気分でいるであろう。

ところが、彼は玄関の外に出て気付いた。

「あ゙ぁ゙っ!」
「どうした?」
「傘持ってにゃい〜;;」

すっかり忘れていたようだ。思わず涙目になる。

「なんだ、そうならそうと早く言えばいいのに」
「へぇ?」

相も変わらず冷静さを保つ大石に、
菊丸は情けない声を出し、彼を見上げた。すると…

「これでいいだろ?」
大石は2人の丁度頭上になるように傘を掲げた。にっこりと微笑んで。
「もちろん!…サンキュっ」

そうして、2人肩を並べて歩き出した。


 1つの傘の下。
 2つの人影。
 2人だけの空間。


それがなんとも楽しくて、話題尽きる事無く喋り呆けていた。
傘に当たる雨音が段々小さくなっているのも知らずに…。



もうお互いの事しか見えてない2人だったが、
菊丸が視線を感じてあたりを見回した。

(にゃ〜んかあの女の人こっちジロジロ見てくるにゃ〜…あっ!)
「どうした?英二」
「大石!もう雨降ってないみたい!」
「えっ?」
傘から手を出して菊丸が言う。
大石も傘を頭上から下ろす。

「ほんとだ」
「いつから止んでたのかにゃ〜、バカみたいだねうちら」
「そうだな」
大石は傘をたたみながら苦笑いした。
雨が止んでいるどころか、いつの間にか空は晴れ渡っている。

「そっかぁ〜。だからあの日とこっちの事ジロジロ見てたのかぁ」
(ジロジロ見てた?それって…)
違う意味なのでは?と大石は思い苦笑した。
その時、ある事に気付き菊丸は大石の制服を引っ張った。

「大石、見て!虹…!」
「―――――」

2人は空を見上げた。
いつの間にか雲もなくなった空は、
どこまでも遠く澄み渡っていた。
太陽の光が空気中のプリズムを受け、七色に広がる。

「キレイ…だね」
「ああ」

菊丸は、大石の方に体を向け直していった。
「なんか、オレ雨の日って好きかも」
大石は、それに対してにっこり微笑んだ。
「今日は、とぉーってもいい日だった!」

菊丸は、既に今日起こった出来事は思考から抜けていた。
心に残ったのは、
友情、優しさ、楽しいおしゃべり、そして
雨上がりの空。



   雨が止めば虹が出る
   嫌な事があればいい事もある―――






















初大菊小説ですね。
書いたのは大石ドリームより先ですから
初テニプリ小説だったりします。
(アップは遅くなりましたが)

なんか…お決まりでお約束な話。(笑)
相合傘は基本過ぎだね。あかん。
というか、文才のなさが目にしますね;
一人称じゃないから途中
大石中心になりかけましたよ!
戻すの必死でした;;(汗々)
いかんな、修業しよう。。

最後の2行、ホントはない予定でした。
というか、本当は菊丸が玄関を飛び出すあたりで終わるはずでした。
そしたら、これ書いてる最中にですね。
転校した友達から手紙がきてですね。
最後の2行はその封筒に書いてあったのですよ。
あ、なんかピッタリかも〜ということで急遽追加。
これも運命なんですかね。(ぇ
最初の予定の部分までであっさり終わらせるのもいいかと思ったのですが。
せっかくだし。うん。


2002/3/31